第2話

 あなたのことはそれほど。

 初対面の時はそう思った。なのに、今もまだあなたを求めているのはなぜだろう。あれほどこっぴどく別れの場面をきちんと作ることもなく去って行った人に、まだ心動かされるなんて。


 バイト先のカフェにやってきてくれた聡は三十歳。美佐は二十歳になったばかりの夏の昼下がりに、突然別れが一方的に置いて行かれることになるとは。

 ブラックコーヒーを注文した聡史の元に美佐がコーヒーを持って行った時に、四つに折った紙がテーブルに置かれた。

「仕事が終わったら読んで」

 薄い和紙の隅は糊で留めてあった。

 美佐が忙しくしている間に、聡史の姿はもうそこにはなかった。いつしか夕日が店のブラインド越しに差し込む時間が来ると美佐はバイトの時間を終える。更衣室で先ほどの手紙を鋏で切って開いて読んだ。

「もう、僕はあなたのそばにいることができない。辛いことだけれど、一緒にはいられない。許してほしい」


 ただの1行で終わり。

 美佐は涙を堪えた、自転車に乗って古いマンションの部屋に戻った。

 たった1行の別れの言葉に、美佐は涙が止まらなかった。あのときの横顔を、いつもと同じ顔で別れの手紙を渡して去って行くような人を好きだった自分が情けなかった。

 そう思うと悔しくて涙が止まらなかった。

 私はこんな軽い存在だったのか……。

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