第5話 伴いゆく
触れなければ伝えられない彼のテレパスであったが、歪んだ空間は彼と彼女の精神世界を繋いでいた。
――ああ、あの人の声が聞こえる。
彼は心で語りかけ続けながら。
少女が反応をわずかに見せその瞳を少し揺らす。必死にその力を抑え込もうとしている様子だ。だが力が巨大過ぎて彼女の意思を無視して溢れ続けているが。
それでも。
それでも耐えて。
破壊的な力から、彼を絶対に守ろうと必死に戦った。
派手ではない
戦う彼女を
そしてついに彼女の傍に彼は到達した。
彼女は放出される力は溢れるがままであったが、その動きはコントロール出来ているようだった。まるでモーゼが海を割るように、屈折した空間は
制御可能なAランク……というのも、人に知られるとまずい気がして、
だが一介の研究員でしかない自分一人の力だけでは彼女を救えず、守れないのも事実であって、ここはひとつの目的のために共闘するしかあるまい。
利用する相手ではなく、仲間……として。
彼が少女を見上げると目と目が合った。
改造したリミッターは一時的なもの。それでも彼の計算が正しければ、抑え込む事は可能である。今まで培った知識と技術と得てきた知見を全てぶつけた現在の彼の集大成だ。
自信作である。
手錠という事で見た目がとにかく悪いが。
いつか小型化に成功すれば指輪の形にするのもいい。最初の一つ目は彼女にあげたい。
少女の左手を取りながら彼はそんな事を考えてしまった。それが彼女に伝わってしまったような気もするが、隠す必要もないと思う。
歪んだ空間に縛られている彼女の左腕に、リミッターの手錠がついにかけられた。
空間のゆがみは発生時とは異なり静かにゆっくりと収束し、同時に、周辺に満ちていた刺すような空間のトゲトゲしさが失われて行くのがその肌感覚でわかる。
やがて無音の冴え冴えとした冬の夜の気配が取り戻され、留め置かれた空気は緩やかに解放されて四散し月光はまっすぐな光線を上空から地面に射し下ろす普段の姿に戻って行った。
少女の浮き上がっていたその体は重力の縛りを思い出したかのように、ゆっくりと
「
少女は、
「ポチ!」
「なんだ、まだポチ呼ばわりなのか」
再びしっかりと抱きしめると少女もぎゅっと抱きしめ返して。すりすりと甘える仕草は子供のようだったが、彼女はそうする事で愛情を表現しているのだ。甘えるのは相手を信頼している証である。
そんな
吹き飛ばされた研究員達はあの衝撃の中であっても、空間の歪みのせいか壁に叩きつけられた時の負傷で済み、多少の骨折は伴ってはいるのか瓦礫の傍でうめき声を上げてはいるが命に別状はないという様子を見せている。
次々に警察官に取り囲まれ、救急隊員によって担架に乗せられていた。
ビルから出て来た二人の姿を見つけた
「
差し出された側は少し戸惑ったが同じく右手を差し出し、握手を交わす。
接触テレパスであることを知った上で、
「さて」
「帰るのか?」
「いや、銃を無くしたからな。これから局に戻って始末書を書く」
「働きすぎだろう。でも今夜は、あまり眠そうな顔をしていないな」
「生憎だが、眠い時ほど眠そうじゃなくなる顔なんだ。今、猛烈に眠い」
「不便な顔をしてるな」
「何とでも言え、生まれつきだ」
彼は寝るまいとする努力が顔に出ると、目が覚めて見えるのだった。
そんな
「ん? どうした
「はいっ」
その手に彼の銃が返された。
「あれ!? え!?」
「
「すっかり騙されてしまった……飛ばされた物だと」
「だって、これが無くなると困るでしょ? 拾われても大変だし」
気が利くお嬢様に四人は笑い合った。
今ここに孤独な者は一人もいない。
一匹狼たちは、ついに群れを成す。
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