第62話 融合炉とは名ばかりの、分裂連鎖を使ったオモチャ
[まったく…シンプルなゲームじゃないな]と、首魁は言うと
[ええ。まことに残念ながら]と、従者は続いた。
だが、月の漆黒の空をバックにティファニー山の山頂に仁王立ちする二人の姿は、彼らが困難を感じているようにはとても見えなかった。
これだけの科学技術を持つ彼らが、サウロイド(彼らの呼び名に合わせるなら鳥人間)の基地で起きようとしている
もっともサウロイド達はエイリアンの一件で電力どころか、本来の基地の頭脳である司令室が使えなかったので致し方なし……とも擁護はできよう。
[ともかく、我々の存在は今しばらく隠しておいた方が良いでしょう]
[残念だ!] 首魁は、とても残念そうには聞こえない語気で、きっぱりと残念だと言い切った。[女王の勅令の通り、メルトダウンだけは止めてやるか]
[それが良いでしょう]従者は少しホッとしたように、食い気味に同意した。
[気付くかな!?]
[何にです?]
[俺たちの存在にだよ。月に別の知的生物がいるぞ、ってな]
[さぁ、どうでしょう。我々の介在には気付かず「運良く核分裂が止まった」ぐらいに思ってくれるかもしれません。
[未熟ゆえに、気付かないかもしれない、という事だな]
[はい]
[なるほどな。まぁ、色々と愉快だった!]とは言うものの、少しも楽しげではなさそうに首魁は笑って、未練なくサッと踵を返して下山を始めた。
彼の視線の先はティファニー山の裾野、サウロイド達には見えない山の反対側になる。
[しかし月面はいいなぁ!]
[あ!それで彼らの、メルトダウン寸前の融合炉はどうしますか?]
まさか会話が終わったとは思っていなかったので、従者は慌てて背中を追った。
重力が低いので、ビヨン、ビヨンと大ジャンプして下山する事もできそうだが、彼らは一歩一歩を踏みしめるようにその坂道を降っていった。まるで散歩の帰り道にさしかかった若い大型犬のように惜しんでいるようだった。いや、あるいは単に歩くのが苦手なのかもしれないが。
[ん?だからさ、‟ジャベリン”の用意はできているのだろう?対処するよ]
[了解しました。ただ炉内の構造が分からないので波動散乱の逆関数の信頼度はかなり低いものとなります。ジャベリンを打ち込んでも二、三日メルトダウンを先延ばしにする程度です]
[いや!ヤツらの基地に殴り込む!]
[え!?]
[目と鼻の先で核爆発されては堪らんからな。我らの基地が地中であっても…困る!]
[それはそうです]
[鳥人間の基地の情報を得るだけでいい。素材とか、壁の厚さとかな]
[それが分かれはジャベリンは機能します]
[だろ?特務小隊を組織しろ。5、6人だ。腕利きだけを選別してな]
[隠しきれますかね…。ホールの影響で電波は使えないとしても、彼らの二つある基地同士はケーブルで繋がっていましょう。連絡手段が無いわけではない]
従者の言う二つの基地とは、サウロイドのホール1基地とホール3仮設基地の事を言っている。知っての通り、メルトダウンが迫っているのはホール3仮設基地の方だ。
[孤立させる。事故に偽装してケーブルを絶つよ]
[基地の者は…皆殺しですね]
[言わせるな、仕方あるまい。2つある鶏小屋の1つでインフルエンザが出たなら、片方を
[ハッ]
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