11話:涼森鏡花はキャリアウーマン②
カフェでしばしの一服後、なんば駅から僅かに逸れたディープなスポットへ。
その名も〝でんでんタウン〟
大阪の秋葉原と呼称される場所で、PC製品や電化製品、ゲームやアニメの専門店などが多く立ち並ぶ、いわば電気街というやつだ。
そんな電気街の一角、雑居ビル内にある大手PCショップへと足を踏み入れれば、涼森先輩は「おおー」と感嘆の声を上げる。
「当たり前だけど、パソコンの商品ばっかり!」
知的なお姉さんでさえ、小学生並みの感想になってしまうほど。
見渡す限り、パソコン・パソコン・パソコン。
PC本体は勿論、ハードウェアからソフトウェア、アウトレットや中古まで何でもござれ。
宣言通り、涼森先輩は休日をまったり過ごす気満々のようだ。ショーケースに並べられた商品の数々を、それはそれは興味津々に眺め続ける。
「ねえ風間君。この小さい扇風機が3つ付いてる商品は何?」
「グラフィックボードですね。映像や画像なんかをより鮮明にするパーツです」
「巨大ロボットの操縦席にありそうなコレは?」
「巨大ロボット? ああ。それはミキサーって言います。ゲーム実況や楽器関連なんかの音量を調整するときに使う機材ですね」
「えっ! 何このマウス! 虹色に光ってる!」
「それは男の浪漫です」
ゲーミング機器あるある。虹色に光りがち。
俺のクソ適当なガイドまで、「男の浪漫かー」と鵜呑みにする涼森先輩は、童心に返ったかのよう。マウスのLEDが瞳に映り込んでいるだけなのに、本当にキラキラ輝いてさえ見える。
「風間君に連れてきてもらって正解だね。私1人だったら全然分かんないや」
「いやいやいや。俺もゲームで使うパーツくらいしか詳しくないですって」
普段からお世話になっている先輩なだけに、頼られれば頼られるほど、こっちまで嬉しくなってしまう。好きなジャンル故、テンションだって上がってしまう。
「パーツ1つ取っても、ゲームの性能って大きく変わるものなの?」
「ぶっちゃけ、全っっっ然!!! 違いますね」
「ほうほう。たとえるなら?」
「う~~ん、たとえるならそうですね……。ママチャリ集団の中に、本格志向のプロレーサーが1人混じってる感じッスかね」
「あははっ! 何その独特なたとえ! けど、すっごく分かりやすい!」
我ながらアホ丸出しなたとえだったものの、涼森先輩に伝わって何より。
笑ってもらえたことが嬉しかったり、誇らしかったり。
そんだけツボに入られると、小っ恥ずかしい気持ちが一番強いけども。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
お目当てのキーボードパーツも見つかり、難なく購入完了。
難なくとはいえ、やはり入手できたことが嬉しいようだ。
「なんだか、水族館や動物園に来たみたいで楽しかったなぁ」
ほっこり笑顔の涼森先輩は、すれ違うビラ配り中の猫耳メイドに負けず劣らず。何ならメイド服にお着替えしてもらって、ニャンニャン言ってほしいまである。切実に。
煩悩に支配されていると、涼森先輩が、ひょこっと下から覗き込んでくる。
「それでさ、風間君。今買ったパーツを修理してくれるお店に持っていけばいいのかな?」
「あっ、いえいえ。修理店に持ち込まなくても大丈夫ですよ」
「?」
「簡単にキーボード外せるタイプなんで、俺がやっちゃおうかなと」
「えっ」
予想だにしない回答だったらしく、涼森先輩は青信号にも拘らず立ち止まる。
「さすがにブッ壊すようなことはしないと思いますけど、どうですか?」
「私としては大助かりだけど、そこまでしてもらっていいの……?」
遠慮気味な涼森先輩に対し、ニッと笑ってみせる。
「ドンと来いですよ。てか、普段からお世話になってる分、ここで回収させてください」
紛うことなき本心である。
新卒のぺーぺー時代から良くしてもらってる先輩なのだ。自分にできることがあるのなら率先して力になりたいに決まっている。
俺の発言が、あまりにも柄にも無かったからか。
涼森先輩が唇に指を押し当て、クスクスと笑い始める。
「ちょっとクサすぎましたか?」
「ううん、だいぶカッコよすぎたから。ついつい嬉しくなっちゃったの」
「……っ!」
「それってニュアンス的に同じ意味じゃね……?」とツッコミたくなるものの、男という生き物は単純。年上お姉さんに褒められてしまえば、頬が緩みそうになるのを必死に堪えることしかできない。
「それじゃあ、お言葉に甘えて風間君にお願いしちゃおうかな」
「う、うす! 全力で修理させていただきます!」
「今すぐ作業しろ」との御命令があるのなら、電気街のド真ん中で胡坐をかいて作業するくらいのモチベっぷり。迷惑系ユーチューバーかよ。
冗談はさておき。解散するにせよ、しないにせよ。交換用のキーボードやらノーパソやらは、俺が預かっておいたほうが良いだろう。
先輩の荷物へと手を差し延べたときだった。
「あっ。良いこと思いついちゃった」
「??? 良いこと、ですか?」
「うん」と頷いた涼森先輩が次に取った行動は――、
「!!!??? す、涼森先輩!?」
俺が驚くのも無理はない。
荷物を回収しようと差し伸べた俺の手を、涼森先輩が握りしめてきたから。
そして、にっこりスマイルで言うのだ。
「私の家で修理しちゃいなよ」
「…………。!? えええええ~~~~っ!?」
電気街の中心。サンシャインばりの咆哮に、通行人が何事かと注目してくるものの、気にする余裕などあるわけもなく。
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ちょっと短いので、今日の22時くらいにもう1話投稿します。
最近寒くなってきましたが、体調管理には皆さんお気をつけて!
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