第6話 守ってくれたのかもね

 僕は思い出す。もう一人の僕のこと、あの夜のこと。静かな夜明かりが僕にそっと囁いてくれた。


    ◆◇◆◇◆◇◆◇


 四歳の頃、僕にはお父さんもお母さんもいた。あまり覚えてないけど、仲がいい家庭だったのは確かだと思う。

 でも、ある日の夜。目が覚めてリビングに行くとお父さんはいなかった。いたのはお母さん一人だけで、寂しく泣いていた。さっきまで一緒にいたはずなのに。

 「お父さんはどうしたの」と僕が訊くと、お母さんは掠れた声で「排斥者になったの」と、僕を強く抱きしめた。

 ほんの少し前まで忘れていたけれど、凄く衝撃的な出来事だった。お母さんの泣く姿を初めて見たし、お父さんのいない夜も初めてだった。だけどそれよりも、僕の中で木霊こだましたのは、はっきりとした誰かの声だった。


「僕が、いるから」


 何となく、腑に落ちた。何故かはわからないけれど、お父さんがいなくなって、お母さんが泣いているのは、きっと僕のせいだと、そう、強く思ったんだ。

 外は果てしなく暗い世界が広がっていて、僕のその気持ちに強く頷いているようだった。


 それから夜になると、僕は僕じゃなくなった。夜はどうしても、不安になる。不安になって、僕なんていなくなってしまえと思うと、彼が出てくる。僕の「迷惑」さを思うと彼が出てくる。

 そう思うと、もしかしたら、彼は……


    ◆◇◆◇◆◇◆◇


「……守ってくれたのかもね」


 僕が断片的に紡いだ独り言を拾って、春海さんはそう言った。

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