第7話 言葉ひとつで救われる

巨大なキメラは無表情で棒立ちしている。

 しかし、右足のバランスが崩れた。見ると、自分の足が地面にめり込んでおり、その地面の近くにはサソリのような銀髪の一つ結びの魔女がおり、キメラは彼女を敵と認知し拳を大きく振り上げてそのまま魔女に向かってパンチを繰り出した。

「バームグーヘン!!」キメラの拳は止まる。彼女、リイカ・ポートフォリオが空気を固めて見えない強固な盾を作ったからだ。

 グオオオオウ!!キメラは咆哮を上げる。


「リイカ・ポートフォリオ、貴様はキメラの足止めを頼む、先ほどの魔法のように地面の硬度を変るなどをして、キメラの機動力をそぐのだ」

「はい!!」

「せんせ~い、私はどうしますか? まあ、大体は分かりますけど」

「クードヴァルテ、貴様はキメラの核の捜査にあたれ」

「了解です」

「私は、キメラの、手足を破壊し、攻撃力をそぐ」


バゴオオオ!!

 突然の爆発音と共に、キメラの腕がなくなる。

グオオオオオオオオオオ!! キメラが悲痛の咆哮をあげた。

「あ!! 見つけました!! 脇腹にありました!! ウル・メルカトル!!」

 クードヴァルテはキメラの核を発見すると、バーレスクに見えるようにした。

「了解した」バーレスクはそう言うと、目にもとまらぬ速さで、キメラの核にたどり着く。

 すごい、これがレッドクロスアート魔法女学院の実力、とリイカは、ただただ目の前でキメラを圧倒していることに圧巻している。

「おねえちゃん!!」

 !!!!

 リイカ、クードヴァルテ、バーレスクは突如、子どもの声がしたのに気付いた。

 見ると、小さな子どもがリイカに近づいてきているではないか。

 キメラは、咆哮を上げて、子どもを踏みつぶそうと、足を動かした。

「まずい!!」

バーレスクもクードヴァルテもキメラまで距離がある。こどもは足が迫っているのに気付くとなぜかその場に立ち止まった。


 その頃、レッドクロスアート魔法女学院では、学園長が再び話を進めようと、机の上に座った。

「おっと、話の続きだったね、あたしがなんでリイカ・ポートフォリオを入学させたか」

「学園長、今はそれどころでは」シルヴィーユがそう言うと、学園長は腕を机に置き真剣な表情で「いいや、あんたは聞く必要がある」といった。

 シルヴィーユの顔は一気に真剣な表情になる。

「あの子の目には、リイカ・ポートフォリオの目には」



ドゴオオオオオ!! キメラは地面に大きな足跡をつけた。しかし、キメラは首をかしげる。足をどかすとその地面には……何もなかった。

 フッと自分に影が差したのをキメラは気付く。見上げると、そこには、一人の魔女が自分の頭上を飛んでいた。その姿は、まるで



「太陽がやどっている」



 リイカは、「ちょっとごめんね」と言うと子どもをそのまま空気の塊を作って、子どもをそこに置いた。そして、自分の足元の空気の硬度を変えたのか、どんどん、どんどん、まるでトランポリンのように自分の足元の空気を凹ませる。

 そして、そのまま空気を蹴り、キメラに向かってドロップキックを繰り出す。

 大きくバランスを崩したキメラはそのまま地面に倒れるか倒れないかの時に、ドンッと脇腹が爆発した。すると、その瞬間、キメラの体があっという間に崩れ去って、灰となり空気に漂っていった。

「礼を言う、リイカ・ポートフォリオ」バーレスクはすぐにリイカのもとに向かい礼を言う。

「いや~、すごかったです!! リイカちゃん、本当に格好良かった!! ありがとう!!」

そう言って、クードヴァルテはリイカを抱きしめる。リイカは苦しそうにしながらも二人からの感謝の言葉を噛みしめていた。

『あんたがあの子を殺した!!』その言葉がリイカの胸にずっと引っかかっていたのだ。

 今回はうまくいった。だけど、うまくいかなかったら。

 すると、バーレスクが、腕につけている腕時計のようなもののスイッチを押して、そこから映像を出した。

「リイカ・ポートフォリオ、貴様に是非、言いたいことがあるそうだ」バーレスクは笑みを浮かべながら、リイカに腕時計の映像を見せた。

「は、はい、なんでございますでしょうか!!」リイカは慌てて、近づく。そこには、自分が助けた、瓦礫に挟まっていた男の子がいた。

「おねえちゃん、ありがとう!! すごくカッコよかった!!」男の子は太陽に照らされたた向日葵のように明るい笑顔をしていた。

「……」リイカは何も言わずに顔を地に向けていた

「どうしたの? おねえちゃん?」リイカが地面に顔を向けたのが心配になったのか男の子はそう声をかけた。リイカの傍には笑みをうかべるバーレスクとクードヴァルテがいた。

「ううん、なんでもない!! ありがとね!!」リイカは、腕で顔をこすったかとおもいきや笑顔で男の子にそう呼びかけた。

 そこで、「あれ、そう言えば、さっきの男の子は」とクードヴァルテは辺りを見渡すが、先ほどキメラに襲われそうになっていた子どもの姿はどこにもなかった。



「目に太陽ですか?」

「そう、目に太陽」

「それは、目に特別な力があると言うことですか?」

「あっはっは、そんなんじゃあないよ」

 学園長は屈託のない笑顔を見せる。それとは対照的に不思議な顔をするシルヴィーユ。

「まあ、あんたも会えば分かるよ、奴は立派な魔女になれる」

「はあ」シルヴィーユは、少し不満そうな顔をした。なぜなら、シルヴィーユはリイカのことをすでに知っていたからである。


 そのころ、クードヴァルテに抱きしめられるリイカ、そして、将来を楽しみにしているような遠い瞳をしながら笑みを浮かべるバーレスクがいる中で、リイカは自分の心に誓いを立てた。

 私はみんなを笑顔にする誰にも負けない最強で最高の無敵の魔女になるんだ!!

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