第282話 鹵獲兵器(前編)
フレアボール。
それはフレアの名の通り超高温の希ガスのプラズマであり、触れた物体を瞬く間に気化させてしまう……はずだった。
しかしフレアボールの直撃を受けた海底人の王子セイバーモノクロームは、まるでドッヂボールのルールを知らない大男のように「ボールが当たったら死なねばならない」という法則を無視して、フレアボールを振り払うとそのまま突貫してきた!
『あり得ない!!』
フレアボールを放った
[うぉぉ!]
モノクロームはそのままサウロイドとの距離を肉薄させると、ヘルメットの額からセイバーを伸長させ、‟お辞儀”をするようにそれを振り抜いた。
ザシュパーーン!!
ビチッ!と魚が跳ねるがごとく、力強い上に神速の太刀筋であった。海生哺乳類が持つ脅威的な腹筋と背筋が成せるものである。セイバー・モノクロームの前では歩兵の装甲など意味を成さないのだ!
またさらに――
そのお辞儀斬りは「行き」だけでなく「帰り」もまた神速であり、「行き」でサウロイドの体を右肩から左腰を結んだ線で真っ二つにした後で、「帰り」がすぐに来るために、そうやって二つに斬り分けられた体を宙に舞ち上げる事になった。
シャチは捕らえたアシカを天高く打ち上げて遊ぶ習性があって、それを元に水族館のショーで調教師をジャンプさせる芸が訓練されるというが、それを月面で見させられるとは思わなかった。しかもそれはボールでも調教師でもなく、両断された
宇宙を泳ぐ海生哺乳類を描く、ラッセン画家もビックリだろう。
『…あ…ああっ…!!』
――逃げなければ、動き続けなければ…!
――しかも空からさらにコイツの仲間が降りてくるのに…!
装甲機兵達はそう思ったが、5人の連携はバラバラになった。
もしかしたら今ここで5人が同時に飛びかかれば、せめてモノクロームだけは討ち取れたかもしれないが、とても一致団結するなどできなかったのだ。
一方!
モノクロームは手の甲で額から垂れる血を拭いながら、静かに強く言う。
[次ぃ…行ってみようか!]
それは象徴的な光景(カット)だった――
真っ黒な空と、それの半分を占めるように巨大な地球を仰々しいスポットライトにして、スクッと起立する血まみれの巨影は、命ある者では抗えない冥界の魔王のようであった。
彼を倒すのならばまず、冥界から引きずり出して対等な命ある者にまで堕とさなければならない。それはつまり対等な科学力を持たなければ勝ちようがないということだ――!
いずれにせよ、これが装甲機兵の最期の一幕である。
この後セイバーモノクロームが肉弾戦によってあと2人を倒し、さらに敗走する3人をアームドシールが銛の狙撃で串刺しにする流れとなった。戦闘と言うより虐殺である。
こうして――
戦闘開始から約三時間で、月面基地は正規の軍備のうち
――――――
―――――
――――
その雑兵がいまジャンクション(十字の形をした月面基地の中央のクロス部分)を守っていた……死体の山を築きながら。
一方。
「押し返せ!」
「いけるぞ!」
攻めたてる
「あの部屋も押さえるぞ。援護を!」
人数の差を逆転する原動力は、相手が雑兵だからという事もあるが何より射撃武器の性能の差が大きい。サウロイド達はきっと今後10年は
「どうだ!?使えそうか?」
ソン中尉は半身を主戦場である長い廊下のストレートに出して時折、牽制射撃をしながら、背後の工作が得意なイトー中尉に聞いた。(お気づきの通り、揚月隊は全員が中尉以上の階級である。人類初の月面戦闘に赴く部隊なのだから当たり前といえば当たり前だが、全員が優秀で全員が士官クラスだった。彼らは宇宙飛行士であり、何かしらの博士号を持ち、冒険家であり、戦士であった)
「待てっくれ!」
イトー中尉は塹壕となる部屋の中に引き込んだ首の無いラプトリアンの死体の腕部デバイスをいじりながら言った。
「使えそうだ。ともかく壊れてはいない!」
そう。
イトー中尉がいじっているのは、フレアボールの投光器である…!
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