第377話 生還…?(後編)
月の地下に広がっていた謎の巨大空洞で、いま人類は
片方は高度な科学力を持っていると思われるのに、なぜか肉弾戦を好む
そしてもう片方は月に来ているというのに、なぜか原始的な
それらの遺体を回収するため、まずは地上から吊り下げられたゴンドラを地下空洞の床に着底させねばならなかったが、ゴンドラの真下には何故か昨日までは無かった裂け目(クレパス)が出来ており、そのまま真っすぐ降ろすだけではダメという面倒な状況にあった。
そこで人類は(というか3人しかいないが…)ゴンドラをちょいと横に引っ張ってクレパスを避けるように着底させようと考え、先に一人がジャンプでクレパスを飛び越え、ゴンドラに残ったもう一人がそこにワイヤーを投げ渡すことで綱引きの要領で引っ張ってもらおうとしていた。
――――――
「さぁ、ワイヤーを投げてくれ」
ゴンドラに残ったジェイムスに向かって、クレパスの前に立つブルースとアニィが手を振った。クレパスがいつ崩れ広がるかは分からなかったので崖ギリギリからは3mほど余裕を持たせて離れているが、クレパスの半径も4mほどなので合計してもジェイムスとブルースの距離は7mばかりである。ワケなく投げれるだろう。
「OK!そりゃ!」
投網漁でもするようなフォームで、ジェイムスはリールを投げた。
太いワイヤーを束ねたそれはまるでトラックのタイヤほどもある金属の塊だったが、月の重力によりシャボン玉のような動きでフワッと放物線を描く……と、そのときだった!!
ズズゥン…ズン…ゴゴゴ…!
何かの地響きが連続した!
リールはまだ空中を舞っているが、それを目で追う余裕など三人にはなく「なんだ!?」と全員が戦慄した。
「地震か!?」
「まさか!あり得ない!」
そう。月で地震は起きないはずだ。地底で謎の蟲人族と出くわしたり、
「どうした?こっちは揺れていないぞ!」
やはりとうべきか、その証拠に地上の吊り下げられているゴンドラは揺れていないとジェイムスは叫んだ。つまりこの地震ならぬ震動は地下空洞の地面のごく限れた場所で起きている事になる!
「近いぞ!」
震動は不規則で突発的であり、近いものに感じられた。
いや、といより真下から突き上げられているような感覚があった!しかもちょうど悪いタイミングで、ナオミが撃ち上げた照明弾も尽きようとしている!
「蟻人間やらその戦闘民族やらの回収は後だ!ゴンドラに飛び移れ」
ジェイムスが手招きしながらブルースに叫んだ。なかなか判断の早い男である。
「ああ!」
ブルースも頷いた。
「しかし貴重な…」
一方、アニィは迷う。目と鼻の先に人類が見たこともない宇宙人の検体があるからだ。科学畑の彼女はそういう欲…いや使命感が先走ってしまうのだろう。
「中佐!あとで考えましょう!」
ジェイムスは律儀に、アニィに対しては敬語で(sirを付けて)諭した。
「アニィ、俺も大尉の意見に賛成だ!」
「ええい…跳び降りたばかりなのに、まったくもう…!」
アニィはそう言って諦めをつけ(わざわざ口にするあたりが、おしゃべりな彼女らしい)それを見たジェイムズが二人がゴンドラに跳び移れるように側面の柵を開いた……と!!
ドォォーン!!
次の瞬間、ゴンドラの真下からクレパス突き破って何かの巨大な影が姿を現したのである!
「うあっ…!!!」
悲鳴を上げる間すらなく、ジェイムスの乗るゴンドラは、まるで「シャチのショーで挨拶代わりに鼻で突き上げられるボール」のように、その巨大な何かによってポォーンと大きく跳ね上げられた!
「マシン!?」
弱々しく明滅するプレデターの照明弾の残り火によって壊れた映写機のようにパッ!パッ!パッ!と1コマずつ描画される巨影は、その‟止め絵”の連続として見せられているせいもあってか、どこか機械的な印象を憶える。動きとしては流氷の裂け目を突き破ってホッキョククジラが浮上してきたような形だが、そういうムチャは生物(自分の体も傷つくはずだからだ)はしないと思えたし、何より電車の車両をさらに一回りほど大きくした体躯は陸上生物のそれとは思えなかったからだ。
照明が不十分であり、また見上げるような角度のため全体でどういう形状かはわからないが、見えている部分だけでいうと……「蛇」か「ミミズ」か「毛虫」のような太い円柱の形であり、その体の表面は‟皮を剥く前の筍”のような鱗で覆われていた。鱗には光沢があり見るからに硬そうで、確かにトンネルを掘るシールドマシンと言われてもおかしくないが…ともかくこれの正体を知るには上端(かお)を見てみるしかないだろう!
「アニィ、さがれ!」
目の前に突如にして突き上がってきた細いビルのごとき巨影に腰を抜かすアニィは、足元の
もはや地割れである。
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