また、会えるかな

樹 亜希 (いつき あき)

第1話

 この世の終わりに、私は何もすべきことが見つからなかった。

 いろいろと苦労が多かったように思うが、そこまで酷いことはなかった。ほんの少し運が悪かっただけだと思うようにしている。


「末期ですね、手の施しようがありません。手術をするよりも、他の治療法を考えましょう」

 担当医師は明日の天気を言うように、美佐にそう告げた。

 無言のまま美佐は病院を後にした。病院の前に来るバスで駅まで行くのは……。数字を追おうとするが歪んで見えないのは涙のせいだと思う。こんなことで泣いてなどいられない。

 あと半年以内にすることは山ほどあるのだ。

 美佐は自分の店を畳むことを考えなくてはならないと同時に、飼っている猫を誰に託すのか。あらゆることが頭の中に渦巻いていた。

 

 先月受診した健康診断の結果で肺に点状の陰が見つかった。その時に美佐は精密検査を受けるまでもなく、普段から咳がよくでることや、疲れがとれないことを年齢のせいにしていた。

 あれから、三十年が過ぎて、堤 聡史のことを思い出した。

 今、急に思い出した訳ではない。

 折に触れて思い出すことが多くなったが、長い年月が過ぎて街ですれ違っても気がつかないだろうと思う。でも、きっと私はあなたを見分けることができると自信があったが、もう間に合わないのだ。自分はこの世を近いうちに去る。若かった自分はもうすっかりおばさんで、聡史はおじさんになっているはずだが、もしも本当に自分たちが本当に結ばれるはずの二人なら……。

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