ドール

としひろ

第1話 元旦の荷物

 元旦の今日、突然に荷物が届いた。

「お荷物のお届けです。お取り扱い注意ですので、よろしくお願いします」

「元旦早々、ご苦労さまです」

 ねぎらいの言葉をかけたけれども、その配達員はニコリともせずに立ち去った。愛想のない男だなと思ったものの、よくよく考えると男だったかどうか判然としない。最近は女性の配達員が増えてきていることだし。

 以前、体調を崩して会社を休んだ日のことだ。遠慮がちにドアを叩く音がしたのだが、間の悪いことにトイレに入っていた。返事をせずにそのままにしていると、もう一度ドアを今度は少し強めに叩いてきた。「お留守かしら、車はあるのに」と、女性の声も聞こえた。慌てて「今出ます」と声を上げたが、別段、相手が女性だからということではない。

 自治会の集会でことだ。「居留守を使う方がいて、連絡ごとやら自治会費の集金ができずに困ります」との発言に、「自治会です、と声かけしてもらえたら」との提言が出た。あちこちから、それがいいという発言が相次いだ。昨今の世情では無理もないことだけれども、わたしの幼少の頃には――昭和の時代、というより戦後間もない頃といった方が良いだろうか。鍵をかけるという習慣がなかったという記憶がある。

 それにしても昔々のことはよく覚えているけれども、最近のことだと、いやついさっきのことなのにはっきりと思い出せない。気になる症状と意識しなければならないのか。まあしかし、今日の配達員が男だろうと女だろうとどちらでも良いさと思いいつも、少し気になった。

 ひとり暮らしの身だ。気を付けるベきは、病と痴呆だ。都会での孤独死がニュースで流れる度に、明日の自分が見えないことが気に病まれる。夜に目を閉じるときに明日が来るのだろうかと一抹の不安を覚えてしまう。そして朝の目覚めがあれば今日も一日が過ごせると喜んでいる。

 届いた箱は、一辺が三十センチほどの立方体で何の表示もない。会社名すらない。「なんだ、こりゃ。中身はなんだ? ちょっと待てよ、伝票ってあったっけ。判子を押してないぞ」と、また気になることが出てきた。けれどもDVDの映画が気になったわたしは、封を開けることもなくテレビの前に戻った。甘いミカンを頬張りながら、激しいアクションシーンに見入った。

 どのくらい時間が経ったか、何やら玄関先で音がする。気のせいかと思ったが、ガサゴソという音が、数分おきに聞こえてくる。体を伸ばして玄関をのぞいてみるが、何かが居る気配はない。先ほどの宅配の荷物があるだけだ。

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