第4話 お風呂回早くね?
「旦那様失礼しまーーす」
「またか……」
本日は両親共に不在の夜……妹の治療費の為に深夜迄働き、そのまま帰宅しない事が……というわけでは無く、母は友人と旅行、父は出張の為本日は家に妹と二人きりとなっていた。
まあ、以前は妹の病気のせいで、父は出来るだけ出張を断り、母はまだまだ若かったのに、全く遊びにも行かずにずっと妹と、ちょっとだけ俺の世話をしていた。
なので今は父には心配無い事を強調し、そして今まで大変だった母を、母の負担を軽くしようと、家事を手伝い、更にはその家事が出来る事をアピールし、旅行に行く事を強く進めたりと、まあ主に妹がそう言って母を送り出していた。
つまりは本日、妹の計画通り、この家には晴れて俺と妹の二人きりと相成った。
まあ、こうなる事はわかっていた。
ついこの間も妹の強力な薦めで両親を夫婦水入らずで旅行に行く事を誘導し、
見事に成功、そして「私達夫婦も水入らずだね」と、俺の布団に突撃してきた。
そんな事があった為、両親のいない今日もかと、身構えていると、やはりと言うかなんと言うか……本日は俺の入浴中に突撃してきやがった。
「お背中流しに来ました」
「またか……」
ワンパターン……妹の頭の中は相変わらず映画の知識しか無い、しかも古い映画の……。
子供の頃に一緒に見ていた映画、勿論最新作もいくつか見ていたが、主に見ていたのは父さんのコレクションだった。
邦画洋画の古い作品がそして恋愛物がメインのコレクション、大量のDVDや、VHS、中には字幕も出ない物迄あった。
何を話しているかわからないけど、だからこそ幸せそうな二人に俺と妹は釘付
けになって見ていた。
身体の弱かった妹、外に出る事は殆んど出来なかった……だからいつも部屋を暗くして、二人で映画館にいるかの様に見ていた。
「いいでしょ? 妻なんだから!」
毎度お馴染みのセリフ……しかし……妹が俺にこうやって迫ってくる度に、そのワンパターンの行動の度に、俺の心がチクチクと痛む。
何故なら……俺は妹と結婚して、色々とイチャイチャしてきた……でも……結婚してから、妹の裸を一度も見た事は無い。
前に言ったゴニョゴニョしてた時も、妹はカーテンをきっちりと締め、明かりを全て消す。
今も水着に着替える時に使う、ゴムの入ったバスタオルを身体にしっかりと巻いて入って来ていた。
裸を見られるのは恥ずかしいから……そんな乙女な気持ちだけの行動なら俺の心が痛む事は無い。
実際そう言う面もあるだろう、新婚……当時も妹はそう言い訳をしていた。
でも……俺は本当の理由を知っている。
そのヒントは妹の腕を見ればわかる。
バスタオルから伸びる細く長い綺麗な腕、脂肪によるたわみなんて一切無い。
恥ずかしさからか? 風呂場の温度の為か? ほんのりと赤く染まっている妹の肌、谷間は無いが、タオル越しからでもわかる僅かに膨らむ胸とその先端……ドキドキするのを押さえ、俺は改めて妹のその腕へ視線を移す。
その白い腕には……無数の痕が残っていた。
注射や点滴の痕……以前よりも目立たなくはなっているが、それでもはっきりとわかる。
白い決め細かい妹の肌に残る無数の痕、幼い頃から妹が戦ってきた証。
俺はそれを見る度に、涙が溢れてくる。
妹を抱き締めて……泣きながら頑張ったなって……そう言いたくなる。
でも、そんな事を妹は望んでいない。
何故なら妹は、俺に自分の裸を見せないから……。
その理由を妹は決して言わない、そして俺も聞かない。
でも……わかっている。
俺は風呂桶の縁に置いてあるタオルを手に取り、腰に巻くと立ち上がり風呂から上がる。
そして洗い場に座り、妹に背を向けた。
鏡に映る妹は俺を見てニッコリと笑い、膝を付きタオルにボディーソープを塗って泡立てる。
「痛かったら言ってねえ~~」
そう言って、妹は俺の背中をタオルで擦り始めた。
弱々しい腕の力、そんな力で擦られても、背中の痛みなんてあるわけ無い……。
その代わり、俺の背中を洗っている妹の笑顔を、バスタオル姿を鏡越しに見る度に……今度は俺の心がズキズキと痛み始める。
涙が……出そうになる。
何故なら……妹の身体には、恐らくいくつもの手術の痕がくっきりと残っているであろうから。
妹が戦い抜いた傷……。
その傷を妹は決して俺には見せない。
だから一層俺の心が痛んだ。
信じて貰えない……夫婦だ、旦那様だなんて言ってるのに……。
そんな物を見て、俺が妹に対する気持ちが変わるなんてあり得無いのに。
俺は妹の事が大好きで、尊敬している。
妹は俺のヒーローなのだ。
だから俺は……妹と、離婚したい……そう思っている。
妹として、愛したいって……見守りたいって……思っている。
そして……離婚出来ない最大の理由……それは……俺が、そんな格好良く、可愛い英雄に、俺の中でのヒーローの妹を一生離したくないって思ってるから……。
いつか妹と……なんて、兄妹同士では思ってはいけない感情を抱いてしまっているから……醜い俺の欲望が、心の奥底で渦巻いていから……。
だから俺は妹と離婚したくて、そして出来ないでいる……。
それがきっぱりと言えない、妹を拒絶出来ない、離婚出来ない理由……。
そしてさらに、最大の理由がある……それは考えたくもない……今は……。
鏡に映る妹の姿を俺は、今日も涙を堪えて見つめていた。
【あとがき】
先が気になる方は、ブクマ、★レビューを是非とも宜しくお願い致します。
レビューといっても文字を入力する必要はありません、最終話の下に☆星がありますので、クリックするだけの簡単なお仕事で、作者が超喜び、木に登って書きまくります( `・ω・´)ノ ヨロシク
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