第6話 懸賞

 そう言えば、昨年は懸賞類にはまりこんでいた。毎日のように届くメールマガジンに記載されているURLをクリックし続けたものだ。結果は惨憺たるもので、一つとして当選の知らせは来なかった。そうなのだ。幼い頃からまるで懸賞には無縁だった。週一回発行の少年雑誌にある懸賞に、毎回応募した。せっせと応募したけれども、一度として当選したことがなく、二年ほどで止めてしまったと記憶している。

 最悪だったのは出会い系のメールマガジンが頻繁に届くようになったことだ。その都度、配信停止のURLをクリックした。しかし相も変わらずに、別の配信先から届いた。

「そんなの、アドレスを変えなきゃ。じゃないと、色んなメールが届きますよ」と会社の若い同僚に聞かされて、アドレス変更をした。そしてそれを機会に、懸賞に応募することを止めた。

「ご主人さま。麗香は、お嫌いですか…」

 哀しげな目を見せる。か細い声だ。はきはきとした声が一転して、弱々しい声色に変わった。そのすがるような目が、わたしに痛く突き刺さる。

「いやいや、嫌いだとか何とか。そんなことはないよ。麗香ちゃんは、可愛いよ」

 思わず、とんでもない答えを返してしまった。どうにも人形だということを忘れてしまう。

「ご主人さま。まず、お手を見せて下さい。今、おいくつですか? すごーい。百才までの力強い生命線がございますよ。ほら、ここ。手首にまで届いていますから」

 手のひらの上を、人形の指が踊るようになぞっていく。くすぐったさの中、胸のど真ん中にじわりとわき上がるものがでてきた。独り身の時に「今夜、どう」と声をかけられれば、一も二もなく連れ立って赤のれんをくぐったものだ。しかし新婚となると、声をかけてくる者も居ない。たまに居ても「ごめんごめん、新婚さんはパスだわね」と、にやけた顔を見せてくる。

 わたし階段を上がる足音が聞こえるのか、それとも帰宅時間を予測してのことか、ドアの前に立つとチャイムを押す間もなく「お帰り」と声がかかり、新妻が抱きついてくる。たまらなく愛おしさを感じる一瞬だった。

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