第6話 過去の呪縛
グオオウ!!!
リイカの目の前にはキメラがいる。そして、助けを求めている男の子。
あの時と似ている。でも、今は違う、私が、あの子を、助ける!! この命に代えても!!
「バアムグーヘン!!」リイカは真っ直ぐキメラに向かって走り、そのままキックを食らわせた。
キメラはキックを食らうと大きくのけ反って、倒れた。リイカは追撃をしようとした。
しかし、その時、リイカの胸に嫌な予感を過らせた。笑った、笑ったのだ、キメラが、その顔になにか違和感を覚えてリイカは身を引く。
すると、キメラは、指を指した。そこを見ると「な!?」男の子が、もう2匹ほどのキメラに取り押さえられていた。
子どもを人質にとられた。やられた!! リイカはそう思った。そもそも、まずは避難者の避難誘導が先だった。しかし、過去の清算のためにリイカは自分の勝手な意志でキメラに向かって言ってしまった。避難者のことを全く考えていなかった。
「助けて」そう言って涙をながしている。キメラは楽しそうに、ニタニタしている。
あの子は助ける、この命に代えても。
(違うでしょ)ふいに、テスカの言葉を思い出した。あまりにも、鮮明でその場にいると勘違いしそうだった。
(違うでしょ)
その言葉は、リイカたちが自分の命を落としてでも魔物に襲われる人々を助けた勇者の絵本を読んでいた時だった。
「格好いいなぁ」リイカは、自分の命をかけて助けた勇者を素直に格好良いと思った。
しかし、テスカは苦虫を噛みつぶしたような渋い顔をしている。
「どうしたの? テスカ?」リイカはテスカがどこか体の具合でも悪いと思いそう声をかけた。。
すると、「違うよ」テスカはそう呟いた。
「違うって何が?」
「この物語は、あんまり、よくないよ」
「え?」リイカはテスカの反応の悪さが良く分からなかった。自分の命を落としてまで人々を助けた、素晴らしいことではないかと思ったからだ。
「え? でも、勇者のお陰でみんな助かったじゃん」
リイカがそう言うとテスカは大切な人の死を思い出すような悲し気な顔をリイカに向けた。
「違うでしょ……人々を救っても、自分が死んだら、だめだよ……だって……自分が死んだら、救われた人々が悲しむじゃない」リイカは、ハッとした。リイカはこれまで、他人をたすけることが何よりも大切だと思っていた。たとえ、自分の命を落としてもそれで他人が救われるなら、それで良いと。だが、テスカの言うことは違う。
「だって、みんなを笑顔にする魔法使いは……」
再び、リイカはその言葉を思い出していた。
「そうだ……違う、みんなを笑顔にする、魔法使いは、死んじゃいけないんだ、みんなを笑顔にする魔法使いは「「勝って、助けて、そして、自分が必ず生きて帰って来るんだ!!」」
もう一度、問う、私はだれだ? みんなを笑顔にする最高の魔女 リイカ・ポートフォリオ!! 「キネス・バアムグーヘン!!」リイカがそう叫んだ時に男の子をおさえていたキメラが男の子に向かって腕を振り下ろす!!
ガキィン!!
しかし、キメラの爪は男の子の肌を通さない。キネス・バームグーヘン、この呪文により、男の子の空気を固めた。勿論、男の子が息ができるようにスペースは確保してある。
「これで、後は暴れるだけ!!」その時、ドオオン!! ドオオン!! ドオオン!! と轟音が鳴り響く、見るとキメラの顔が吹っ飛び、腕が焼き切り落されていた。
見ると、紅い、長い軍帽子を被っている魔女が自分に近づいてきた。その帽子の紋章を見て、リイカは彼女がレッドクロスアート魔法女学院の魔女だと理解した。
「何をしている、避難者の救助が先だと言ったであろう」とバーレスクは言いながら、リイカの格好を見て、自分の隊の魔女ではないことを悟った。
「貴様、何者だ?」バーレスクは突如、自分の前に現れた魔女に不信感を持つ。
リイカは、バーレスクの威圧感に蹴落とされ慌てて「ええと、わわ私は、今日、このレッドクロスアート魔法女学院に入学いたします、リイカ・ポートフォリオであります!!」最後は啓礼をしてそう答えた。
「入学生だと!?」バーレスクは驚いた。入学生が、どうやってここに来たのか、経験不足で、魔法も基礎しか扱えないはずなのにどうやってキメラに立ちはだかったのかと。
「貴様、魔法は使えるか?」
「は、はい、い、一応、『バームクーヘン』と言う物質とかの硬度を変える魔法を持っています」
「なに!?」バーレスクは驚きを隠せなかった。なぜなら、リイカが使っているその呪文は中級魔法で、入学前に扱えているのはほぼありえない魔法だったのだ。
(一回の呪文で、柔らかくも固くもできる中級魔法を入学前に!? この子は一体……!!)
そう考えるも、突如、地面全体が蠢くような音により、思考は止められた。
バーレスクは、すぐに、避難者のそばに近づき、なにやら首に巻き付けた、そして、
「カーム!!」そう唱えると、避難者の姿は一瞬にして消えた。
「今のは!?」
「避難所に直接、送った。何十人の部下が見張っている。それよりも、来るぞ、お前も、ここに来たのなら、覚悟を決めろ」
「もう決めています」そこで、バーレスクは、リイカを見る、リイカの目には、消すことができない炎が燃えていた。
「絶対に勝って、生き残ると言う覚悟が」その言葉を聞いてバーレスクは大きく目を見開いた。
「そうか」そう言ってバーレスクは、再び真っ直ぐ前を向く、すると、地を割くほどの地響きと共に、家何個分かの、巨人のように大きな、人型のキメラが現れた。
「せんせ~い」呑気な声がすると共に、マスカットのような鮮やかな緑色の髪をした魔女が現れた。彼女は降り立つと同時にリイカに意識を向けた。
「あれ? そこにいるのは誰ですか? みたところ、あ~!! 貴方、もしかして、新入生ですか?」
「え? あ、はい」すると、緊迫した空気には似合わなく、天真爛漫な笑みを浮かべてクードヴァルテはリイカに近づき、握手をした。
「私の名前は、クードヴァルテ・クフォンターレ!! 好きなものはゾンビの首飾り!!
以後、おみしりを!!」元気よく自己紹介をする彼女の勢いにリイカは押された。
「もういいだろ、クードヴァルテ、今は、戦闘中だ」
「え~、良いじゃないですか、もう避難者も0ですし~」
「その油断が命取りだと言うのだ」バーレスクの厳しい声音をものともせずに呑気な態度をクードヴァルテはとっていた。2人のやり取りにあっけにとられていると「新入生」とバーレスクが声をかけていた。
「本来、貴様はいるべきはずのない場所に来てしまった。詳しい説明は後々に誰かから説明されるであろう、しかし、ここに来てしまった以上、貴様にもこのキメラ討伐に参加してもらう。最も、貴様の目には、もう答えが出ているがな」
「はい!!」リイカは快活な返事をした。
3人は、目の前の大きなキメラを見る。
「せんせ~い、どうします? あの大きさだと、倒れた時に大きな『霊衝』が生まれてしますし、コアもどこだか分かりませんよ?」
「霊衝?」
「そうか、新入生である貴様は知らないか、無理もない、大型のキメラはコアを破壊されずに死んだ際に『霊障』という大きな爆発を起こしてしまう。しかし、コアを破壊すれば爆発もしないで済むが、今回の場合、対象があまりにもデカく、しかもコアは、それに半比例して小さくなり、発見が困難な状況にある」なるほど、そんな特徴があるのかと、リイカは自分の頭にメモをしっかりとる。
「どうしますか? 結界魔法隊を呼びますか?」
「その必要はない、結界魔法隊が着くまで時間がかかる、それまでに人々が徒に不安が高まってしまう、それはあってはならないことだ」
「あはは、そうですよねー」リイカは、このクードヴァルテと言う魔女に対して、あまり良い印象は持ってはいなかった。さきほどから結構口調が軽いし、遊びにきたのではないかと言う態度をしていたからだ。
しかし「バーレスク先生なら、そう言うと思いました」その言葉は生命を帯びていた。
「じゃあ、どうします?」
「・・・・・・私に考えがある」
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