第27話 氷の魔女、狼狽えて墓穴を掘る

「ん……頭痛い」


 射し込む太陽の光が眩しくて、瞼を開くと頭に鈍痛に似た痛みが走ります。

 気分がよろしいと言えませんわ。

 むしろ最悪に近いですわね……。


 ようやく開けた視界に入ってくるレオの顔でした。

 に逃げられないようにしっかりと抱き締められています。

 


「ふぇ? ええ?」


 全然ではありません!

 何も着ていませんし、レオも……着ていませんわ。

 つまり、素肌で密着しているってことですの!?

 それに上に騎乗っているのはなぜですの?

 素肌でこんなにも密着していて、こんな体勢だなんて……もしかして……もしかしてですの?

 お腹に当たっている熱いモノのはレオのよね?

 もしかしなくても襲ってしまいました?

 私が……?


「リーナ、おはよう」

「ひっ!? レ、レ、レオ? お、おはようございます」


 目が合っただけでこんなに心臓がドキドキするのはやましいことがあるからではなくって。

 そ、そう恥ずかしいからですわ。

 どうして恥ずかしいのかは良く分からないのですけど、心臓が苦しいのです。


「あ、あのもしかして、私、何か……いえ、何もしてませんよね?」

「何って、何のことかな? 僕は分からないよ」


 レオが微笑んでいるのですけど、まるで捕食者が獲物を前に大きな口を開けているような錯覚に陥るのです。

 気のせいかしら?


「で、で、ですから、その……あの……してしまいましたの?」


 恥ずかしくて、顔の温度が急上昇した気がします。

 もう真っ赤になっていて、みっともないと思うのです。

 同時に年上なのに軽率なことをしでかした自分が本当に情けなくて。

 変な汗が顔を伝っていくとともに血の気が引いていきます。

 赤くなったり、青くなったり、変な女とお思いでしょうね。


「昨晩のリーナはすごくエロかったよ」

「ふぇぇ、その言い方って……やはり、取り返しのつかないことをしてしまったのね」

「取り返しのつかないは大袈裟だよ。いつもより、ちょっと積極的だっただけじゃない。手や口でしてくれるリーナがすごくエロかっただけ」

「ふぇぇぇ!? エ、エロいって、な、なんですの?」


 今、何て、仰いました?

 手? 口? 私が?

 レオのを……しちゃいましたの?

 そう言えば、夢の中で何かを食べていたような……。

 串に刺した大きなソーセージを周囲の目を気にせず、食べる夢だったのですけど、あれがまさか……や、やだぁ。

 よりによって意識が無い時にそういうことするの、私!


「ど、ど、どうしてですの?」

「どうしてって言われてもリーナが上になって、してきただけだからなぁ」


 自分から求めて、色々したってことですの?

 終わってますわ! 終わってますわ! 終わってますわ!

 翌日の新聞に容疑者は十七歳で十二歳の少年に猥褻な行為をした疑いと書かれるのでしょう。

 さようなら、私の人生。


「あ、あの……迷惑でしたでしょう?」

「何で? むしろ、リーナがかわいくて、気持ちいいことしてくれるんだよ。断る理由ある? ないよね」

「ふぁ?! かわいい……私が? うふふっ。って、喜んでいる場合ではありませんわ」

「僕達を止めるものなんて、もう何もないんだ。リーナはもっと素直になっていいと思うんだ」


 そう言うとレオは私を抱き締めている腕に力を入れてきます。

 身動ぎ出来ないくらい力強く抱き締められて、気付いたら、また唇を情熱的に奪われていました。

 どうして、そんなにキスが上手なんですの?


 でも、彼と口付けを交わしているだけで幸せになれて。

 それから、何度も互いの唾液を交換し合う深い口付けを交わしている間に自分の失態をほぼ忘れてしまいました。

 これだけは忘れてはいけません。

 『お酒にだけは気を付けましょう』と固く、心に誓って。



 お昼を宿の方で軽く済ませた私たちは最近、若い女の子の間で人気があると評判のパティスリーでとりあえず、ショーケースのケーキを全て、一品ずつ買いました。

 レオは『そんなに食べれるの?』と驚いていたので『女の子には別腹がありますから、平気ですのよ?知らなかったのかしら?』と答えておきます。

 間違ってないと思うのですけど、問題はありません。

 収納ストレージに入れておけば、保存されるのですから、いつでもケーキ食べ放題ですわ。


「リーナ、約束は約束だからね?」

「分かってますわ」


 バノジェを離れて、船の旅を始めるにあたって、バノジェを一望出来る小高い丘を訪れている私たちはこんな場所でピクニックならぬケーキバイキングを開いています。

 走り回って、はしゃぐオーカスを追いかけるアンを微笑ましい光景と眺めながら、ケーキを一口サイズに切り分け、レオに『あ~ん』と食べさせて幸せな気分に浸っていました。

 約束という言葉に自分の迂闊さを呪います。

 昨晩、お酒のせいで失敗したことに気付き、狼狽えてしまった挙句、まんまと口車に乗せられ、約束させられたのです。


「はい、どうぞ」

「もきゅもきゅ……今日のお風呂でいいかな」


 ちっ。

 ケーキで誤魔化されませんでしたわ。

 レオはどこでそういう知識を得ているのかしら?

 いいように弄ばれている感じがしてなりませんわね。

 それだけ、私のことを好きでいてくれるって、感じられるのは嬉しいのですけども。


 でも、お風呂なら人目もありませんわ。

 気にしなくても平気なら、大丈夫……ではないわね。

 私の身が平気でない可能性が高いんですもの!

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