第2話 大作戦!された側

そもそも下手人が誰なのかさっぱり分からぬし、この一連の絵を描いた人間も分からない。そして短期間で自然な流れで私を陥れる頭脳とそれを可能にする人脈と情報力。



それを持っている人間が本気で私を潰しに来ているのだ。



あれこれ詰んでいんじゃね、と思ったころにはもう遅かった。


もう社交界や茶会では私が殺しの犯人だの死神王子だの好き勝手言ってくれているし、王位継承戦は私の負けだとか言われている。



「というわけで詰んでるのだよフォー。」




「そう、詰んでるのにゃ!!」




「五月蝿いですよ兄上。」




「冷たいな。」




「冷たいですにゃ。」




子猫の戯言を一切無視して紅茶を飲むフォー。やはり冷たい。




「私には関係がありませんからね。というかその子猫・・は何なのですか?喋る猫とか兄上も珍獣飼いだしたのですか?」




「珍獣ではない。れっきとしたペットだ。」



失礼な奴だな。



「それは可笑しいにゃ!ニャーもちゃんと仕事してるにゃ!」




「ああ、だから仕事しているペットだろ。」




「‥‥確かにそうにゃ。ニャーはペットだにゃ!」




「ほらな。というわけで助けてくれフォー。」




「‥‥‥(助けを求める奴の台詞じゃねえ)。」




自分では解決できそうにないので妹に泣きついたのがつい先ほどの話。いや、泣きついてはいない。兄としての威厳を最低限保ちつつ、誠意を込めて援助を要請した。が、結果は見ての通り。


めちゃくちゃ嫌そうな顔をされている。



「…はぁ。」



これ見よがしに溜息を吐かれた。


「私も忙しいのですけれどねぇ。。。」


「今物凄く寛いでいる人間が言うセリフか?」


態々室内庭園にテーブル広げて紅茶休憩て。余程の暇人以外そんなことしないぞ。


「兄上は知らないのですか?休息ですよ、きゅ、う、そ、く。」


「休息する暇はあるということではないか。」


「昨晩までは本当に忙しかったですけどね。誰かさんが疑われるようなへまをこいたからご機嫌窺いやら縁談の申し込みが急増したのですよ。」


「真夜中にまでか。というかサラッと私のせいにするなよ。」


私を信じないで即座に鞍替えするやつが悪いんだよな?

しかし我が妹は私の言葉をまるっと無視して口を開く。


「まあ、この時期になって急に所属を変えようとしたり、婚姻で関係を深めようとする浅はか無能貴族ですからね。礼儀も知らないクソ馬鹿貴族どもであっても不思議では無いのでしょうよ。」


「王家を介さず婚姻を申し込むとは勇者だな。」


「ええ。まるで我が兄を見ているようです。」


「ちょっと待て!?それは酷い偏見だぞ!!」


風評被害にもほどがある!!


この兄に対して尊敬の念をこれっぽちも滲ませない女は私の異腹の妹、第四王子フォーだ。




砂金のように柔らかくも輝く美しい金色の髪に、淡く艶のある肌。そしてラピスラズリのように静かで強烈な瞳。世が世なら、我が妹は美姫としていられただろう。


まぁ、母上を始めとした王妃達がいるせいで叶わないのだが。




ついでに言うとこいつは基本的に私への敬意がない。にこやかに敬語で毒を吐いてくる。しかし同腹のスリーに対する当たりと比べれば私への扱いは遥かにましなのだ。




可哀そうなスリー。自業自得である感は否めないのだが。



「それで、一応聞くが。。」



「私、ましてや私の派閥のものは絶対に何もしていませんよ。この命でもなんでも懸けてもいいですよ。」




「そうか。。。」




「やっぱりにゃ。。。」



この娘は王宮を牛耳る政争不干渉派閥の長。そしてその派閥の特性故に火種には敏感だ。常日頃からアンテナを張って不穏分子の動向をチェックしているに違いないし、ヒィが殺されてからより一層厳しく監視していたはず。




そのフォーが関係無いと言ったのだ。彼女の派閥を疑うよりかは他を疑う方が合理的だろう。




「あとこの件で妙な詮索を入れてきたら然るべき措置を取りますよ?」




「例えば?」




「『ドキドキ!?毎日家族の体の一部をプレゼントキャンペーン!!』です。」



怖!?


「ドキドキが本当にドキドキだにゃ・・・。」


「今なら『気になる異性の心臓ハートを鷲掴み!?ミンチにしちゃうよ!』もセットで付いてきますよ。」



性質悪すぎだろ。何故明るい顔でそんな残酷なことを言えるのかさっぱりだな。そして躊躇なく本人以外に危害を加えると言い切ったな。ある意味清々しく…ないな、うん。


本人は爽やかな顔をしているからつい騙されてしまうが、言っている内容に爽やかさなど一片も無い。ましてや澄んだ瞳で言える内容でも決してない。



こいつはだんだんスリーに似てきた。



「は????今何か失礼なこと言いませんでしたか兄上?」




「いや言ってない。」




フォーは時々私の心の声と会話してくるから心臓に悪い。



この心臓悪いガールの言い分を信じるとして、一連の犯人は中立派にはいなさそうだ。するとやっぱり、無所属かファイーブ派閥の人間だよなぁ。。


フォーを信じる理由?

それは当然妹を信じているからだ。

‥‥決して脅しにビビったというわけでは無い。


無いったらない。


考えを戻そう。無所属とファイーブの主要貴族を思い返す。

うーん、やはり分からない。ファイーブ派は動機の線でいくと色々いそうだが、卑劣な手を嫌うあの派閥が人命を利用した罠を使うとは思えんし。


なら無所属か?


私が無所属の貴族について思案していると、フォーが呆れたような目つきで私を見る。そして紅茶を口に付けながら私に問いかける。



「それにしても兄上は未だ手がかりすら無しですか。」


「ああ。分かるのは相手が手練れという事だけと、さっき言ったことだけだ。」


「ワーン様を嫌うツー姉上、ファイーブ、そして賢者様と父王のみしか網にかからなかったのにゃ!!」


インの返答にあからさまに落胆した表情を見せるフォー。気持ちはわかる。だがだからと言ってため息をつくな。せめて向こうをむいて吐いてくれ。


調査自体は至極すんなり運んだのだ。もうこれ以上なくすんなりとだ。


だが問題は結果だ。



何度も調査を行っているにも関わらず、ツー、ファイーブ、賢者様、父王。この4人の名前しか出てこない。他にも悪評やらを吹聴している人間はいるが、辿っていけばこの4人に終着される。




「愚弟ファイーブや、愚妹ツーに裏工作は無理なのは言うまでもない。」



「あの御二人は不器用すぎるし、正義感が強すぎるから暗殺込みの作戦なんて立てられないにゃ。」



私とインの私見に、スコーンを頬張りながらフォーがコメントしていく。


「ええ、私もそう思います。ですから二人が主導したとは考えにくいですね。」



「それで残る疑わしい人物は父王や賢者様。」



「あと兄上もです。」



「そうだにゃ。ワーン様も容疑者の一人にゃ。」




五月蝿い。自分で自分のことを疑わしいなんていう奴がいるか。




「それに私が犯人では無いという根拠はある。」


「‥‥しょうもない精神論とかだったら怒りますよ。」


「ふっ、心配するな。私がそんなしょうもない事を言うわけないだろう。」



…そんなことを今のフォーに言ったら何されるか分かったものじゃないしな。



「では何です?」



「立ち眩みがするからだにゃ。」



「そういうことだ。」




一週間も徹夜で過ごした人間に激しい運動させてみろ。目眩と貧血で倒れるわ。




「はぁ。。。」




おい何だその目は?精神論じゃなかっただろ?それにしても、残る容疑者は父王と賢者様の二人なんだが。。




「だがあの二人が一貴族の殺害に関与すると思うか?」




「兄上がそれだけ嫌われているとか?」




「ありえそうにゃ!!ワーン様はあの二人にバチクソ嫌われてるにゃ!!」




「そこまで嫌われているのかしら?」




「そうにゃ!!なのにワーン様はその二人に認められようとしているから笑えるにゃ!!」




おいクソ猫。


インの言葉を聞いて私を見てくるフォー。おいやめろそんな憐みの目で見るな。




「な、なんだフォー。なにか言いたいことがあるなら言ってみろフォー。」



「‥‥今日はお日様が綺麗ですね。」




馬鹿にしているのか!?


ここ室内だぞ!?太陽どころか空も見えんわ!!


しかし気を遣っている妹を怒鳴っても仕方がない。唇が震えるのを自覚しながら私は言葉を発する。



「た、確かに私は父上と賢者様に嫌われているかもしれない。」


「かもしれない??まだそんなこと言っているのですか?嘘でしょ?」


「現実見れないメンヘラ彼女みたいなこと言ってるにゃ。」


「五月蝿い!!例えそれが事実だとしても、だ。だからと言って…」




だからと言って殺すか?




無能な王国貴族ならまだしも。今回殺されたのはまぁまぁ有能な王国貴族だ。殺されては困る。実際、王国の政治能力は落ち、外交・内政の両方に支障が出た。




そしてその結果が私の徹夜連勤だ。





犯人はミンチにしてやる。



例え八つ当たりだったとしても!!


犯人は絶対ミンチにする!!


「兄上どうしたんでしょう。」


「どうせしょうもないこと考えているのにゃ。」


「なるほど。納得です。」



ミンチだ!!

ハンバーグにしてやる!!

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