第10話 生まれでどうこう言われる筋合いはない

そのころリイカは隣の席の魔女に話しかけていた。

「いや~、まいったまいった、今日はいろんなことが起こるなぁ、あ、私の名前はリイカ・ポートフォリオ、よろしくね」リイカがそう言うと、その魔女は申し訳なさそうな、困ったような顔をして、リイカの方を怯えた様子で見る。

 あれ、私そんな怖がらせるようなことしたかなぁ、と疑問に思っていると、「もう授業の鐘は鳴ったぞ」と次の授業に使う歴史の教科書でリイカの頭を軽く叩く。クスクスクス、と周りの生徒の小さな妖精のような笑い声が教室中に響く。

「静かに」その先生は、特別大きな声を出すわけじゃなかったが、声音からの威圧感でおちょうしものの妖精たちは静まり返った。と言うより、リイカはこの声を知っている。

「て、バーレスク先生!?」そこには、赤い、大きな軍帽子がシンボルマークのバーレスク先生がいた。

「静かにと言ったはずだが?」リイカは驚きと知っている先生が来たことの感激のあまり、先生が授業の担当なんですね!! と喜びの光を見せようとした。

しかし、バーレスク先生の声と共に自分に向けられた野獣の眼光に委縮して、冷や汗を顔中にかきながら「はい、すみません」と静かにか細く雀のように小さな声で返事をした。横でクスリと笑った魔女を見て、リイカは初めて見せるその笑顔につられて、笑みを浮かべた。横では、やれやれと言うようにバーレスク先生は肩をすくめていた。

「あ~、授業疲れた~、もうちんぷんかんぷん、何が何だか分からない~」歴史の授業が終わると同時にリイカはその場に突っ伏した。

 横で、またも爽やかな空のような微笑みをしている魔女を見て、リイカは会話のチャンスだと思い「どう? 今の、分かった?」と聞いた。 

 しかし、その瞬間、暗雲を立ち込めたように怯えた表情になり「えっと、えっと」とポツリ、ポツリととりとめもない返事をしていた。でも、せっかくの会話のチャンスを無駄にしたくないと思い、リイカは、「ねえ、ちょっと学校探検してみない?」と言って、怯えた表情をした魔女を教室の外に誘い出す。



「へえ、教室や正門前にあるガーゴイル像って、侵入者とかの監視の為に建ってあるんだ」

「は、はい、そうです」リイカたちは教室の外に出て行くと、早速教室の前にあるガーゴイル像の前にきた。

これは何の為にあるんだろうとリイカが不思議がっていると、恐れながらもこれは、侵入者の監視の為につくられてあるんですと魔女が説明している所であった。

「それにしても、それは入学する前から知ってたの?」

「い、いえ、入学する前に下調べで本校のことは調べていたので」魔女は相も変わらず怯えた様子で答えていた。

リイカはそれを不思議に思っていたが気にしていない様子で「へえ、研究熱心なんだね、ええと」魔女の名前を知らないので、何て呼べば良いか困っていると、「ス、ケア」ですと魔女が言った。

「ん?」と聞き返すと「ミスケアです、私の名前は、ミスケア・スケアリィです」ミスケアはそこで何故か俯いた。「そっか、ミスケアって名前なんだ!!」リイカがそう言うと、何故かミスケアは驚いたように目を見開く。

それが何の意味をするのか分からず、リイカはまた自分が何か変なことをいってしまったかなと思い、「ごめん、ちょっと馴れ馴れしかったかな?」と目をつぶり頭をさすりながら言った。

すると「いえ、なんでもありません」とミスケアは少し俯きながらそう言った。その目には、仄かな喜びが灯っているようであった。

 その後、実験室の黒ガエル、美術室の動く絵画や彫刻、音楽室で動き回る楽器たち、図書室の様々な魔導書や伝記などなどリイカたちは見て回っていた。リイカは回るにつれて段々、つぼみが開くように笑顔になるミスケアに喜びを感じていた。

 大体見て回って、リイカはふと何気ない話題を思い出した。

「ねえ、他の学校、特に、シャドウクロウ魔法学院なんかはどんな感じなの?」

シャドウクロウ魔法学院、レッドクロスアート魔法女学院と同じくらいの古い学校で、また同じように名門とされている。レッドクロスアート魔法女学院、シャドウクロウ魔法学校の2校は双頭と呼ばれる、1番、2番をあらそう名門となっている。

「はい、あの学校は、昔は魔女専門の学校でしたが、今ではどんな種族も入学可能となりました」

「そうなの!?」リイカはそう言って驚きのあまりにミスケアに詰め寄った。

「は、はい、最近、の話なんですけど」ちょっと詰め寄られたのに驚いたのか、ミスケア目を三日月にして困った表情を浮かべた。

「あ、ごめん」そう言ってすぐにリイカは身を引いた。

「いえいえ、それでは続けますね、シャドウクロウ魔法学院は、どんな種族も入学可能になりました。そして、もう一つ、他の学校とは違う特徴が生まれました」

「うんうん、その特徴は?」

「それは、魔女以外の種族、吸血鬼や、狼男、ゾンビのハーフの魔女、魔法使いの入学者が多くなったんです」

「それ本当!?」

 この世界は魔女以外にも大きな種族で言うと、吸血鬼、狼男、ゾンビ、サキュバスなどの種族が住み続けていた。もちろん、これらには入らず普通の人間の種族もいる、更に魔女、魔法使いの場合は普通の人間からなることが出来る種族であった。ちなみにリイカは魔女生まれの魔女である。

 またも興奮するリイカ、そしてたじろぐミスケア。

「は、はい、そうです」

するとリイカは両手を広げてくるくる回った。

「へえ、いいじゃん!! 結構面白くなってんじゃん!!」

 リイカの意図が分からずミスケアは、小鳥のように首を横に倒した。

「だって、いろんな種族が、交友するようになったってことでしょ? 吸血鬼は吸血鬼、狼男は狼男、最近は狼女も出てくるようになったから狼女もね、そういう1つの種族や家柄とかに縛られないでさ、生きていくことって面白いことだと思わない?」リイカは、風車のように回った後に、手を後ろに組んでリイカのの目を覗いた。

 すると、ミスケアは、正に目から鱗が落ちると言うように驚きの表情をし、息をのんでいるようにリイカは見えた。

「ミスケア?」

 すると、ミスケアは「いいえ、なんでも、っあ!!」突然、同じ魔女とミスケアはぶつかった。

 しかし、リイカとミスケアはそんなに幅を取っていないにもかかわらずミスケアは同じ魔女と肩がぶつかった。つまり、相手がわざとぶつかってきているようにリイカは思った。

 リイカが何か言う前に「ごめんなさい」とミスケアが謝る。

すると、ぶつかってきた魔女は「あら、ごめんなさい、こんなところに石が落ちていることに気が付かなくて」と嫌味ったらしく言った。周りに他の魔女がおり、クスクスクスと小汚い悪魔のような笑い声をし、その笑い声がミスケアの鼓膜を揺らした。

 すると、ミスケアはリイカと会ったばかりの表情に戻り「ご、ごめんなさい」と弱々しい声で言った。

 すると、嫌味な魔女は「いえいえ、とんでもありません、仕方のないことです、あなたのような眼が足についているような方がぶつかってしまうのは当然のことでありますわ」と言い、その声に呼応するように悪魔の笑い声はどんどん大きくなる。

「ねえ、あんた」リイカは、ミスケアの前に左腕を、広げ、嫌味な魔女の前に立ちはだかった。

「ぶつかってきといてその態度は無いんじゃない」リイカは、少し声に怒気を込めて嫌味な魔女の前に立ちはだかった。

 しかし、嫌味な魔女はますます嫌な笑みを大きくさせて「あらあら、流石は犯罪者の娘、つき合う魔女も卑しい、これではまるで獣の群れ、いいえ、ゾンビ犬の群れの様ですわ」

「犯罪者の娘?」リイカは、嫌味を無視して犯罪者の娘と言う言葉に引っ掛かった。

「あら、しらないの? その子の親は、戦争魔武器、戦争魔兵器を悪徳化学魔法使い、悪徳貴族に売っていた卑しき商人の娘、ここに来ること自体がおこがましい」そこで、顎を上にあげてミスケアを見下した。ミスケアは申し訳なさそうに地面に顔を向けていた。

「犯罪者の娘は犯罪者らしくしていればいいの」嫌味な魔女は畳み掛けるように非難の言葉を上げ、他の魔女たちと一緒にくすくすと嗤いだした。

「あのさ」その嗤いを打ち消すようにリイカが口を開いた。

「あら? なにかしら、基礎ができていない魔女風情が」そう言うと周りの魔女がますます嗤いを大きくする。

「犯罪者の娘かなんか知らないけどさ、それがミスケアを責める理由になる?」

「は、何を言うのかしらこの子の親は……」

「そうやって、噂や耳に入ってきたことだけで人の全てを判断するなんて、あんたらの方がよっぽど卑しい」

「何ですって?」そこで、魔女たちの顔に嗤いが消えリイカを睨み始めた。

「親が犯罪者、それで? ミスケアは何かしたの?」リイカが言うと、魔女は言葉を濁した。

「そう、つまりあんたたちは、犯罪者の娘と言う肩書を使ってミスケアを見下して馬鹿にしていたの」リイカがそう言うと魔女たちは「何なの? 貴方には関係ないでしょ?」と騒ぎ始めた。

「それは、ミスケアも同じ気持ちだよ」そこで、リイカが顔をしかめて睨むから眼前の者は全て身を引いた。

「親がどうとか関係ない、ミスケアはミスケアなんだ、犯罪者の娘なんて名前じゃない、あんたらみたいなのが、一番、最低なのよ」リイカはそう言い放つと、真っ直ぐに目を逸らさずに嫌味な魔女たちを睨みつける。

「なによこいつ、いいわ、私たちで教育してあげましょう」そう言って魔女たちは、リイカたちに向けて戦闘態勢を整えた。

 望むところよ、と言おうとした時、「何をしている、お前たち」と声がした。 

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