第5話 夜は綺麗で……
女性は、
けれども前みたいに死にたい気持ちは無かった。それは、多分、春海さんが僕の話を黙って朗らかに聞いてくれたからだと思う。
春海さんは言った。
「つらかったね……」
春海さんは泣いていた。その綺麗な顔立ちに清らかな涙がすぅっと流れて、僕の心をざわつかせる。僕は思わず訊いてしまった。
「なぜ泣いているの?」
春海さんは答えなかった。その代わりに少しはにかんで、僕の右頬に左手で触れる。僕は少し戸惑う。春海さんの眼差しは優しい。
「ねえ、カナタ君。君は、もう一人の君をどうしたい?殺したい?無かったことにして、やり直したい?」
「……わからない。けど、彼は泣いている。泣いて、怒っている」
日が段々と落ちていって、世界が少しずつ暗くなる。僕は慌てて言った。
「逃げて!彼が来てしまう!君を傷つけてしまう」
でも、春海さんは僕の手をぎゅっと握って、「大丈夫」と一言呟く。
そうして、世界は闇に落ちる。
暗くて静かな世界だった。地上からは光が溢れていて煩いけれど、空の明かりは静かで優しい。
僕は暫く空の優しさに身を委ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます