血族

ツヨシ

第1話

同僚の北川が何の前触れもなく、突然言い出した。

次の休日に犬鳴村に行こうと。

北川は普段はオカルトとかを馬鹿にするタイプの人間なので、少し驚いた。

どうしてと聞くと「急に行きたくなった」と答えた。

さらにどうして行きたくなったのかと聞いたが、それには返答しなかった。


休みの日になり、北川の運転で犬鳴村に向かった。

順路は下調べしてあるそうだ。

途中、どう見ても普段車が通っていないだろうと思える山道に入り、しばらく進むと場違いな鉄のフェンスがあった。

「車はここまでだな」

北川がそそくさと車を降りたので、俺も降りた。

北川はなんだか落ち着きがないように、俺には見えた。

二人してフェンスを越えて、歩いて進む。

北川の歩くスピードは速かった。

そしてけっこう歩いたと思えた頃、ブロックでふさがれたトンネルに突き当たった。

犬鳴トンネルだ。

北川が迷いなくブロックに取り付こうとしたので、俺は言った。

「ちょっと、小便」

先ほどから我慢していたのだ。

道端で北川に背を向けて、用をたした。

「おまたせ」

振り返ると北川はいなかった。

――えっ?

俺は探した。

探せるところは全部。

道や崖下、トンネルの中までも。

しかし北川はどこにもいなかった。

俺はとりあえず北川の車まで戻り、そこから警察に連絡した。

すこし待たされたが、警察はやって来た。

そして山狩りが始まった。

俺は警察にいろいろと聞かれた後、家まで送ってもらった。


北川が見つからないまま、幾日かが過ぎた。

そんなある日のこと、俺の家に見知らぬ男が訪ねて来た。

目つきの鋭い中年の男性。

男は北川の父親だと言った。

父親がいくつかの質問をし、それに俺は答えた。

答え終わると父親が言った。

「そうですか。ここ数代は誰も呼ばれることはなかったんですが」

「数代? 呼ばれる?」

父親は俺の目をじっと見たまま答えた。

「私の祖父は、犬鳴村の出身なんですよ」

と。


       終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

血族 ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ