第3話 妹トーク・ザ・ラスト

ともかく、内部争いで国の総戦力がガタ落ちするなんて洒落にならない。



「それが分からない父王や賢者様ではないだろう?」




腐ってもこの国の長だ。誰を殺されたら王国が困って、それを私怨でするべきことではないことぐらい分かっているはず。




「‥‥だからやはり外部犯かにゃとワーン第一王子は疑っておるのにゃ。」




「この緊張時に高位貴族邸のセキュリティ抜けての暗殺をこなし、そして兄上をスムーズに嵌めた力量。こんな人材が王国にいるわけございませんしね。」



そうだけど。そうなんだけど。大声で言われると、こう、何か哀しい気分になるから辞めてくれ。



「けれどもし。もしも王国民ならその力を王国につかってくれればよいのだがな。。。」



「そしたらもっと頼もしいのににゃ…」




他国の有力貴族へ攻撃し放題だ。何せ潜伏スキルに人を嵌める知略もあって、武闘派貴族を斬るだけの力もある。


私が受けている苦労をあの性格ひん曲がっている帝国貴族や教会にできるということ。


…いやマジで欲しいな。有能すぎるだろ。


私の渇望に満ちた言葉にフォーは…笑っている!?



「あはははははははははあははははは!!???」



「????」




急に大爆笑する妹。


戸惑いが隠せない。笑う所だったか今の?フォーとスリーの沸点は謎だから本当に困る。陽気な子猫であるインもドン引きしている。




「ひーひひひ、お腹痛いですよ兄上。笑わせないでください。」




「何かおかしかったか?」



「…にゃにゃ?」



「ふふふふふ。」




私の問いかけにまたもや噴き出すフォー。申し訳程度に笑いを堪えているが、うん、まぁ、もろバレである。


「‥‥なぜ笑ったのか理由を聞いても?」


私はおそるおそる尋ねる。恐怖もあるが、好奇心には勝てなかった。

するとフォーは、心底馬鹿にした表情で私を見る。そしてにこやかに口を開いてこう言った。



「…いやだって、こんな国のために?力を尽くす?冗談でしょ。」




「一応言っておくが、王国は我らが母国ぞ?」




「ホーム、スイートホームにゃ!!」




インでさえこう言っているが、私を見るフォーの目は心底阿呆を見るよう。なぜそういう目で人をみるのだ?シンプルに傷つくぞ。




「たかが母国ですよ。それ以上でも以下でもありません。家みたいなものですよ。壊れたら捨てて新しいとこに引っ越せばいい。」



「ふむ、私はこの国が好きだがな。当然家もだ。」




私からすれば、故郷を嫌うという発想が分からない。しかしフォーからすれば、そんな私の思考の方が理解できないのだろう。彼女は鼻で笑いながら私を見る。




「こんな将来性ゼロの国のどこがいいんだか。」




「その将来性を確保するのが王族の仕事だ。」




「なら早く王位継承戦を終わらせてくださいよ。支障が出て迷惑です。」




笑いながらサラッとこういう爆弾発言をぶっ込めるフォーは本当に怖い。


こういう話がある。ある日、フォーは父王の親友を女子供の親族に至るまで全員拷問に掛けた。それを見て悲しみと怒りに満ちた父王にフォーはなんて言ったと思う?


保身の為ですって。父王にきっぱりそう言い切ったのだ。因みに私はそれを目の前で見ていた。度胸とかそういう陳腐な表現で言い表せないものをフォーから感じたものだ。



それにしても王位継承戦の早期決着か。。。



「またそれか。」




「ええ。何度でも言いますよ。」




「それなら私だって何度も言っているだろう。」




溜息を吐きながら私はフォーを見る。




「権力闘争というのは蟲毒の儀式。王国と異なり、世界は文化も言語も宗教も種族も違う。そんな世界相手に生き残る組織の長を作るのに必不可欠で、そんな国王を作る儀式が一朝一夕で終わる訳ない。」




「だから長引くのは仕方ないのにゃ!!」




「ええ。何度も聞きましたね。」




王位継承戦とは王子による王位を懸けた争い。


なお王国では、男女性別問わず父王の子は王子にカウントされる。




継承戦のルールは細々とあるが、最大の特徴は王子への暗殺を仄めかしているという点だ。証拠が無ければ期間中の殺人は罪に問われない、とかだな。これのせいで毎回血みどろ死人アリのハッピーゲームに変わる。


ちょっと頭可笑しいくないかなと思わなくも無いが、そういうのに順応できるのは国王への必須条件。




ルールに組み込まれていても不思議ではない。




それが現在、我が王国で繰り広げられている争いである。これに参加している継承候補者は、私ことワーン、愚妹のツー、同腹の兄妹スリーとフォー、そして末の愚弟ファイーブの五人の王子。




フォーは中立派で、スリーは私に付いているが、残るツーとファイーブの共同派閥が私と敵対しており、私かこのファイーブ派閥のどちらかが倒れねば継承戦は終わらない。






「長引く理由が分かっているのならしばし待て。あと数年もあれば終わる。」




「あと数年、ですか。。幾ら兄上より優秀なツー姉上とファイーブが手ごわい相手とはいえ、苦戦しすぎだと思いますけどねぇ。」



「違う!!」


こいつ!!言いたい放題言わせておけば!!



「私は断じてあの愚妹に苦戦などしていない!そしてアイツ等は私より優れてなどいない!」




「違いませんよ。現実を見て下さい。」




「苦しい言い訳だにゃ。」




私の言葉に冷静に返すフォーとインだが、今の言葉は看過できない。特にイン、お前は私の飼い猫だよな?素晴らしいペットからの信頼に私は涙が出そうだ。




しかも、私があの愚弟ファイーブ、ましてや愚妹ツーに劣るなどと、世迷言を!




「今、継承戦が長く続いてるように見えるが、歴史を紐解けば寧ろ短いほうだろう!」




1000年以上続く王国史の中で、最長の王位継承戦は25年、そして短くて7年!!ところが私の代の継承戦は始まってからほんの4年しか経っていない!!




「つまりこれは前例の範囲内どころかもっと早い!!私の手腕によるものだぞ!」




「そうなるように私とスリーが頑張っていますからね。兄上の手腕ではありません。」




「ぐ。。。」




100%正論だ。私の手腕は見栄を張りすぎたな。そして私に正論をぶっかけたフォーは、畳みかけるように言葉を私にぶつけていく。


「それに兄上と姉上は産まれた時から対立していたでしょう?その年数があっても決着がついていないことを考慮すれば、ワーン兄上があの二人に苦戦していることは少なくとも事実でしょうよ。」


言わせておけばコイツ!!


「あのような組織力学を軽んじてる奴にだと!?」




それはありえぬ!



組織力学は組織の健全化と成長を自己補完するための必須条件!それを馬鹿にしている低次元の人間に劣勢を強いられているわけが無いだろう!!




そもそも、あのような若造が他の老獪な獣に喰い殺されるのが普通なのだ!そうやって逆境と痛みを経験してひよっ子は育ち、強靭な心と経験を手に入れるのだ。


稀に逆境に立たされずに成長するしぶとい人間もいる。それは事実だ。だが、だがしかし。アイツらのしぶとさは、個人のものでは無いだろう!




「それもどれも父上達のせいで。。。」




「ワーン様。」




突如発せられるインの声。その冷静な声で失言に気付く。ああ、危ない。危うく侮辱罪に冒すとこだった。




「‥‥済まない、今のは聞かなかったことにしてくれ。ありがとうイン。」




「良いってことにゃ。それよりも晩飯は高級魚を求めるにゃ!!」




そうだな、飯ぐらい奮発してやろう。私は胸をなでおろし今晩の夕食を考える。




だがその前に、愚痴ぐらいは言わせて欲しい。




今回の王位継承戦では、基本的に不干渉を貫くべき立場である父上や賢者が、露骨にツーやファイーブを贔屓している。そんなことをするものだから、貴族間でのパワーバランスが崩れているのだ。私が必死に票を搔き集めても、彼等の一声でひっくり返ったことが何回あることか。父王は何を考えているのか私には理解できない。




父王を批判するなんて許されないから、口には出さないが。気に食わないからと言って長年の王政の根幹を覆すような真似は私はしないのだ。


本当にインには感謝だ。




「まぁ、とにかくだ。あやつら…「兄上と子猫ちゃんの意見には同感ですね。政争を疎んじている癖に態々姉上やファイーブを擁立して、王国に爆弾ぶっこむ父上の神経はどうかしてます。頭が狂っているとしか思えません。」‥は、‥お、おう。そうだな。そういう意見もあるかもな。私からの個人的見解は控えさせていただくが。」




「とんだチキンな王子だことです。」




「す、すごい。歯に衣一切着せないにゃ。」




フォーは不敬罪とか全く気にしていないな。こいつのこういう所は本当に羨ましい。インですらビビっているぞ。




「…と、とにかく、そういう理由で継承戦は止められないし、長引いているのだ。仕方が無いだろう。」




別に、継承戦という名の身内争いを全肯定してるわけではない。私だって早く終わるものなら終わらせたい。それのせいで人生がハチャメチャになった民の恨みも分かる。自分達が今晩の食事を確保するのに必死になっている中、高級料理を摘まみながら椅子取りゲームをしていればそりゃあ腹が立つだろうことだ。




ただ、帝国は勇者を生産し、教会には十二使徒と聖女がいる。獣国には聖獣がいて、魔族には魔王がいる。他にも龍王、海神、魔物の盟主、悪魔、天使。世界には様々な覇者がいる。




そんな奴らが虎視眈々と他国を狙い、また他国より豊かになろうと技術を発展させていく。そんな目まぐるしく進歩していく中で、王国が王国であり続ける為には、覇国という立場に留まり続けるには、我々も全力で走り続ける必要がある。




その屈強な走者を作る場が自国内の政治であり、王子にとっては王位継承戦なのだ。




「そんな大切な儀式に手を抜くわけにはいかないだろう。」




「そうですね。」




私の言葉に納得してくれたのか、それ以上の批判は言われなかった。良かった。と思ったが違うようだ。剣呑な輝きを持って彼女はまだ私を見ている。


私はまた何かやらかしたか??




「この政争の目的はあくまでレベル上げ。王国を壊すことではない…ですよね?」




「あ、ああ。」




な、何かやっちまったか??何か酷い地雷を踏んだ気がするぞ!?




私の予感を裏付けるように、ニコニコと笑いながら話しかけてくるフォー。いるよな、怒る時ほど笑っている人間って。私の目の前のフォーとかいう人間がまさにそれだ。これはかなり役立つ情報だから知っておいた方が良いぞ。




「王国はかなり限界に近いですけど?金欠貴族は一攫千金を夢見て暗殺者を雇い、市街地にはこの不景気のせいでスラムが侵食し、ギャングとマフィアの進出による治安悪化が著しい。教会からの干渉は一層苛烈になっていますし、農作物の育ちも不安が残る。帝国はそれに付け入る隙を探していますよ。」




「あ、ああ。そうだな。」




ほら怒っている。




「私ではもう処理しきれないと前々から言っているのに兄上達はマダ、ツヅケルノ?」




「そうだな。」




「ナンデ???」




ひぃ!?




「ファ、ファイーブをやる気にさせた奴が何を言うか。ファイーブがあのまま腑抜けた態度なら、私の勝ちは確定だった。1年もせずに終わる所だったろうが!」




なんとか返答するも、私の声は震えている。でも仕方ない。だってフォーだもの。



フォーの望みは平穏。世界一実現困難な目標を掲げる彼女は、そのための手段を選ばない。



父王の親友を血族諸共拷問に掛けた時も私情ですって言い切ったものな。父王相手に。その後ガンガン煽っていたし。



そんな人間を敵に回したいとは全く思えないしビビるのは当然のことだ。



話に出てきたファイーブは私の愚弟で、唯一の対立候補。幼き頃から天才としての名を冠し、異界の知識を持っているのではないかと言うほどの洞察力と考察力の持ち主。




王国の苦境を救っただけならまだしも、貴族の臭いものを次々を暴き、既得権益と利益独占を否とし身分平等を掲げる狂人だ。理解が出来ない。人が努力するのは自己の権利を確保するためだというのに。


ただ、政治干渉制限も低く、そう言った争いに無頓着で興味が無かったお陰で、政争では弱小だった。




であるのに最近は人が変わったかのように積極的に手柄上げに参加し、発言を強めようとしている。




お陰で相手の士気はこれ以上なく上がり、風見鶏の半分はアイツについた。誰かさんがファイーブの火を付けさせたせいでな。






「それは私のせいじゃないでしょうよ。八つ当たりは辞めて文句は直接スリー兄上に言って下さい」




「むむ。。。」




そう、そのファイーブを焚きつけた人間こそが王国の第三王子であるスリー。大体の元凶はアイツと言われている程評判が悪く、フォーの同腹の兄。同じ腹から生まれてどうしてここまでの差があるのか不思議である。




にしてもアイツは私の派閥だよな?敵であるファイーブを覚醒させて、私に報告一切してこなかったぞ。




あいつは本当にそういう所がある。幾ら問い詰めても「家族を愛しているから」としか答えやがらないし。その家族の中に私が入っていることを祈るばかりである。






「‥‥だから、その件も兼ねてお前の下へ来たのだ。」







そしてそのスリーに唯一、対等で話せるのはフォーだけなのだ。






…いや私だって兄だからな?話せはするよ?だが内心ビビりまくっている訳だ。





悪いか!?弟にビビって悪いですか!?



悪くないよな!?だって怖いんもんな!?怖い奴にビビっても悪くないよな!?

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