第11話 見た目に反してポンコツな子は大好き
リイカは声がした方を見ると、そこには、ヘアピンをした、三つ編みの濃い青色の髪をした魔女生徒と、ポニーテイルの黒髪の魔女がいた。三つ編みの魔女は凛々しい顔をしており、見た者の心を射止めるようなキリッとした目をしていた。
となりの少し背の小さいポニーテイルの魔女生徒は三つ編みの魔女生徒に憧れなのか熱い視線を向けていた。
先ほどまで、リイカとミスケアに嫌味を言っていた魔女生徒は、まるで心臓を射抜かれたように、胸に手を当ててハッとした表情になり、しおらしい態度で「あ……シルク様」と言いその場に跪いた。他の魔女生徒もしおらしく、頬を染めてその場に跪いた。
「そんな態度はとらなくていい、それよりお前た……」とシルク様と呼ばれた魔女生徒は制止の手をした時、ポニーテイルの生徒は「貴方たち、さきほどの態度は何ですか!? わざと相手にぶつかり、その上悪びれもせず、罵詈雑言を浴びせる、それがこの由緒あるレッドクロスアート魔法女学院に相応しい生徒のすべきことですか!?」と高圧的な態度をとる。
「申し訳ありません、ユリア様」とリイカたちに嫌味を浴びせた魔女は跪いたままそう言った。
「大体、あなたは、教室時にも自分よりも気が弱い相手に、目に余る傲慢な態度を取る、それがどれほど愚行か分からないのですか? 仲間を引き連れて、自分を偉くみせることに意識を置きすぎではありませんか?」と高圧的な態度をとり、その時にも、先ほどまであんなに自分たちに偉そうにしていた魔女生徒は「申し訳ありません」とずっと跪きながら言っている。
「あなたたちも同じです。自分よりも実力が高い魔女の周りにいて……」
「もういい、ユリア」とシルクと言う魔女生徒が抑えようとしたが「いいえ、よくありません」と全く止まらない。
「大体、貴方たちはどなたと同じ世界で呼吸をしていると思っているのですか?」
「ユリア」
「この方は、鏡魔法を操る由緒正しきローズマリア家の強くて可憐で立つ姿さえ絵になる第一子女、シルク・ローズマリア様と同じ世界で」
「ユリア」
「この、レッドクロスアート魔法女学院で、新入生最優秀魔女の称号をえた」
「ユリア」
「このお方がその気になれば、ゾンビドラゴンでさえお手玉の様」
「ユリア、それは言いす……」
「まるでマッドメロンのように大きく、豊満な胸の前にいいいいだだだだ」
ユリアと呼ばれる魔女の言葉はシルクと言う魔女が顔面に爪を立てた痛みで途切れた。
「お前は、前々から少々言い過ぎる所がある」
「も、申し訳、ありはせん」痛がりながらユリアと言う魔女生徒はなぜかちょっと嬉しそうに謝った。
「まったく」とシルクと言う魔女生徒は、アイアンクローを止めて、リイカとミスケアに体を向けた。
「同じ級友が失礼な態度をしてしまった。大変申し訳ない」とその場で頭をさげた。
そのあまりにも凛々しく謝罪をする姿にリイカとミスケアは一瞬、風が吹いたかのような感覚に陥り、その姿に見とれた。うわあ、こんな美人の魔女がこの学校にいるんだぁ、とリイカは思った。
すると「そうだ、謝罪とお近づきの印としては何だが、貴方たちにこれを」先ほどまでの高圧的な態度とは別に物腰柔らかな態度にまたもリイカたちは見とれた。その態度は「いえ、とんでもないです、謝罪の品なんて」と普段、あんまり、敬語を意識をしないリイカでさえも自然と敬語らしい態度をとってしまうほどであった。
しかし、渡されたものを見てリイカとミスケアはギョッとしてしまった。
そこにあったのは、体全体が腐りかけており、目も飛び出している魔物のフィギュア。
これは何なのだろうかと思い「これは、なんでしょうか」とリイカは聞くと、シルクは不思議な顔をして「もちろん、ゾンビ犬のフィギュアだが」と言った。
え? ゾンビ犬のフィギュアって? リイカはこれは何か新手の嫌がらせかと思いシルクを見るとシルクは、我が子を愛する母親のように大切にゾンビ犬のフィギュアを見ている。
(間違いない、この人、こういうものが好きなんだ!!) リイカが驚いていると、シルクの顔に静かな雨がふりそうな雲が立ち込める。「もしかして、嫌?」その態度が、幼い少女のように見えたので、リイカとミスケアは見とれた。
それにしも、少し驚きであった、こういうゾンビ犬が好きな者がいることに。
リイカはそこで昔、自分が近所でいじめられていたゾンビ犬を庇っていたことを思い出した。
(まあ、悪くないか、こういうフィギュアも)と思い受け取ろうとすると、リイカが戸惑っていると思ったのか、ユリアが慌てて前に来て「シルク様、そんなわけありません!! このゾンビ犬のあまりにもキュートな姿に声を失っただけであります!!」と若干無理がある理由をつけていたが「そうか? そうか!!」とシルクは不安な表情を浮かべたがすぐに日なたのように明るい笑顔を見せた。
「ならユリアにも後で、私のコレクションを見せよう」
「いえ、それはあまりにも恐れ多いので今回は遠慮します!!」
喜ぶシルクの誘いをユリアは丁重に慌てて断った。
「そうか」シルクはしゅん、とする。
「ささ!! どうぞ、お受け取りを!!」とそう言い、ユリアはリイカたちの手を動かしゾンビ犬のフィギュアを受け取らせた。
そして、「彼女たちの愚行、改めて謝罪させていただきます」そう言い頭を下げた。
「さあ、貴方たち、もう授業が始まります。教室に戻りますわよ」そう言い、後ろの魔女たちに体を向けた。
「それでは」とシルクはお辞儀をして、その場を立ち去ろうとする前に、ミスケアの手を握った。「へ!?」ミスケアは突然自分の手を握られたことにドギマギしていると「ミスケア殿、生まれがどこで、誰の子など言うのは関係ありません、あなたは、あなたなんです」そういって改めて、お辞儀をするとその場から去って行った。
「なんか、いい人だったね」
「はい、そうですね」リイカたちは、シルクとユリアの後ろ姿を真っ直ぐに見ていた。
とはいえ、リイカは先ほど言われた言葉が気になっていた。「犯罪者の娘」それは、ミスケアが本当に犯罪者の娘なのか疑っていたわけではなく、それのせいでミスケアが自身を失っている。自分に最初の時にしていた、申し訳なさそうな様子を見せてしまう原因であるなら、なんとかそれを取り除きたいと思ったからだ。
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