第18話 高校二年生
季節は巡って、僕ら三人はみな高校二年生になっていた。無事進級できたのだ。
二クラスしかないのに、僕は大知と沙紀とは別のクラスになった。小学校以来初めて違うクラスになった。さびしいかと問われれば否定はしない。でも教室は隣同士だから、しょっちゅうベランダで顔を合わせる。
「はぁい、カズアキ」
「おう、今村」
僕がベランダで校庭を眺めていたら、隣のクラスの窓から沙紀と大知が顔を出した。
「やあ」
「なによ、あいかわらず黄昏れてるね。さびしがりやさん」
「べつにさびしくないよ」
「ホントに?」
「一人だからって、さびしいわけじゃないさ」
「二人っていいもんだよ。チューできるし」
「おい、変なこと言うなよ」と大知が顔を赤くする。
仲いいな、おまえら。
こんな調子でいつも二人が慰めてくれる。
「でも、次もまた無事に三年生になれるとは限らないぞ」
「こいつ? そしたら別れるよ。学年も別れて、男としてもさようなら」
大知は黙ったまま顔を背けている。相変わらず逃げてばかりだ。
「なあ、沙紀、おまえさ」
「なによ」
「自分は無事に三年生になれると思ってるのか」
「二人そろって留年したら、中退して一緒になるよ。一緒にブルーベリーパイでも作って国道に屋台を出して売れば生きていけるでしょ」
沙紀は真顔だ。
「知ってる? 結婚できるのって十八からじゃん。来年だと、うちら二人とも十八歳以上になるんだよ」
「俺は十九だしな」とバツイチ大知がぼそりとつぶやく。
法律とかどうでもいいから、勉強しようとか少しは努力ってものを考えろよ。
そう、努力も必要だ。
努力が報われるとは限らない。たいていの努力は報われない。苦い味をかみしめることになる。でも、努力をしない限り、報われることもない。報われるかどうか分からないけど、努力をした人間だけがその結果を知ることができる。
僕は僕なりの努力を始めていた。
去年からずっと、大学へ行くための勉強に本気を出していた。
親には大学へ行くと伝えた。父親はそうかとうなずくだけだったけど、母親からはお金の心配はするなと言われた。あとはあんたの問題だからと。
余計な心配はしないで、今やれること、やるべき事をやればいい。
ならば、迷わずやるだけだ。
朝早く登校して始業まで予習に取り組み、放課後も最終下校時刻まで図書室で居残り勉強をしている。
一学年の最終成績ではクラスの一桁まで順位を上げることができた。沙紀や大知みたいな連中が半分くらいいるから、それでも大学なんてまだ手が届かない成績だ。
二学年になってからは数学と英語に力を入れて、授業の予習復習だけでなく、大学入試問題の練習もやり始めていた。
挫折しそうになるときもある。そんなときは無理せず、ぼんやりする。
自分にはどうにもならないことがある。
待つしかないときもある。
信じて、自分にできることをやって、その上で待つしかないときもある。
僕はそのことを知っている。
どう頑張ってもどうにもならないこともある。
でも、できるだけのことをしなくちゃいけないんだ。
できるだけのことをした上で、どうにもならないってことを納得したいから。
どうせ納得なんてできないけど、やるだけのことをやらないと自分が納得できないから。
矛盾してる。
だからなんだよ。
そんなことどうでもいいじゃないか。
理屈じゃない。
何かをしたくなる気持ち。
どうしてもおさえられない気持ち。
それがなんだか僕は知っている。
それは青い色をした何かだ。
口にするのは恥ずかしい何かだ。
ただ、僕はそれが何なのかを知ったんだ。
去年までは知らなかった何かを、あの時僕は知ったんだ。
じっとしていられなくなって、叫びたくなるあの気持ちだ。
それは青い色をしている。
僕はそれを一年間大切に育んで生きた。
その思いを大事に抱えて生きてきた。
夜、勉強を終えて星空を見上げるとき、スマホを手に、思いを込める。
遠い星空に思いが交錯する。
小さな画面に映る微笑み。
夜空を照らす小さなブルーライトが僕の希望だ。
僕は毎日勉強に取り組んでいた。
たまに、沙紀達も宿題を一緒にやるために居残りをする。
もちろん、僕のノートを写させろというだけのことだけどね。
「あんたが頑張ってくれるから、うちらも助かるよ」
それも沙紀達の優しさだって事は知っている。
一人で頑張っている僕を励ましてくれているんだ。
支え合える仲間がいる。
ここは僕らの街だから。
僕らがずっと生きていく街だから。
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