第4話 表情

「ごしゅじんさま、だしていただけますか」

「そうだな、分かった」

 麗香なる人形を引っ張り出すと、背丈は…一メートル五十センチほどだろうか。重さは、軽くはなかった。相当に力を入れなければ、引き出せなかった。いや、引き出すという表現は当たっていない。引きずり出したといった方が当たっている。

「もうしわけありません、おもかったですね。たいじゅうは、いま、三十七キロです。まだせいちょうとちゅうです。せたけは一メートル六十センチでとまります。たいじゅうは、四十二キロでとまります。ごあんしんください、それいじょうにはならないようにプログラムされています」

 声の質が変わった。少し甲高い明らかに若い女性の声となった。神妙な顔つきで言う。眉を寄せて、申し訳なさそうな表情を見せもした。次第に声の固さが取れて、スムーズな音声と変わり始めた。

「ご主人さまの体格からしますと、少し大きいようですね。申し訳ありません」

 大きな目の中でまん丸の瞳がクルクルとよく動く。満面に笑みを称えて幼女のような表情を見せていたが、眉間に軽いしわを寄せたり、眉を八の字に寄せたりし始めた。口角を上げたり下げたりを繰り返して行く内に、思春期を通り越していきなり妙齢の女性へと変貌した。声の中にも恥じらいのようなものを感じる。人間と見紛うばかりの精巧さだ。箱から引きずり出した折の感触からしても、体温然りだが、驚くのは何よりその肌ざわりだ。すべすべとして張りもある。しかも胸の膨らみがしっかりとあり、乳首さえ付いていたことには驚いた。

「ご主人さま、お願いがあります。洋服を着せて頂けませんか。箱の中に入っていると思いますので」

 顔を赤らめながら、小声で言う。その恥じらいは、まさに乙女のそれだった。相手は人形だというのに、正視できなくなった。目をそむけたままで、洋服の入った袋を手渡した。

「ご主人さま、着せてください」

 赤児ならばいざ知らず、立派な大人の女性に服を着せるなどできるはずもない。「できない」と手を振ると、悲しげな声で懇願してくる。

「お願いです、ご主人さま。自分では着られないのです。それとも裸の姿をご希望ですか」

「ば、馬鹿な。人が来たら、どうするんだ」

 やむを得ず、ぎこちない所作で服を着せにかかった。肩に手を置かせてパンツをはかせ、バンザイをさせてシャツを着せて……。

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