第14話 いつだってアイデアは予想外な所から出てくる

 そのころ、他の学級、ティグレスセイスから2人の魔女生徒がいる。

「ねえ、マキルガ、噂のあの子、魔法実践するみたいだよ?」とある魔女生徒がマキルガという魔女生徒に声を掛ける。

「ふ~ん、あのキメラを討伐したって言う遅刻新入生ね、まあ、仕方ないからみてもいいわ」そう、小さな炎のようなサイドテールを巻き上げてしょうがないわね、と言うように窓に目を向けようとすると「いや、別に無理矢理なら見なくていいから」ともう1人につっこまれる。

「別に見たくないなんて言ってないじゃない」

「いや、その無理矢理見てますって態度が問題なの、本気で見たいと思うならそんな態度はとらないはず、でもとったって言うことは、マキルガは見たくないのに見ていると言う」

「ああもう、分かったわよ!! 見たいわよ!! あのキメラを討伐した子は気になるの!!」

「はい、素直でよろしい」

「ぐぬぬ」マキルガは悔しそうな顔をしたが、すぐに窓の外に目を向けた。



リイカとケンカは互いに向き合う形となった。いよいよ、実践が始まることにリイカは胸を高鳴らせていた。

「本気でいくぜ」ケンカはそう言いながら、腕をブラブラさせている。

「うん、私も初めから全力でいくから!!」リイカはそう宣言した。

 その頃、ミスケアはリイカの身を案じていた。リイカちゃん、大丈夫かな? 相手は新入生最優秀魔女の1人、ケンカさんと対決するなんて。そもそも、リイカちゃん、そのこと知っているのかな? ミスケアはその時、ふと、窓の外から視線を感じた。見ると、窓にはこちらを見ている窓際に座っている魔女生徒が複数人いた。先輩方でも盗み見るほどであった。


 ティグレスセイスでは

「ねえ、マキルガ、どっちが勝つと思う?」

「まあ、相手が悪かったわね」

「どっちが?」

「リイカ・ポートフォリオの方に決まっているでしょ、なんせ、ケンカ・エルソード、彼女の魔法は反則よ」


 校庭ではいよいよ始まる直前だった。リイカは自信に溢れた笑顔をしている。ケンカは狩りをする獣のような不適な笑みを浮かべる。

「それでは、第一試合、始め!!」


シェミラ先生の掛け声と共に、ケンカが地面を蹴って砂をリイカに浴びせようとした。

 いきなり不意打ち!? でも、こんなの!! とリイカは軽々と砂を躱していく。

 躱したところにケンカが突っ込んできた。リイカは砂で自分が誘導されたことに気付く。

 そのまま、無言でケンカのパンチがリイカを襲う。この距離は躱せない!! リイカは防御態勢をとる。

「ああ、それは最大の悪手ね」ミスケアは、いつの間にか自分の隣にいるレイシアに驚いた。

「あ、あの」

「ん?」そう言って、ミスケアをみるレイシアの顔は、相も変わらず、鋭い瞳であったが、リイカやケンカに見せるような敵視は無かった。しかし、ミスケアはこれまで他人から拒絶されてきたのが当たり前であり、それのせいでレイシアの見る目が鋭いことから、自分を嫌っているのだと思い、遠慮気味に「あ、すみません、さきほどの、悪手と言うのはどういう、こと、かと」と途中言葉がしどろもどろになりながら聞いた。

「ああ、そのことね」レイシアは表情を変えずに答えてくれたのでミスケアは胸をなでおろす。

「見ていれば、分かるわ」そう言ったのでミスケアは再び視線をリイカたちに戻した。

 

 ここからは、肉弾戦になるかとリイカは考えていた。リイカは肉弾戦の自信はあった。それは別に武術を習っていたとかそう言うのではない。まだテスカと一緒にいた時、練習相手として組手をしていた。また、自分たちや周りの生き物を襲う魔獣を、または、残酷なことをする、自分よりも1周り、2周りも大きい人相手にケンカを売ってきたことなんてしょっちゅうあった。それのせいで、テスカとリイカはオーガと呼ばれるほどであった。

 そんなわけで、リイカは肉弾戦には自信があった。もちろん、相手が魔法を使うことも視野に入れていた。リイカはテスカと鍛錬を繰り返した日々、自分、そしてテスカの動きを思い出しながらケンカの攻撃を受け流そうとした。

 しかし、その思考は全て意味がなくなる。リイカがパンチを受け流そうとした瞬間、違和感を覚えた。腕にパンチが当たる感触がない。自分の腕に確かにケンカは打ち込んでいる。それなのにパンチの感触がない。すると、防御したはずのパンチが自分の腕を通り抜け、頭についてあるバルーンを難なく割った。パン!! バルーンの割れる音がした。

リイカは何が起きたのか分からない、ケンカは態勢を整えている。連撃でパンチが飛んでくる!! リイカは危機を感じて「バームグーヘン!!」と唱えて地面を柔らかくし、僅かにケンカの体を傾かせて、パンチを躱すと、そのまま、ビュン!! とジェット機が飛び上がるように地面から離れ、空中の上に立った。

「え? 何が起こったの?」ミスケアは何がおきたか分からなかった。リイカは確かにケンカのパンチを止めたはずに見えたが、リイカのバルーンが割れた。意味が分からなかった。

「あれが、あいつの魔法の1つ」

「あれが、ケンカさんの魔法?」ミスケアが聞くと、レイシアは腕を組みながら説明した。

「彼女の魔法は、ターゲットを決める。今回だとリイカ・ポートフォリオの頭のバルーンかしら、一度ターゲットを決めると彼女に対する物理的な攻撃は当たらなくなる」

「攻撃を自動的に避けることが出来るんですか!?」

「まあ、そういうことになるわね、それがリイカ・エルソードの魔法」

「それじゃあ、どんな攻撃も聞かないじゃないですか!?」

「まあ、物理的な攻撃は当たらなくなるわね、でも」そこでミスケアはレイシアが自分の能力なら対抗できる、そう言うのかと思っていたがレイシアから出てきた言葉はそれとは違う予想外のものだった。

「あいつの魔法は特殊よ」

「え?」


 リイカは考えていた、ケンカの能力はすり抜ける能力だと、そして、それにどう対応するか考えていた。しかし、「来ないのか? じゃあこっちからいくぜ」そう言った時に、リイカは驚く、ケンカは箒なしで、空をとんだ、と言うより、「空気を蹴った!?」ケンカは、地面を走るように空中を走り出し、リイカに向かい始めた。

「え!? 空を飛んだ!?」ミスケアは驚いた。

「いえ、空を飛んでいると言うより、あれは空を走り回っているわ」レイシアがミスケアの疑問に答える。

「一体、どういうことですか?」

「あいつは、ターゲットを決めると、どんなところにも行けるようになるの、崖で崩れていたら、空を飛べる。鍵で開かないなら、鍵を作ることが出来る、そんな感じであいつはどんな場所でもターゲットを決めれば、そこにたどり着ける。それがあいつの魔法、一言でなんてとてもじゃないけど表せない、全く忌々しい獣だわ」そう言うと、悔しさを抑えているのか、歯を食いしばって、ケンカを睨みつけた。

「まあ、もう一匹の獣の方はどうかしら、あの子がケンカを倒せるなんて、その姿が全く思い浮かべられないわ」

「リイカちゃん!!」



「く!!」リイカは、ケンカに触れられないように、四方八方に逃げ回った。その間ケンカは疾風の如く速い移動、そして連撃を繰り出す。その速さはリイカに思考の隙を与えない程であった。どうする!? 考えろ、考えろ、何か弱点はないのか!? リイカは一生懸命考えようとするが答えは一向に出てこない。

「時間の問題ね、あの子はもう防戦一方で反撃ができない、対してあいつの動きには隙が見えない。まあ、私なら隙を作るけど、もうあの子に打つ手はない」すると、ミスケアは少しムッとした。

「分からないじゃないですか、リイカちゃんなら、今になんかビックリするようなことをしてケンカさんに対抗するかもしれないですし」

「それはないわね、本当かどうかわからないけど、いくらキメラを倒した荒唐無稽な魔女だからって、箒に乗れない魔女にあいつが後れを取るはずがないですもの」レイシアはそう言ってニヒルな笑いを浮かべる。ミスケアは、リイカが、自分の初めての友達が馬鹿にされたことを感じて、少しムキになった。

「勝ちます、リイカは箒が乗れなくてもケンカさんに勝てます、ケンカさんに後れを取りません」すると、レイシアは笑みを消し「何ですって?」と目を刃物のように細めた。周りが少し騒めく。そして、レイシアはそのまま、ミスケアに迫り「じゃあ、賭けね、私はあいつが勝つと断言できる、もし、あいつが負けたら、私はなんでもあなたの言うことを聞く」

「じゃ、じゃあ、リイカちゃんが負けたら、何でもあなたの言うことを聞きます」

 外野ではこのように別の争いが始まっていた。



 その頃、リイカとケンカの激戦が繰り広げられていた。

「キネス・バームグーヘン!!」空気を固めて動きを封じようとするも、ケンカは全てすり抜けていく、てか、攻撃が効かないってずるくない!? ケンカは続けて嵐のような連撃をする、リイカはそれを、空中を縦横無尽に飛び跳ねて躱していく。


「ほら、もう駄目じゃない、あの子は逃げてばかり、頼みの空気を武器にしてもあいつにはまるで効かない、第一もうあの子は表情に余裕がない、あいつの顔はムカつくほどに余裕綽々な表情をしているわ、あの表情、くしゃくしゃになれば良いのに」

「効かないことはリイカちゃんも十分分かっていると思います。今のは、テストみたいなものです、見てください、ケンカさんの元へロケットの如く近づき接近戦に持ち込みました」

「無駄よ、あいつの能力を忘れたの? あの忌々しいすり抜けの能力がある限り、あの子は傷1つ付けられない」

「それは、多分リイカちゃんに考えがあると思います、そろそろ動き始めます!!」

 二人の解説が続く中、リイカは、ある考えが浮かんでいた。もしかしたら、あれは、弱点の一部になるかもしれない!!

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