第5話 一つの言葉が相手を支配してしまう

「テスカ!!」私の叫びに、テスカはゆっくり振り向く、「リイ、か……無事?」テスカはそう言って笑顔を見せた。私は大丈夫だ、そう聞こえるような気がした。

「テスカ!! テスカ!!」この時ほど、私は自分の無力を呪ったことは無かった。初めて分かった。これまで、何度も馬鹿にされても、この感情を抱くことはなかった。でもしっかりと感じた。弱いことは、自分に力がないってことはこんなに悔しいことだったんだ。

テスカは、魔獣の爪により、下半身がもう機能しなくなっていた。というより、脚が、もう、今にもちぎれそうに。

魔獣が、再び腕を振り上げる。私はもう駄目だと思い、テスカを抱きしめて目を閉じる。

ガアアア!! ガアアアア!!

魔獣の憤怒がまじった声が聞こえる。目を開けると、私とテスカと男の子を囲むバリアーが周りにあった。

「これは……」私は驚いていたが、テスカの血を噴き出した咳で、意識をテスカに移した。

「テスカ!!」テスカを見ると、もう目に死相が出ていた。

「嫌だよ……テスカ、こんなの……嫌だよ」私は途切れ途切れに言う、テスカは何故か笑顔を浮かべていた。もうすぐ死ぬのに、自分の夢が叶わないのに。私は悔しさのあまりに目を閉じて涙がこぼれてきた。

「私のせいだ……!!私がいかなければ……私が死ねば!!」 コツン、額に握りこぶしが当たる感触が来た。目を開けると、テスカが、少し眉を吊り上げた表情で私を見ていた。

 でも、それは一瞬だった。テスカはすぐに柔らかい笑顔をして、その指で流れた涙を止めてくれた。

「そんな、こと、いわない、で、リイカ」

「でも……でも!!」涙であふれる私とは対照的にテスカは柔らかい笑顔をしていた。

「このまま、だと、3人とも、死ぬ……だから、リイカに、プレ……ゼント、私、から、さい……ごの、プレ、ゼント」そう言うと、突然辺りがまばゆい光に覆われた。

 私は目がくらむと思ったのか、片手で視界を遮っていた。

 そして、次に私が目にしたのは、光に覆われた私の脚だった。

 足元には、冷たくなったテスカと目を瞑っている男の子がいる。私の脚は、光り輝いていた。

「テスカ……」私は冷たくなったテスカを振り返る。テスカを見て、私の目に涙があふれそうになった。(なかないで……)

パン、と私は頬を叩いた。

「何やってんだ」小さく、本当に小さい声だった。

「ごめん、弱くて、結局、私は最後までテスカがいなきゃ何もできなかった。でも、もう泣かない。約束、したんだ」今更遅いのかもしれない。

「もう、手遅れかもしれないけど、それでも約束したんだ!! 誰にも負けない、そして全部助けられる、そんな最強の、無敵の魔女になるって!! バアムグーヘン!!」私の声と共に辺りの床が、柔らかくなった。私は、驚いた、これまで、魔法を成功させたことが無かったからだ。

私はテスカの言葉を思い出した。(さい……ごの、プレ、ゼント)恐らく、私が今魔法が唱えられるようになったこと。それがテスカのプレゼントと言う意味だと思った。

魔獣は硬度の差に足がついて行かず、体のバランスを崩した。

 私は、上の天井に飛び上がった。そして、そのまま天井の硬度を柔らかくした。天井がトランポリンになった感覚がした。そのまま、咆哮と共に魔獣の頭めがけて脳天へキックを繰り出した。

 ギャウンンン!!! 悲痛な断末魔を叫び魔獣は斃れた(たおれた)。


「大丈夫か!?」その時、タナトス警察部隊がやってきた。私はその場でへたり込んで気絶をしてしまった。



 私は、ある泣き声で目が覚めた。目に映ったのは、横たわる冷たくなったテスカ、そして、テスカのお母さんが手を握って泣いていた。

「テスカ……」私は、とりとめもなくそう言っていた。すると、グルリとテスカのお母さんは悲しみと怒りが交えた鬼の形相をしてこちらを向いた。

「だから、だから私は反対したんだ!! あんたみたいな落ちこぼれの魔女なんかと付き合って!! でも、この子は、優しかったから、優しかったから……」その後、声にならない叫びが辺りを響かせた。私のそばにいた男の子は両親と共に、私を睨みつけていた。タナトスの人たちは冷たい視線を向けていた。

 そして、憎悪に満ちた顔を上げると、「あんたのせいよ!! 何もないくせに、落ちこぼれのくせに、弱いくせに現場に飛び出していったあんたのせいよ!! お前が、あの子を殺した!!」

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