第15話 直球とみせかけて変化球の球が投げられる投手は強い

そのころ、ケンカは予感を感じた。多分、そろそろだ。ケンカはリイカの目に変化があることに気付いた。何か一筋の光が見えた。そんな諦めない根性が混じった笑みを見せていた。

 リイカは突然、地面に降り立った。

 誘っているな、ケンカはすぐに察知した。リイカは仁王立ちしていた。来るなら来てみろ、と挑発しているようにも見えた。

「よお、もう鬼ごっこは終わりか?」ケンカはゆっくり動きながら言う。

「そうね、鬼ごっこは終わり、次はかくれんぼでもする?」

「そりゃ困る、私は見つけるのが苦手なんだ、見つかるのは得意だけどな」

「それって弱点でしょ、でも、そうね、永遠に勝負がつかなくなるのは困る」

「じゃあ、そろそろ終わりにするぜ」そう言ってケンカは一直線に走り出した。 

 そして、ケンカに向かって殴る瞬間、「そこ!!」とリイカはぎりぎりまで引き付けてケンカに拳を合わせるように、下からアッパーを掛けて拳に殴りかかった。拳と拳がぶつかり合う。

 リイカはケンカの重い拳に痛みを感じたが、何とか耐える。そして、離れたと思ったら、今度はケンカは蹴り上げる。「そこ!!」リイカはそれに合わせて、なんと、ケンカの地面についている方の足を掴んだ。

「な!?」驚いたのは、ケンカだけではなく見ていた他の生徒も驚いた。

 隙があるとしたら、攻撃が当たる瞬間、そこだけは、どうやったってすり抜けをすることは許されない、だから「バームグーヘン!!」そのまま、地面を柔らかくして、ケンカは再び体のバランスを崩した、「おりゃああ!!」リイカは一瞬にしてケンカの足を振り上げようとする。

こいつ、なんて馬鹿力だ!! ケンカは驚いた。だがリイカの目的は分かっていた。

「なるほど、あの子考えたわね、攻撃する瞬間を狙って掴んでくるなんて……でもあの子の目論見は失敗する」レイシアは冷静に分析する

「どういうことですか!?」

「あの子は、おそらく、あいつを地面に打ち付けてバルーンを全て割る、だけど、あいつは、自分が触ったものにも、同じようにすり抜けることが出来る。体に纏ったままね、だから、地面に打ち付けようとしても、地面をすり抜き、あの子の手から逃れることができる。第一、そのまえにあいつは足の実体化をやめるわ」

 そう、レイシアの言う通りケンカは足で攻撃した瞬間掴まれたことは予想外であったが。地面に打ち付けられる前にはすり抜けを発動させる時間は十分にあった。(地面に打ちつけられる前に、魔法を広げることは出来る)

 「スル……」パンッ

 え? 思わずケンカは声を漏らした。リイカが自分を持ち上げ、空中に浮かび上がった時、額のバルーンが割れた。そして、そのまま見えない空気の塊に頭を打った。何が起こったのか理解できない。

「キネス・バームグーヘンよ」リイカの言葉で、ケンカは全てを悟った。リイカが、誘った場所、あの場所にキネス・バームグーヘンで固めた空気があったのだ。空気の塊は色彩があるわけではない、そのためリイカに意識を集中していたケンカはリイカが作り出した空気の塊に気付かなかった。

「なるほど、一瞬が命取りってのを肌で感じたぜ」リイカの腕から足がすり抜けた。

「でも、まだだぜ!!」そう言って、リイカの肩を狙って何かを投げようとした、時。

「そこまで!!」とシャミラ先生の声が響いた。ケンカの動きはそこで止まった。

「そうか、制限時間があったか」

「ケンカ・エルソード、5点!! そして、リイカ・ポートフォリオ、5点!! よって両者、引き分けとする!!」

 するとその場で歓声が響いた。それは自分のクラスの生徒だけではなかった。教室にいた生徒もいつのまにか見ていたのか、窓を開けて、拍手をしながら歓声を上げていた。


「うわ、すご、マキルガ、あの子、ケンカ・エルソードに互角の勝負をしたよ」

「ふーん、そう」興味なさそうに返事をしたがマキルガの目はリイカをしっかりとらえていた。



「リイカちゃん、勝てなかったけど凄いよ、あのケンカさんと引き分けだなんて」ミスケアはほっと胸をなでおろして言った。対照にレイシアの方は目を見開き、刃を食いしばっていた。

「こんなの、認めない……」そう言って、ミスケアの元を離れた。


「静粛に!!」シェミラ先生の一声で、辺りは静まり返った。

「2人とも、いい試合をしてくれた。これからも、己の鍛錬に精を出すように」声は静かだったが、嬉しさが表情に溢れていた。ふいに、ケンカが笑顔でリイカに手を差し伸べた。それに応えるようにリイカは笑顔でケンカの手を握った。

 ケンカはみんなと少し離れた、場所に座ろうとした。

「何勝てなかったのに笑っているのよ」ムチのような声を振り下ろす声の主をケンカは分かっていた。「レイシアか」声の主は、ケンカの前に仁王立ちで立ちはだかった。

「あんた、分かってるの?」

「何が?」

「あの子に勝てなかったってことは、貴方があの子に遅れを取っていることになるのよ!?」

まくしたてるレイシアに対し、ケンカは落ち着いた様子で返事をする。

「なんでお前、まるで自分自身のことのようにキレてんだよ」すると、レイシアは顔を真っ赤にして、「それは、貴方を地面に跪かせるのは私だからよ!!」そう言うと、目を刃物に戻し

ケンカに詰め寄った「私以外に負けることなんて絶対に許さない」ケンカは表情1つ変えなかった。そして、立ち上がった。

「はあ、分かってねえな、お前は」

「何がよ」

「私が負けそうになったってことは、私はまだまだ強くなれるって証拠だろ?」

「それは挑発しているの?」ケンカのこの言葉は聞こえようによっては、負けたことがないと言う風にも聞こえた。と言うより、間接的にそう言っているとレイシアは感じた。しかし、ケンカはどこか遠くを見つめるような眼をして「いや、昔、そう言う風に言う奴がいたんだよ」そう言って、立ち去った。

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