第21話 長蛇号
この世界アースガルドにおける大型船舶は木造の大きな船体に数本のマストが立っているいわゆる帆船と呼ばれるものです。
文明として考えれば、船舶の進化は大航海時代と同じくらいと考えてかまわないでしょう。
ただ、侮れない点もございます。
魔法を応用した魔弾を撃ち出す
海軍の使用する軍船は砲座が設けられた甲板の複層構造を備えた『戦列艦』が主戦力になっています。
ですがレムリアは本来、海に面していない内陸の国。
正規の軍に海軍は存在していないことになっているのです。
あくまで建前ですけど。
なぜなら、レムリアに属する貴族が独自の海軍力を有しているからです。
特に北部と南東部の一部貴族は強大な海軍力を擁することを黙認されています。
それをレムリアの国力として、利用することを考えた方は相当なやり手だったのでしょう。
ただ、一部にはそうでない例外もいらっしゃるのです。
アラーリック叔父さまがそのお一人。
「潜水艦にしか見えないけど、こんな形の潜水艦……あっちにもないと思うんだ」
波止場に停泊している銀色の大型船を見るレオの目はまるで新しい玩具を見つけた子供のように輝いています。
年齢だけならまだ、子供で十分に通ると思いますわ。
でも、あなたの精神年齢は私より高いと思いますのよ?
夜は私よりもずっと大人ですし!
「これって、宇宙船みたいにも見えますよね? それもアニメとか、映画に出るようなやつですっ」
アンも興奮しているようだけど何にですの?
興奮する要素があるのかしら?
確かに白銀の大型船はこの世界にない珍しい外観をしていますけど。
全長五十メートル以上というのは一般的な戦列艦と同程度ですわね。
ならば、二人が興奮しているのは特徴的な船体を覆っている銀色の金属のせいかしら?
金属のみで造られた船は確か、世界初。
一番という響きは確かに耳に心地いいですもの。
水中生物を真似た流線型の船体。
翼のように左右に広がった巨大な金属板。
独創的な設計思想の下に造られたとしか、思えませんわね。
二連型の
三者三様で大型船を眺めるのに夢中になっていると見知った顔の女性が近付いてくるのに気付きました。
「そろそろ、おいでになる頃だと思っていたよ」
そこには戦乙女ジーグリット様が夕焼け色のロングコートを風に靡かせ、立っていました。
一種、挑戦的ともとれる不敵な表情は同性の私から見ても恰好の良いものだと思いますわ。
男装した高身長の女優が演じる舞台劇の主役に女性が黄色い声を送っている。
これはあのファン心理と同じ心境ですわね
「ジーグリットさん、船のチケットもらうのって、一週間後でもいいかな?」
いきなり本題から入りますのね?
そこがレオらしいところではあるのですけど。
何も考えていないようで実は考えている。
と思わせて、本当に考えてないかもしれない。
実は私もレオのことを言えない行動を取っているのよね……。
「ええ。我々が受けた任務はお二方に来ていただければ、いいらしいんでね。一週間でも一月でもいつまででも構わないのさ」
「リーナ、そういうことらしいけど、いいのかな?」
「ええ、一週間もあれば、おじさまに丁寧な暇乞いする時間も十分にありますわ」
一週間後としたのはお世話になっているジローのおじさまに何らかのお返しをしたかったからです。
冒険者ギルドのクエストをこなすのはあくまで表向き、公的なものですから、個人的におじさまに何かを返すのであれば、それくらいは必要だと判断したのです。
「本当はこの船の中を見たかったんだけど、我慢するよ」
「見て行かれてもいいんですよ? この船・
ジーグリット様の目から、感じられるのは敵意ではありません。
私への興味、正確には私が持ち得る魔法知識への興味のようです。
「私の知識が役に立つということはこの船……魔力で動いてますのね?」
「その質問は半分合っていて、半分間違いって感じでね。この船を造った魔導師が解析不能な機構ばかり、取り入れたもんでね」
「ねえ、ジーグリットさん。この船ってさ。何と戦う船なんだい?」
「そこ、気になったかい? そうだとは思ったけどさ。気になるよな、普通」
「怪獣ですかね?」
アンが妙なことを言うので全員、半目でジトッと見る刑に処します。
たまに空気を読めないのがアンのチャームポイントですから、咎めたりはしませんけど。
「怪獣が何か、ちっと分からねえけど海の支配者みたいな奴でね。狂っちまった奴をどうにかすべく、こいつが造られたってところかねぇ」
海を支配する者というとアレしか、思いつかないのよね。
アレ――レヴィアタンだとするとちょっと厄介かしら?
単体であることを考慮すれば、相性次第ではそれ以上の存在といっても過言ではありません。
ただ、攻撃的な性格ではなく、手を出さない限りはどちらかと言えば、ことなかれ主義だった気がしますわ。
先程から、強く感じるのです。
レオも気付いているのかしら?
「一週間後を楽しみに今日のところは帰らさせていただきますわ」
まだ、名残惜しそうに
アルフィンに頼んでおいた物を受け取らないといけませんわね。
おじさまへの感謝の気持ちを表した物が完成したとの連絡を受けたのです。
「色々と面倒ですわ」
「そういや、リーナって昔から、面倒なの嫌いだっけ?」
「それは怠惰のせいで面倒が理由ではありませんからね」
そうは言ってみたもののアスタルテの頃から、基本的に面倒なのを嫌がる性格だったのではっきりとは否定出来ませんわ。
面倒だから、全てを凍らせて。
面倒だから、全てを突き刺し、切り刻んで。
怠けたっていいじゃない?
怠惰ですもの。
「レオは気付きましたの?」
「うん? 何? もしかして、あの船のこと?」
小声でレオの耳元で囁くと彼も気付いていたと分かり、私の気のせいではないという確信が持てました。
「「アレはレヴィアタン(だ)よね?」」
レヴィアタンを倒す為に造られた船から、レヴィアタンの気配を感じるなんて矛盾してません?
それなら、彼女の気配を感じても何ら、おかしくないはずだわ。
どちらにしても乗船すれば、分かることですわね。
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