第1話 実りと言えば秋なんだって
季節は秋。
突き刺さるような熱が襲う夏は過ぎ去り、木々の緑も赤く色付き始める時期。
いや本当に今年は暑かった。異常気象とかいう奴だな。
そんな地獄の釜茹でのような悪夢の季節は過ぎ去り、今は秋。凍えるような冬へと備える季節だ。
王国の主要産物である葡萄を熟成させたワインが市場に新規流入し、紅葉は色艶やかに森を彩る。市民は秋の味覚に舌鼓を打ち、音楽を奏でる。果肉を口いっぱいに頬張るのもよし。猪などを狩るのもよし。
肉、果肉、魚に野菜。
文学、絵画、音楽、祭り。
心のままに、実りを楽しめばよい。
因みに私はチーズが好きだ。
とくにあの外がパン粉でパリパリになりながらもその中がトロトロに融けたやつだ。グラタンとかラザニアのやつな。
酒が進むとか言う人間がいるが、あの食事事態がもはや完成形であり酒という無粋なものを入れ込む必要は一切ない。ただ、全にして一。あれだけで一つの世界なのであって、「大変だにゃ王子!!」‥‥。
自分でも不機嫌になっていくのが分かる。だが、インの報告を無視するわけにもいかない。私はゆっくりとインの方に顔を向ける。
「・・・なんだ。」
「スゴクツ子爵がご逝去なされましたにゃ!!」
「それで?」
「・・・・また、暗殺かと思われるにゃ。」
「そうか。」
インの報告を聞きながら、私は思考する。
この実りを刈り取るこの時期。現在王国においては貴族の命を刈り取るブームがあるらしく、ここの所誰かしら死んでいる。
…物騒すぎないか?
私が幼い頃はこんな殺伐としか秋ではなかったぞ?
とはいえ私も王族。貴族の長として何かしら手を打たねばなるまい。さて、この一連の犯行を私はどう捉えるべきか‥‥特にないな。
いや、やる気が無いとかじゃないぞ?ただ、情報が足りなさすぎる。手を付けようにもその隙が無いのだ。
そんなことに手を付けるぐらいなら、まずは目前の書類を片す方が先だ。
「それだけじゃないにゃ!」
「あ?」
「その日はワーン様が周辺におられたという人がいたのにゃ。」
「またか!?」
ここんとこ政務室で徹夜連勤だったんだが!?
自分でも目を見開いているのが分かる。驚きの余りペンを落してしまったしな。
それにしても、私を見たという人間は一体どういう神経をしているんだ?普通に考えて王子が無断で城外に出てこないだろ。いや、それだけ私そっくりだったのか?
は!?まさか私はNINJAなるものが扱う分身術を手に入れたのか!?それで無意識の中に分身が向かって行ったと!!
抑えきらない童心が私をの胸を期待で膨らませる。今日の仕事は是非ワーンwith分身で瞬殺しよう。
「それを聞いて騎士団はワーン様を犯人だと断定したにゃ!!」
「。。。。。やれやれ。」
というわけで、その最重要参考人兼もっとも疑わしい容疑者が私、ワーン第一王子なのである。王子が殺人犯とか笑えないが、そう思われているのだから仕方が無い。
「どうしてこうなったにゃ!!」
「そうだな。でもお前が言うな。」
さて、改めて言おうか。
どうしてこうなった。
事の始まりから説明しようか。
3ヶ月前、ヒィ公爵が殺された。コイツは普段から私と意見が違う事が多く、政治の二大派閥として有名だった。
私が賛成であればヒィは反対。私が否定的であればヒィは肯定的。消極的なら積極的。こんな風に私とはしょっちゅう対立していたものだ。
案の定、今回の税率においても対立した。私は税率を上げて国家予算を増やすべきだと提案し、奴は税率を下げて国民感情を宥めるべきだと言った。そんなことしてる暇が無い程に国庫は空だと言ったが、それでも奴は国民の疲弊を訴えていた。
心底腹が立ったが、一理あるし予想もしていたことだ。次の議会でそいつの意見ごと捻り潰そうと思っていた。
そしたら死んだ。喉ぼとけをばっさりやられて失血死だったそうだ。
反増税派は旗頭を失い、なし崩し的に私の意見が通った。反増税派はヒィ公爵以外は阿呆だったわけだな。奴は味方に恵まれなかったのだバーカバーカ。。。。。
そこから私が殺したのだという噂が流れた。
何故だ!?
「あの時の噂は脈絡が無さ過ぎて困ったにゃ。。。」
「全くだ。ヒィが死んで一番驚いたのは私だというのに。」
「いや、一番驚いたのは死んだヒィ公爵本人に決まっているにゃ。」
「確かに。それもそうだ。」
まあどうということもない。ただの阿呆が流したデマだ。こんなの信じるのは我が愚妹ツーしかおらぬかったし、政治に詳しいものなら私とアイツが議論を肴に飲みあう仲だということを知っている。
そもそも、私もあやつも国を想って故の政策と意見の対立だ。だからどちらが通っても双方潔く認めるし、殺してでも否定しようとは思わない。
こんな根拠もない正当性もない噂なら取るに足らぬし、変に火消しに回れば却って疑われる。水面下で噂を吹聴する奴を探しつつも、些事として放置していた。
次にフゥ侯爵が死んだ。こいつはヒィ公爵とは異なり、私とは根本的に反りが合わなかった。国民に耳障りの良い綺麗事を言いふらし人気取りに専念するような奴だった。
特に腐敗貴族を叩いて叩いて叩きまくり、自分は正義面して人気を稼ぐ手法は本当にムカついた。自分は何もしていない癖に他人の欠点ばかり責めやがって。自分も何かしろってんだ。
愚妹ツーの次に殺したいほどに憎たらしい相手だが、こういう人間も政治には必要なので放置していた。
「他人に殺されるぐらいなら私が直々に裂き殺してやりたかった。。」
「そんなことを言うから、犯人だって言われているのにゃ。」
「いや、誰にも言ったことないぞ。」
「誰にも言ってないことを私に言うにゃよ。」
「ああぁぁぁぁ。。。。。」
「そんなに嫌いだったのにゃ。」
私はアイツが大っ嫌いだった。けれど先ほど言ったように、辛うじて潰さなかった。理性を総動員して自分を抑えていたのだ。
奴は弟であり、私の派閥にいるスリーのお気に入りだったということもある。なんでお気に入りが敵対派閥にいるんだよコノヤロゥと思ったが、やっぱり放置していた。
それが死んだ。武具の取り締まり法で私とは逆意見の武具解放派の旗頭だった時に、だ。
今度も私が殺したのだという噂が立った。余りに近い時期に事件が連続しているので、策略の匂いを感じた。噂を流布している人物を詳しく調べてみることにした。
結果、私を嫌う愚妹ツー、愚弟ファイーブ、そして賢者と父王のみしか網にかからなかった。この4人はいつも私の悪口を言っているので、大した収穫があるとは言えない。
こちらの手がかりは無い一方で、予定調和のように事件が起きた。
私の派閥で、脱税を働いていたミィ伯爵とかいう男の死亡が明らかになった。
「ワーン王子が自分の罪を擦り付けて殺した」という噂が立った。疑うまでも無く私を狙っている。
今まで以上に本腰を入れて捜査することにした。
成果は変わらなかった。
「無能な調査団だったな。」
「喧嘩売ってるのにゃ?」
「事実だろうが。」
「ぐぬぬぬぬぬぬ。。」
無能な調査団の一員が唸っているが無視。
そこから私の対立意見を唱える高位貴族は殺され、私の派閥の人間は汚職が明らかになりながら死んでいった。一晩で二人も殺されていたこともあった。気付けば私には「人殺し」のレッテルが貼られていた。剥がせないほど強く貼られていた。
ミィ伯爵が殺されてからこの間たったの二週間。
正直な話、手の打ちようが無い。
推理小説のようにスパッと解決できればなぁ。。。
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