第16話 移りゆく夏

 夏休み後半の補習には、大知だけでなく、沙紀も参加していた。

「どうせ暇だし、一緒にいれば勉強も楽しいでしょ」

 勉強が楽しい。

 今まで一度も沙紀の口から聞いたことがないセリフだった。

 一緒なら、何でも楽しい。

 そう言い合える人がいるのってうらやましい。

 僕は一人で図書室に移動する。

 渡り廊下から野球部とサッカー部の練習を眺める。

 僕にもやるべき事が見つかった。

 今なら彼らの気持ちが分かる気がする。

 夏空に声を上げて発散するか。

 一人静かに情熱をあたため続けるか。

 やり方は人それぞれでいい。

 冷房の効いた図書室で僕は勉強に取りかかる。

 沙紀と大知がつきあい始めたことはあっという間に街中に知れわたった。

「おまえら別れたのか」と僕のスマホにメッセージが殺到する。

 別れてないし、そもそもくっついてないし。

 返信も面倒なので、全部放置しておいた。

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