戦争を好きな奴は嫌い part1
王国は、大陸の中央に位置している。
王国の南にはエルフやドワーフが住む森があり、森を挟んで獣国が位置する。王国の東には教会の総本山である教国、西には帝国がある、大陸は三竦みによる膠着状態。
「ふぇくし!!」
「大丈夫かフォー?」
くしゃみを聞いて、ワーン兄上が心配そうに私を見ている。しかし、幾ら兄上が心配してくれようともだ。当たり前だが気温は全く変わらない。
つまりどういうことかというと…。
「寒い。幾らなんでも寒いですよぉ…。」
見渡す限りの雪、雪、雪。最高級の毛布とはいえ、銀世界の中に頼りない布で作られたコートは余りに無力。肺がキシキシと唸るように痛い。
「春に入ったとはいえ、ここは王国の最北だからな。そりゃ寒いだろう。」
「…そういうのを言って欲しいんじゃないんですよね。」
「じゃあなんて言えばいいんだ?」
「自分で考えてください。」
「‥‥第四王子であろう?シャキッとしろ。」
ここまで言ってあげたのに、兄上は私の発言を戯言と判断したのか小言まで言ってくる始末。そんなんだから友達いないんだよ。
「今もの凄い失礼な事思わなかったか?」
「は?自意識過剰ですか?」
「うぐ。。」
私の言葉に胸を抑えてうずくまる兄上。見ていて憐れだが、それ以上に私は手が凍えそうで辛い。ていうか早く王都に帰りたい。
あ、良い事を思いついた。
「こんな公務を真っ先に廃止してくれるんなら、私、そいつが王になるの邪魔しませんよ。」
「さも名案を思い付いたみたいに言うの辞めろ。それ実質今と変わらないだろ。」
「そうですけど?」
「……。」
兄上がまたもや頭を抱え込むが無視。私は今、そんな些細な事に気を遣っている場合では無いのだ。今私がいるのは、王国の最北にあるアラウーノ地方。気温は氷点下2度。
寒すぎよ。
こんなクソ寒い場所にいる理由?
それは公務だからよ。仕事だから。仕事だったら文句言ってもいかねばならない。
…面倒臭い。
そもそも何でこんな所にいるのだっけか?
「…確か、北の蛮族との戦争視察でしたっけ?」
「そうだ。ついでに中央貴族は辺境に負担を背負わせて自分達は悠々自適に引き籠っている訳ではないというアピールも兼ねている。」
「…父王は閉じこもているでしょ?」
「ノーコメントだ。」
父王はまた新しい女ができたらしく、最近は寝不足だそう。しかもその女は獣国の女。サーシャ様に似ているという噂もあるとか無いとか。
死ねばいいのに。
殺意マシマシで空を睨んでいると、コホンとわざとらしい咳をして私を見てくる兄上。彼は言いづらそうな表情をしながら口を開く。
「…実はお前がここに連れてこられたのは、それだけじゃない。」
「は?」
見ると、兄上は肩をすくめている。
「寒い時期になるとお前は刺々しくなるだろ?中央貴族はそんなご機嫌斜めのお前に傍にいて欲しくないんだよ。」
「はぁ!?」
誰よそんなよいちゃもんつけたやつ!?怒るよ!?
「海千山千の貴族が私みたいなかよわいレディーにビビってると?‥情けない!!」
「‥‥情けない話だがな。そうなる…ておい、雪玉を投げるな。おいやめろ!?中に石を入れるな!!痛いんだぞ!!」
知るか。雪漬けにしてやる。
八つ当たりだと自覚しながらも、せっせと石玉を投げる私。
「おいやめろ!!面倒臭がって石を投げるな!!それは最早虐め以外の何物でもないぞ!?」
兄上が何か言っているが無視。雪投げるの楽しくなってきたわ。
それにしてもマジか…。私如きにビビるとか。王国の政治を舵取りしている人間がそんなのでどうするんだ…。大丈夫か王国?
「それだと他国の狸野郎どもに太刀打ちできないじゃないの。情けない。」
そんな私の言葉に兄上は雪まみれになりながらも、ゆっくりと首を振る。
「同感だ‥‥なんていうと思ったか?」
「へ?」
思いがけぬ兄上の言葉に、思わず呆けてしまう私。兄上はそんな私を見ながら拳を振るい口を開く。眼を見ると少し怒っているようだ。
「お前は八つ当たりでどこかの貴族を消そうとしていただろ!?そりゃあ怖いわ!!お前
「誤解です!!八つ当たりする奴はちゃんと選んでますよ!!『八つ当たりリスト』の記載されている奴だけです!!」
「もう実行済みだったのか!?」
「…黙秘します!」
「お前…。本当に…。誤解とかどの口が…。」
頭を抱えている兄上だが、無視。きっと雪で頭が痛くなってしまったのだろう。うん、そうに違いない。
「リストに載っているからと言って、何しても良いわけじゃないんだぞ…。」
兄上のうめき声が聞こえるが、無視!!
ここで説明しよう!『八つ当たりリスト』とは割と屑な犯罪しているけど証拠をガッツリ隠蔽しているから立件できない貴族の名前が記載されているリストだ!!
司法機関の能力育成のため普段は放置しているぞ!別名『影長とかスリー兄上とかの暇つぶしで人生オワコン貴族予備軍リスト』とも言われている!
つまり、そんなリストに載っている人物が消えても誰も悲しまないよねて話だ。
「いや、そうはならんだろう。」
「そうですか?」
痛みから抜け出せたのか、よろよろと立ち上がる兄上は私をしっかりと見据えて言葉を吐き出す。
「それに、皆がお前を怖がっている理由はそれだけじゃないぞ」
「というと?」
脚が小鹿みたいに震えている兄上の次の言葉は意表を突かされるものだった。
「冬のお前は、スリーや影長に近づくんだよ。」
「は?今の喧嘩売られてますか?最安値で買いますよ??」
「畏怖なんだが。」
「関係ないでしょう。」
スリーに似てるとかそりゃあもう最大限の侮辱だろうが。問答無用で殴っていい筈。
そんな私の怒気もどこ吹く風。兄上は蛮族の宴を見ながら飄々として…いやしてないね。脚がまだプルプル震えているわ。
けれど顔付きは毅然としている我が長兄は、目を瞑りながら口を開く。
「‥‥先週、子爵家全員が燻製になって発見されたらしい。」
「痛ましい事故ですね。人間の燻製は美味しくない事を知らなかったが故におきた、悲しい事件です。」
「‥‥はぁ。」
大きなため息を吐く兄上だが、何が言いたいのか分からない。
「何か?証拠でも見つかってるんですか?」
「‥‥見つかってはないがなぁ。」
「なら不起訴で終わりですね。」
「その言い方がなぁ。クソ、知りたくなかったぁ。。」
やっぱり何が言いたいのか良く分からない。迷宮入りの事件が一つ増えたと言う事だけじゃないか。
兄上がしれっと作った雪だるまを眺めながら、私は兄上が思考を巡らせる。
一体兄上は何を言いたかったのだろうか…。
今日一の謎である‥‥。
「あ、兄上。ジャーキー食べます?私、燻製大好きなんですよね。」
「この話の流れでよく燻製を食べる気になれるな…。」
は?兄上が何を言いたいのか分からないのだが。
「結局食べるんですか?食べないんですか?」
私の問いかけに少しだけ思案した様子を見せた兄上は、私の眼を見据えて口を開く。
「…人の肉じゃないなら食べる。」
「失礼ですね!?」
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