第2話 人形
妙なことに気付いた。受け取った時より大きくなっているように見える。面妖なと思いつつも、映画が気になり腰を上げることができない。目はテレビに耳は荷物にと、神経の疲れる所作に陥ってしまった。
「ゴト、ゴトッ」。大きく音がしては、放っておくわけにもいかなくなった。やむなくプレーヤーの停止ボタンを押して立ち上がった。
[生ものです、お早めにご開封下さい。なお、くれぐれもお取り扱いにご注意を]
驚いたことに、そんな表示があった。受け取った折りには、何の表示もなかった筈だ。恐る恐る封を開けてみると、エアパッキンがぎっしりと詰め込まれている。この梱包はいただけない。製品の梱包作業に従事しているわたしには、とてものことに容認できるような代物ではない。
「なんて梱包だ。このエコのご時世に、なんて無駄な梱包をしているんだ」
つい声に出してしまった。ひとり暮らしの今、どうもひとり言が増えてきた気がする。「ストレスを抱えている人が、自身で解消しようとするときにつぶやかれますね」と、会社の産業医に聞いた気がする。そしてまた「孤独感に襲われている状態が長い方にも多い傾向がありますね」とも聞かされた。「ご近所とのコミュニケーションがたいせつですね」とも。
そんなことを考えていると、突然に、箱の中から人形が飛び出してきた。ゼンマイ仕掛けのような仕草で、ピョンとだ。そして合成音特有の固い声色で挨拶をしてきた。
「ゴシュジンサマ、オハヨウゴザイマス」
「な、なんだ。人形がしゃべ…。いや、珍しくもないか。今どきの玩具なら、当たり前のことか」
驚きつつも、現代のテクノロジーなら可能なことと納得もした。しかし誰がと、まるで思い当たらぬことに不安な気持ちに襲われた。まさか、新手の詐欺か? いや昔からある手口だ。勝手に送りつけて、封を開けたから代金を支払えとかいう送り付け商法だ。
それとも、あいつらの悪戯か? 離婚して、もう五年近い。女っ気がなくては寂しかろうと、飲み会で集まった折にからかう、あの二人の。高校の同級生で、もうかれこれ四十年余の付き合いとなる。
「あたし、うるわしいかとかいて、れいかともうします。どうぞ、かわいがってください」
低くはあるが、合成音らしからぬ柔らかい口調に変わった。実に人間の声と聞き紛う、声と言っていいのか、音と言うべきなのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます