第12話 重すぎる過去はNG

「ねえ、ミスケア」リイカが呼びかけてもミスケアは俯いたまま黙っている。

 リイカは触れない方が良いかもしれないと思ったが、ミスケアの不安を取り除きたいと思い「もしさ、大丈夫だったら昔、何があったか話してくれないかな?」リイカが言うとミスケアの足が止まった。

 リイカはしまった、触れられたくないことを聞かれて怒らせたかも、と思った。

 が、ミスケアはやがて小さい声で「いいですよ、そんなに身構えないで下さい」とミスケアは優しい声音で言う。しかし、目は悲しみに溢れていた。

「あの、私の家は、ミスケア家は、とても貧しい家で、父は研究熱心で、その研究熱心のあまり、私たち、家族を置き去りにして旅立っていってしまったのです」ミスケアは言葉は弱かったものの、僅かに拳を握りしめている。

「そして、ある日、突然帰って来たかと思いきや、見知らぬ大人たちを引き連れてなにやら禍々しい魔道具を持ってきたのです。そこから、魔道兵器を作るまでは時間がかかりませんでした。

その時、幼かった私は何だか分からなかったのですが、それを見た、母が、その日に自殺をしたのです」

「え!?」

「私はただその事実が悲しくて泣くばかりで父はそんな母に目もくれず、ずっと大人たちと話をしてばかりで、私は怒りました。そうしたら……」ミスケアは目を強く瞑っていた。目には大粒の涙がたまっていた。怒りをこらえるようにますます拳を握らせる。

「お前にはこの兵器の良さが分からないのか!? あの馬鹿な女と一緒なのか!? と言いずっと私に暴力を浴びせ続けました!!」

そう言うと、少し落ちついたのか、ミスケアは目を開いて話し始めた

「しかし、ある日、父親は大人たちとタナトスに捕まりました。私はいつものように暴力を浴びせ続けられており、なにが何だか分からなかったのです。その数日後、父は死刑となりました。同日、私は国を脅かす犯罪者の子として、タナトスに捕まりました。タナトスからは、何で自分の父親のしていたことに気付かなかったのか、娘のお前なら止められたのではないかと責める者もいました。勿論、全てのタナトスがそうだったわけではありません。私を庇ってくれました方もおりました」

 ミスケアの目に涙がたまり始めた。

「ほどなくして、私は釈放されました。しかし、待っていたのは、犯罪者の娘と言う肩書き、商人たちは私には何も売らないと言い、食べ物も衣服も与えられませんでした。唯一、スイークタウンのベーカ堂の方は、私に商品をサービス、試食会と言って、様々な形でパンを恵んでくれました。あの方たちには今でも感謝しています」リイカも自分が修行していた時、唯一ベーカ堂の人たちだけは自分に優しくしてくれたことを思い出した。

「金だけは使えず余っていたので、私は、どうしたらいいか考えました。そこで、世界が今、キメラに襲われている世界だと言うことをしり、私も魔女になって人々の役にたちたい、私を助けてくれた、ベーカ堂の方々が安心して生活ができるような世界にしたい、そう思ってこのレッドクロスアート魔法女学院に入学を決意いたしました」

 そこで、ミスケアは静かに顔を沈ませた。リイカからはどんな表情をしているか分からない。

「私は、生まれてきたことが罪なのですから、これくらいはしないと」

「罪なんかじゃないよ」

「へ?」

「まだ会ったばかりだから知らないことばかりだけど、ミスケアは、私のこの学校で初めて会った友達、ただ、それだけ、犯罪者の子じゃないよ」

「リイカさん……」

「もし、ミスケアが犯罪者の子よばりしたりする子がいたら教えて。ううん、私がそばに来て言う、この子は、犯罪者の子じゃないって、大人しくて、でも笑うと日差しのように暖かくて優しい笑顔をして、ベーカ堂のパンが大好きな普通の女の子だって!! だから、自信をもって!!」

「リイカさん……」

「それにすごい努力家だって!!」

「え?」

「多分、ここに入学するために物凄く努力してきたんでしょ? その手を見えればわかるよ」とリイカはミスケアの指を指す。

 ミスケアの手は豆が潰れた跡がたくさんあった。

「ミスケアはすごいよ。だから、誰にもバカにさせない」リイカの目には硬い意志があった。

リイカさん……ありがとう」瞳が煌めいたかと思うとそのままリイカに抱き着いた。リイカは背中に雫を感じた。

「もう、リイカでいいよリイカで」

「はい、リイカちゃん」こぼれる涙を人差し指で拭うと、リイカに向かい雨上がりの空のように晴れやかな笑顔をむけた。

 その時、授業の予鈴が鳴った。


「あ、次は実践魔法の時間だ!!」

「あ!! そうだった!!」2人は急いで、校庭に向かって走り出した。

 この実践魔法では、1つは魔法で仮想空間を作り、そこに出てくるキメラを倒すというもの、そして、もう1つが魔女同士の魔法戦闘、これはチーム4人同士で組んで、ボールを相手のゴール入れる競技で合ったり、または、2人で体のどこかに的をつけて何らかの形でどちらかの的を壊された方が負け、壊した方が勝ちなどというものがある。どちらも、キメラに対抗するためにするものである。

「初めての実践魔法の時間かぁ、大丈夫かなぁ、私」とミスケアは不安な声で言った。

 一方でリイカは「よおし、実践魔法の時間だあ!」と張り切っていた。

「もお、リイカちゃん張り切りすぎだよ」ミスケアが少し笑いながら言うと、リイカは「そりゃもちろん!! だってやっと退屈な授業から解放されるんだもん!!」とニッと笑いそう言った。「まあ、これも授業なんだけどね」とミスケアは頬に汗をかきながら言った。

「ねえ。リイカちゃん」

「ん?」リイカはミスケアの顔を見る。ミスケアは真剣な表情をしていた。

「もし、私たちが戦うことになっても、絶対に手加減しないでね」その言葉でリイカの表情は柔らかくなった。

「あったりまえじゃん!!」そう言い、親指を立ててGOODのポーズを示した

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