戦争が好きな奴は嫌い part3

「なに?もうか?」


私も驚いて決闘陣を見れば、先鋒の蛮族が中将を倒したらしく、誇らしげに踊っている。周りの蛮族は先鋒を讃えているのか、遠吠えする狼のように吼えている。



「あらら、2連敗ですね。」


「情けない。幾ら屈強な蛮族と言え、あっさりと負けるなど。」


「つまり兄上は一人で三人倒す必要があると。」


「なんとも…。」


見れば件の蛮族は歓声を上げながら酒を飲んで‥え、飲んでる!?阿呆なの!?戦中だよ!?


けどその阿呆に王国の騎士は負けたんだよなぁ。。。


兄上の言う通り、この体たらくでは王国が帝国、教国の兵圧を跳ね返せるとは思えない。騎士団の主な仕事は戦なんだけどなぁ…。


「騎士団も結局は姉上がいなければこの様ですか。近年は戦も無く平和で、騎士は憲兵の真似事をしていると聞きます。平和は良い事ですが、だからと言って騎士の本分まで忘れると困りますね。」


「そして守るべき筈の王子に戦の結末を委ねると。泣けてくるな。」


そう言って颯爽と決闘陣へ向かう兄上。


…滅茶苦茶かっこつけてる。


幕布を避けて通ればいいのに、伝令兵も兄上も態々ソレをめくって外にでる理由は何なんだ。横を通れば普通に外に出れるのに。


「そう思わないシェード?」


同意を求めて後ろの声を掛けると、困惑した様子でシェードがこちらを見ている。


「…フォー様、何のことを言っているのか教えて貰わなければ同意も何もできません。」


「がんばって察しておくれよ。」


「無茶言わないでください。」


ぷりぷり怒っているシェード。その後ろに隠れるようにして控えているサーシャ様が、窺うような目つきで私を見ている。



「サーシャ様?」


「あ、あの。」


「どうしました?」


「先鋒の蛮族が、なぜあそこまで軽々と騎士団を倒せたのでしょうか?彼等がそこまで弱いとは思えません。」



サーシャ様を見れば、本気でそう思っているよう。戦闘民族出身のサーシャ様が言うのなら、きっとそうなのだろう。


「ふむ…。私はそういう見ただけで相手の強さが分かる人間では無いのでサーシャ様の言葉に上手にお答えはできませんが…。」



「できませんが‥?」


「選出された彼等は蛮族とは相性が悪い。負けても仕方が無いのです。」



サーシャ様の指摘通り、先鋒、中将を任された騎士隊員は弱くはない。というか王国の威信をかけた争いにそんな雑魚を出さない。ギャンブラーでもあるまいし、実績のある奴をきちんと選出している。


ただし、その選考基準が根本から間違っているということに気付いているのは極少数という事実も加味しなければならない。


「蛮族達が扱う五属性魔術は発動が早いのが特徴です。蛮族のあの優れた身体神経と組み合わさると脅威なのは言うまでもない。騎士達の魔術ではとても対処が間に合わないのです。」


「騎士達の魔術?」


「複雑系と言われる、五属性とは異なる体系魔術ですね。言葉の通り複雑な効果を発揮する分、発動が遅いです。」


だからこそ、蛮族に撃ち遅れる。そんな決闘においてありうべからざる致命的な状況を生み出す。彼等は負けるべくして負けたのだ。


「ではなぜこちらも使わないのですか?」


「うーん。そうですね。

例えば、地面の土を弾丸にする『ストーンバレット』という魔術があるとします。

A君とBちゃんが向かい合って対峙しており、A君がこの魔術を行使。Bちゃんに土の弾丸が襲い掛かる。」


私の声に合わせるように、シェードが土人形と小石を設置する。見れば、可愛らしい人形が両手で石を投げている。サーシャ様も思わず目が釘付けだ。


何時用意したんだ。ま、いっか。


「この弾丸Cは、地面から生成されたものです。では、Bちゃんがこの弾丸Cに『ストーンバレット』の魔術を放てばどうなると思います?」


「‥‥A君の放ったストーンバレットCは威力が弱まる?」


模範的な誤答をしてくれてありがとうサーシャ様。


「いいえ、答えはもっとシンプルです。より強力で洗練された術者の魔術が勝つ。Bちゃんの腕前が高ければ、弾丸は急旋回してA君に襲い掛かるのですよ。」


「え?」


これが所謂、主導権の強奪。五大属性の魔術には、発動速度とコスパの良さと引き換えに、このリスクが発生する。


「ということは、五大属性の優れた使い手が有利ということじゃ…。」


「そして自然崇拝主義の蛮族は、五属性魔術の腕前はピカイチです。あんな粗野ななりですが、魔術自体はとても繊細で美しいのです。」


「そ、そんな‥‥。」


だからこそ、五属性という古臭い体形魔術は廃れた。劣った術者はどう足掻いても優れた術者に勝てないから。大多数の弱者は、そんな厳しい術を使いたがらなかったのだ。


「その代わりに複雑系と言われる魔術が流行。何を対象にして、どういう理屈で作用しているのか。それを相手に悟らせない魔術を皆が使う。勿論私も含めてね。」


「でもその魔術では…。」


「ええ、軍団規模ならともかく。1対1のよーいドン、で始まる争いにおいては圧倒的に不利ですね。」


「じゃあワーン様は勝てないのですか?」


決闘では早撃ちが全て。しかし王国の主流な複雑系では撃ち遅れ、早撃ちが得意な五属性は蛮族の得意分野。


兄上が勝つのは…。


「それは見てみてから判断しましょうか。」



向かい合う兄上と先鋒。


相手は見る限り、炎の使い手。


審判らしき人物が、大鐘を叩かんと力を込める。


「GONG!!!!!!!」



鐘の音と共に両者が魔力を放出する。


「はい、兄上が勝利しましたね。」


「な、こんなあっさりと‥‥。」


兄上が数拍早く魔術を行使し、相手は意表をつかれた。言葉にすればこんなちっぽけな事。それで兄上は勝った。


「兄上も五属性魔術を使いますからね。先の2人よりも遥かに早い行使速度に反応できなかったのでしょうね。」


今までの遅い発動魔術に慣らしてから、早く発動することでタイミングをずらす。シンプルだが強力。3人がかりでの緩急トリックとは大掛かりな手を使うよね。


騎士団は兄上の事嫌いだから、兄上が勝手に2人を利用しただけだと思うけど。


「しかしワーン様が蛮族よりも早く撃つとは。」


シェードも感心しているように見ている。けれどそれは勘違いなんだよね。


「兄上は五属性に桁外れて優れているというわけではないよ。ただ、桁外れて得意な属性があるというだけ。その属性のみなら、蛮族より早いんだよ。」


まぁ、相手が蛮族の大将とかなら話は別だったろうけど。先鋒で、そして火属性使いというのが幸いしたね。兄上のことだからそこは始めから考慮していただろうけど。


そんな事をシェードに教えてあげていたら、ポツリとサーシャ様が呟く。


「‥‥ということは、ワーン様の手札が既に割れてしまっている次の相手には意味が無いのでは?」


「ですね。なので今度は主導権の強奪に意識を割かせておいて、複雑系で攻撃でしょうね。」


二試合目。


「す、すごい‥‥。」


「おお、流石蛮族クオリティ。」



蛮族は呆けた表情を浮かべながらモロに魔術を喰らって気絶。発動魔術が予想していたものとは全く異なるものだったのか、お粗末な動きだった。


まぁつまり。蛮族は私が言った通りに動いて負けた。



蛮族は、兄上が発動すると思った五属性魔術の主導権を奪い、完膚なきまでの勝利を狙ったんだろうね。蛮族だからね。そういう勝ち方に拘るところがある。


その心理を逆手にとって兄上は複雑系の魔術を撃ったわけ。


一見土弾に見えたその魔術は実は氷弾でしたというオチだ。そして着色された氷に土弾の魔術を掛けても何もならないのは当たり前の話で。強奪を狙って待ち構えていても一向に上書きできませんでしたというわけ。


「素直に五属性魔術を撃てば勝ててたものを…。まぁ、そういう貪欲な姿勢が五属性の優れた腕前に繋がるのかな。」



さて、これでこちらも相手も残りは大将のみ。

泣いても笑ってもこれで最後。

最終戦が今。始まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る