第226話 レールガンは祝砲に不向きである

 サウロイドの、基地に迫る地上部隊への砲撃けんせいは捨てて全MMECレールガン砲台でもってを攻撃する……という作戦はいま奏効しようとしていた。

 確かに星の舟は鉄心レールガンを弾くほどの固い船首シールドを有していたが、こうやって何度も波状攻撃を続ければ――


『こちら12番砲台、命中を確認!

『敵艦、大きく体勢を乱したようです!』


――いずれ姿勢を崩し、無防備な横っ腹を晒すことになる!



 管制官は歓喜に裏返った声で続けた。

『繰り返す!星の舟は体勢を崩したもよう!』

『…こちらでも確認。明らかに艦影が!』

 サウロイド達の基地に対し、真正面に船首シールドを向けているとき艦影は小さく見えるが、いまはそうではなかった――それはつまり体勢が崩れている証拠という事である。

『おぉ!!』

 歓声が上がった。

 まるでサッカーのゴールシーンのように、ラプトリアンの何人かは思わず立ち上がっている。少なくともラプトリアンには人類と同じでスタンディングオベーションという反射行動があるようだ。

 もっとも全てのラプトリアンが直情的というのではなく、一番に喜んでいいはずの砲術士官の長であるザラなどは座したままニヤリという表情を浮かべているだけであった。歓声に交じって声を出したのは副長のほうで

『司令!波状攻撃なぶりごろしの甲斐がありましたな!』

 彼は後席のレオに向かって振り返って、満面の笑みを見せた。

『ええ。を!』

 レオもまた屈託のない微笑みで、チェックメイトを宣言した。

 

―――勝った!星の舟を倒せる!

 全員が、そう思った。


 戦艦大和は、360機の航空機に群がられて‟なぶり殺し”の最期を迎えたそうである。

 大和に有効な反撃手段はなく(あの鈍足な巨人が単艦でどうやって360機の航空機と戦えるというのか)ひたすら執拗に右舷ばかりを攻撃され沈没したという。

 文字通りの「大和魂」で360機のリンチになんと8時間も耐えたというが、そんなサンドバッグ状態の最期を「意地」や「根性」だとして讃えるような精神構造だから日本人はいつの時代も負けるのだと思う。

 サンドバッグになっている時点で、その後で何時間耐えようが「愚行」だと唾棄して反省しなければいけないのだ。


 閑話休題。

 ともかく戦艦大和が右舷ばかりを攻撃されて遂に沈んだのと同じ事が、今ずっと規模を小さくして起きた。…いや。

 確かに規模こそずっと小さいが、この出来事の特筆すべきところは九州南方の海域ではなくでという点だ。

 しかも何より相手は人類ではない。サウロイドの執拗なレールガンの波状攻撃に、遂に人類の宇宙戦艦ほしのふねは体勢を崩したのだ――!


――――――

―――――


 フィナーレである。

 奇しくも12番が発射した後という事で充電の順番は一周して1番砲台が‟祝砲”を上げる事となった。

『次、1番砲台!』

 温度を取るのは砲術士官長代理のザラである。

 彼は、司令室全体が「さっさと撃沈させてしまいたい」と急いている様子を感じ取って言葉を付け足した。

『落ち着け。乱すな。100%で発射する。充電完了まで数秒の我慢だ』

 そう早口で言ったザラは、モニターの充電状況を見ながら右手を掲げた。これが振り下ろされるとき、じんるいの星の舟は沈む事になるはずだ!

 敵のスーサイドロケットミサイルで壊滅させられた第二郭砲台群36基…合計40名近い砲術士官のかたきが、いま討てるというものである!

『充電率95%突破!』

『俺がカウントする。3…2…1…。1番、発射!!』


―――!?


 レールガンを発射したときに基地全体に響く、ズゥーン、という震動が無かったのである。

『どうした、1番!?』

『故障か!?』

 副長も口を挟まずにはいられない。

『こちらからは認められません!』

『調査中!』

 オペレータ達は異常を探りコンソールを殴るように叩いている。しかしザラは判断が早かった。

『どうでもいい!』

 彼は「どうでもいい」と切り捨てた。色々と性格に問題がある男だが、これについては見事というほかない!

『2番を急速充電!!』

 そう、現時点で敵艦はほとんど地平線に沈んでいるのだ。直射しかできないレールガンは目標が地平線に沈んでしまえば無力になってしまう。

『絶対、沈めろ!!』


――――


 出来事が同時に多く起きすぎている。

1を描写すべきかと悩ましいが、いったんこのまま時間を進める。


――――


 アッパーカットを食らったクジラのように完全に顎を上げ、その柔らかな腹をレールガンの砲口に晒していた二番艦デイビッドのブリッジの面々は、死を覚悟していた。しかし――

「撃ってこない!?」

 1番砲台の調が彼らを救う!


「なぜ!?同じ充電速度ペースならすでに発射してくるはず」

「奴らの原子炉の異常でしょうか…?」

「いや…揚月隊…揚月隊じゃないのか!?」

「それね!」

 真之の推測にアニィも揚々と同意する。

「いやどうでもいい。真之、離脱だ!」

 そこへ、ほとんど被せるようにボーマンは叫んだ。

 奇遇にも彼はザラと同じセリフで討論を切り捨て、艦長である真之に命令した。

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