戦争が好きな奴は嫌い part2
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
大地が轟くような叫び声とともに、大勢の戦士たちの雄たけびが私を思索から現へと戻す。
鼓膜がつんざくような声を挙げた蛮族の戦士たち。獣の皮とかいう原始的な鎧だが、案外侮れない。高位魔獣の獣は生半可な金属よりも丈夫で、彼等の屈強な肉体の動きを妨げないからだ。
「始まったか。」
「ええ、そのようで。」
このクソ寒い中、雪化粧した大地を汚すかのように踊り、馬鹿でかい声で宴を開く彼等。恐るべき軽装と、飲酒とかいう凡そありえない暴挙を犯しながら、笑い飛ばせない実力を発揮する彼等。
それが北の蛮族、『ウォーモォンガァ-族』だ。
「北の蛮族との戦争なんて、いつぶりですかね?」
「フォーが生まれる前ぐらいまではやってたから、18年ぶりぐらいじゃないか?」
「戦争ねぇ。。。楽しいですかねぇ。」
焚火の周りで踊り始めた蛮族を見ながら、私と兄上は分かり切ったことを口にする。
「そりゃあ昔よりは遥かに楽しいだろう。」
「まぁ、昔は戦国時代ですからねぇ。。。」
この大陸において、戦争にはルールがある。
事前に約束事をして、それを公表して。互いの国で情報の齟齬が無いか再度確認して。それでやっと宣戦布告が始まって、それで戦争だ。
決めるべき約束事は主に3つ。
1:戦利品
2:範囲
3:方式
この3つだ。
この3つの約束事を『戦規』を呼んで、戦争前にこれを決めるのだ。
1についてはいわずがな。領地やら金やら。ある国では『嫁さん探してるから美人をください』もあったらしい。お前はどれだけモテないんだよって話だが、実際にあったらしい。
「今回はどこが懸かっているんですか?」
「鉄の武具を3tほどだ。」
「普通に買えばいいのに。」
「蛮族だからな。」
阿呆すぎるね。
2もシンプル。どこで戦争するか。アレナ地方やら、カザン河口やら。これも様々だ。例とは違って本当はもっと厳格に決める。ふわぁっと『地方Aで戦争しよぜ!!』ていっても国によって『地方A』の定義が変わるからね。
コーンとか柱とか目印を設けて、その位置の座標を正確に示すんだ。
大国ならば戦争用の土地の一つや二つ持っている。当然王国も持っている。
「今回は北の国境付近にあるB-11エリアですか。」
「伯爵の所有する国土だが、、、毎度毎度、敵国が用意したフィールドに飛び込もうと良く思えるよな彼等は。」
「蛮族ですから。」
阿呆すぎ(2回目)。
独特な踊りをしている蛮族は、そのまま大きく半円を描き始める。そんな蛮族に対抗するかのように、こちらもラッパや太鼓を吹き鳴らす。
戦争の開始が近い合図だ。
戦争において最もキモなのは3つ目。方式、即ち戦争というスポーツのルールについて。
『そんなん拳のぶつけあいだ!!』とか『命の奪い合いじゃあ!!』とか思っている脳筋は大体僻地に飛ばされる。戦争だからと言って別に命を削る必要なんて無いんだ。
ある賢王なんかは『パン食い競争』で勝敗を決めたそうな。のほほんとするよね。
敗戦したら国王はギロチン行きとかいうクソゲーだったらしいけど。
今回は‥‥。即席の円形陣に、接近した両軍。轟く太鼓と鐘、そして美しく奏でられる笛の音。
これは…即席コロシアムか。これを作るということは。
「‥‥3連の決闘式ですか?勝者次戦進出の。」
「ああ。北の蛮族はフランクに蛮族だからな。挨拶替わりに決闘してくる。」
…フランクに蛮族。
絶対友達にしたくないタイプだ。
決闘式とは言わずもがな。円の中で、一対一で闘う。ただそれだけ。1対1の模擬戦with真剣・魔術だと思ってくれればいい。
今回は先鋒、中将、王将の三人の一騎打ち。確か蛮族では勝者は次の決闘にも出場して連戦する方式がメジャーだった筈。
相手の大将は蛮族の族長で、こちらの大将は兄上。これに関してはひと悶着あったけれど、兄上がゴリ押した。
そんなこんなでちょっとした問題はあったけれど、ルール自体はシンプルで、打ち合わせも楽。こちらとしても助かる。けれど…。
「戦と言えば、普通は総力戦とかじゃあありませんかね?」
「ああ、そうだな。けれど蛮族としては、楽しい戦の方が良いらしい。」
「決闘て楽しいですか…?」
私の言葉に兄上は微笑を浮かべて一言。
「蛮族だからな。」
‥‥蛮族て言葉を万能ワードか何かだと勘違いてません??私も使ったけどね。
蛮族という言葉は案外便利なのだ。
それにしても、楽しい戦かぁ。何度もそういう光景を見てきたから、知識としては知っているけれど。でもなぁ…。
「理解はできませんね。」
私の言葉に兄上は肯定するように首を縦に振る。
「‥‥私だって理解はできん。だが相手は蛮族。三度の飯より戦いが好きな連中だ。理解する必要も無い。」
「うーん。やっぱり友達にしたくないですね。」
「私も嫌だぞ‥‥と。今度は飯か。」
蛮族の歓声とともに運ばれる大量の肉、肉、肉。激しい運動前だというのに、それらをがっつくように食べる蛮族たち。
そんな彼等を見て兄上はぼそりと呟く。
「毎度見ても、蛮族の飯は独特だな。肉しかしない。」
「それだけ美味しいという事なのでは?」
「じゃあ、フォーが食べてみるか?彼等は毒殺などということはしないぞ?」
「御冗談を。毒殺を図るのは蛮族とも限りませんでしょうに。」
「それもそうか。」
さて、もしあなたが大陸の人間でないならこう思うはず。『戦争てこんなお上品だっけか?』と。少なくともこんなルールに縛られていたものか、と疑問に思うかもしれない。
貴方の意見は正しい。その一方で間違っているともいえる。
その理由を今から話そう。まず、何故こんなお上品に戦争をするかというとだ。それはかつての王国が関係している。
私の曾祖父らへんか?とにかくその代の国王がやらかしたのだ。
その時の国王は兵士のスペックより戦略で勝負するタイプで、誰もは思いつかないような策で敵国を喰い破ったのだ。
それだけ聞けば『おお、ええやん。』てなる。が、問題がここから。
その策略の質だ。えげつなく悪質だったらしい。そりゃあもう身内ですらドン引きする程の狡猾で鬼畜だったそうな。
人質、磔、騙し討ち、賄賂、毒撒き、降伏のフリ、からの自爆なんて常套手段。他国の王妃や王子を楯に縛り付けて突進なんていうのもあったけ。
実際はもう二、三段階エゲツい作戦だったのだろう。
勝つことを目的にしちゃって、何の為に勝つのかを忘れちゃったんだ。お馬鹿さんともいう。とにかく勝つためなら手段を選ばなかったんだよね。
で、他国も阿呆の集団じゃない。黙ってやられっぱなしな訳も無く、死体の量が王城を超えたあたりから相手も手段を選ばなくなった。国王がやったことを真似たり、新たな外道の策を実行したり。
そうして大陸は修羅になっちゃったんだ。
大量虐殺がデイリーで行われ、天気予報に毒や死体の項目が加わり。いつしか皆の感覚が麻痺していった。
こうして当初の目的を皆忘れ。皆殺しまくった。当時のことは『戦国時代』とも言われ、赤子ですら戦争に利用されるような時代だったそうな。
開戦の関係者も粗方死んで、それでもなお地獄みたいな戦争は続いていて。それでふと誰かがおもったそう。
『もう戦争疲れた……。』てね。
でもまぁ、幾ら戦争に疲れたと言っても。そんな考えだけで戦が大陸から無くなる訳もなく。
それでまぁ、こうした格式ばったルールに則った戦争が誕生したわけ。
お上品に。最低限の犠牲で、政治力学的なスポーツを健全に。そうして新たな戦争ができたわけ。
この細かなルールの策定は、騎士団の仕事でもあったりする。だから騎士団は阿呆じゃ無理。
いや、下っ端ならいけるけど。でもこういう大きな局面で動く際は知力が必要だ。だって言語が違う他国と連絡を取り合って、文化が違う他国が受け入れられる『戦規』を協議するんだ。
少なくとも、戦局を任される人間に阿呆は無理。騎士隊長とかね。
とはいうもののだ。勝負において卑怯者やルール破りする奴が強いのは自明の理。
「サクッと蛮族を皆殺しにしちゃあ駄目なんですか?毒とか盛って。」
あいつらは不用心に敵陣前で酒盛りとかしているからね。確か影長が所見は悪酔いにそっくりの肺壊薬とか作ってた筈。
割といい考えだと思うのだが。兄上を見ると、再度首を横に振りながら私を見ている。
「‥‥駄目だ。」
「何故です?」
「今王国とゴタついているのはこの北だけじゃない。西、東に控える帝国と教国もなのだよ。」
「‥‥蛮族を規則破りで撲滅したとしても。両端を取られるという状況下で戦規無しの戦争はしたくないという訳ですか。」
私はその状況を想像し、思わずため息を吐いてしまう。
「そうだ。しかも両国とは未だ戦争中では無いが、規則破りを口実に正式に戦争に走られたら........。」
「今の王国の国力では太刀打ちできない、と。」
「‥‥。」
暗に肯定の意を込めて沈黙する兄上。
…ふーん。
「なんだ?」
「…いや、普段からそれだけ優秀だったら尊敬できるのになぁて。」
「どういう意味だお前!?」
そのまんまの意味ですよ。姉上さえ絡まなければ普通に良い王様になれるのに…。
「残念です。」
「おい待てどういう意味だフォー!!」
少し前のめりになりながら私を問い詰めようとする兄上。そんな兄上を遮るように近衛兵が慌てて幕に入り込む。
「突然申し訳ございません王子!!緊急の連絡です!!」
緊急の連絡?私と兄上は訝し気に目を合わせるがお互いに心当たりがない。
「…なんだ?」
「中将が敗北しました!王子!!出陣をお願いします!!」
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