第7話 とりあえず自慢はしたいよね?
「よう、相変わらず仲良いじゃん」
違うクラスの美空と廊下で別れ教室に入ると、一応友人? の二人がニヤニヤしながら俺の元にやってくる。
一人は
砂糖と塩コンビと俺は命名している。
明彦とは同じ小中学校出身、登志夫は明彦の紹介で高校から知り合った。ただ、一応友達とは言っても付き合いはほぼ学校内でだけ、放課後や休日に遊んだりはしていない。
別にコミュ障ってわけではないが、俺は小学生の頃から殆んど友達は作らなかった。
それは……妹との時間が減るから、残り少ない時間、出来るだけ一緒にいたいって思っていたから……。
そして今でも……俺は、妹最優先だから……。
「とりあえず……仲は悪くはないな」
最近はそうでもないが……まあ、まだ義理でもバレンタインが貰える程度には仲は良い。
まだSH迄時間はあるが、とりあえず俺はこいつらの話を聞きつつ、机の中から教科書を取り出し、授業の準備をする。
「それで付き合って無いとか、マジ謎過ぎるな」
「幼なじみなんて、そんなもんだろ?」
「知らねえよ、こちとら女っ毛なんてまるでねえ、バレンタインなにそれ美味しいの? だぜ」
短髪細マッチョのサッカー部、モテる要素は十分にある明彦は、ヒラヒラと手を振り諦め顔でそう言った
「で、チョコレートは貰ったの?」
いつもやや一歩引き気味で明彦が一通り喋った後に、付け加える様に話始める登志夫。
身長は低く、髪も長め、一見女子と見間違う顔立ち……しかもサッカー部マネージャー……常に明彦と一緒にいる為、誰も言わないが明彦がモテない原因はこいつのせいと思われる。
今でもクラスのお腐れ様達が目を爛々と輝かせ二人を拝んでいる。
「まあね」
俺は美空から貰ったチョコレートを、チラリと二人に見せつけた。
「うおおお! ちょこせ、いやよこせ! 一口、舐めるだけ! 一舐め!」
「ちょ、ちょっと明彦、恥ずかしいだろ!」
登志夫が暴走する明彦を羽交い締めにして止める。
いつものお約束……お前らわかっててやってるんだろ? そうだろ?
「ハアアアア……」
その瞬間周囲からため息が漏れ聞こえる。
もう本当……お前らで付き合えよ……。
そう心で呟き、俺も違う意味でため息を漏らした。
丁度? 話が終わったのタイミングで、始業のベルが鳴り、それと同時に担任の
お腐れ様へのサービスタイムはここで終了、何人かは俺に親指を立てグッジョブとサインを送っている……。
朝のSH、そそくさと出席を取り、必要事項を伝えると、入って来た時の倍のスピードで教室を後にする美登里ちゃん先生。
地理歴史の教師で、恐らく歴女……なので授業では生き生きとしているんだが、どうも担任、特にホームルームは苦手で授業以外は常にオドオドとしている。
でも、まだ若く独身そして可愛い顔立ちから男子には好かれ、女子にも親身になって相談に乗ってくれる為に人気は高い。
そして午前中の授業をつつがなくこなし昼休み、周囲では男子と女子の駆け引きが始まるのを横目に、俺はいつも通り自分の机で弁当を開く……。
「げ……」
今日は妹が弁当の当番、妹は毎日作ると言っているのだが、流石に負担が大きいので、交代で作っている。
そして妹が担当する日は要注意なのだ。必ず弁当のチェックが必要となり、場合によっては一人で食べなければならない。
とはいえ、俺と一緒に食べる奴は明彦と登志夫くらいな物で、二人は週の半分はサッカー部の部室に行き、残り半分は購買に行ってから戻ってくる。
今日は部室の日、なので慌ててチェックする必要は無い……が……。
「やっぱりそう来たか……」
自称愛妻弁当と謳う妹の弁当には必ずハートマークが一つ以上入る。
ニンジンをハート型に切ったり、海苔をハートにしたり、ゆで卵をハート型にしたり……。
だから明彦達と一緒に食べる日はまずそれらを先に食べなければならない……。
だが今日はバレンタインデー……嫌な予感はしていたが……流石にこれは……。
ご飯の上には愛してるはーと♡のメッセージ、だし巻き卵もハート型、そしてとどめにソーセージが……って言えるか!
周囲に誰も居ないのを確認し、俺は急いで弁当を掻き込む。
狂ってる……。
毎年毎年バレンタインの愛情表現が異常過ぎる。
一昨年は唇にチョコレートを塗り、俺の頭を掴んで強引に……。
去年はさらにエスカレートし、自分の顔を型どった、デスマスクのチョコレートを作って、俺にキスをさせ、それを客観的に見るという変態行為を要求して来た。
デスマスクとか縁起でもない……。
そして今年は一体何を……。
そんな事を考えていたので、午後の授業は全く耳に入らなかった……。
そのままあっという間に放課後になってしまう。俺は授業が終わっても暫く席から立ち上がる事が出来なかった。
妹は今年一体何をするのか……何をしてくるのか? 考えれば考える程に身体が震える。
しかし帰らないわけにはいかない、遅くなれば遅く成る程、準備が整ってしまう。エスカレートしてしまう。
そしてそれは……決して俺の中で、嫌なわけではない……ってのがまた問題なのだ。
妹からの愛情表現は、正直嬉しい……いや、嬉しすぎて自分を抑えるのが大変なのだ。
大丈夫、今までだって大丈夫だったのだから……なにをされても抑えられる、妹と一線を越える事は……無いだろう……。
俺はそう覚悟を決め、席を立ち帰宅の徒についた。
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