第4話 夜の悲劇
世界は突如、謎のキメラに襲われる世界となった。キメラと言えば、例えば犬と鳥、二匹の獣が、体が出鱈目に混じり合った生物だ。そして、そのキメラが人を襲い始めた。
しかし、そのキメラはただのキメラではなかった。そのキメラは、霊、死霊との合成がなされていた。
この世界は、警察機関は主にタナトス警察機関に任せていた。その組織は絶大な組織とされた。しかし、キメラの出現によりしまい、それまで犯罪においては警察機関としては優れていたタナトスであったが、キメラなどの魔獣に対する力には対応できず、タナトスはたちまち力を失ってしまった。
そして、これまではキメラがいなかったのもあって町に防壁などはあまり必要なかったが状況が変わった。タナトスが力を無くし、謎のキメラの出現によりスイークタウンのような町は塀や堀、そして大きな壁などの防壁するためのもの作られるようになった。
ただし、村にはあまりそう言った施設が設けられていない。
魔女、魔法使いの強さは圧倒的に近いものがあった。あらゆるキメラの形態に対応することが出来た。キメラに囲まれた世界にも関わらずスイークタウンのように平和な街は沢山あるのはそう言った理由だ。
逆に村は防衛がしっかりしていなくキメラに襲われることが多い。魔女や魔法使いは主に村を襲うキメラの討伐を任務としている
加えて、それまで警察機関でも何でもない魔法使い、魔女たちが討伐組織として力を強めていった。もちろん、レッドクロスアート魔法女学院も対象外ではない。
レッドクロスアート魔法女学院は双頭と呼ばれる二大魔法学校のひとつとされた。
理由は様々あるが、一番はキメラの討伐が高い魔女が教鞭を持っている学校だからである。
中でもバーレスク・ホムンテルト、レッドクロスアート魔法女学院の歴史担当。赤い軍服帽子がトレードマークになっている。彼女の名前は幼い子どもにも知られており、子どもは聞いただけで目を輝かせるほどだ。彼女以外にも有名で協力な魔女がこのレッドクロスアート魔法女学院にはいる。しかし、魔法の修行ばかりしていたリイカはそれは知らないことだった。
「先生、バーレスク先生!! 速すぎます~」
「お前が遅い、クードヴァルテ」
「は~い」バーレスクに続いて少し軽い口調をしているマスカットのように鮮やかな緑色の髪の魔女が現れた。彼女はレッドクロスアート魔法女学院3年生、クードヴァルテ・ホーンサイド、成績は8位である。
彼女たちと複数の魔女がスイークタウンの方に飛び立っていった。
上空の上に立っているリイカは突如、焦燥感にかられた。
「スイークタウンの方に、こうしちゃいられない!! 今すぐ助けに!!」
『あんたがあの子を殺した!!!』
突如思いだす記憶がリイカの脚を止める。
ここでたちどまっても意味がないんだ。パンッと自分の頬を叩き彼女は自分に気合をいれて己に誓いを立てた。街の人々を助けると。そう誓うと、一直線にスイークタウンの方へ、レッドクロスアート魔法女学院とは全くの逆方向に飛び立っていった。
「クードヴァルテ!! 状況確認!!」
「はい!! 『メルカトル!!』」彼女の魔法は、主に認識をを操る。それで透視することも可能である。
「北に5人、東に6人、西に5人、それぞれ私の魔法を見て被害者、そして、避難経路の確保を!! 『ウル・メルカトル』!!」そう言ってその場にいた魔女たちに自分の透視能力を見れるようにした。
「では、各々、被害者の救助へ!! 私はキメラを討つ」
散!! 一瞬で魔女たちはそれぞれの場所に飛びだっていった。
そして少し後、「到着!!」リイカは、バーレスク先生たちが着いた場所の遥か北に降り立った。いや、激突した。
「よし、無事、降り立った!! おーい、だれかー!! 誰かいますかー!!?」リイカはすぐに誰かいないか声を張り上げた。
すると、「……れか、誰、か」と微かな子どもの声がした。
リイカは周りをキョロキョロ見渡した。すると、瓦礫に足が挟まっている男の子がいた。
「誰か、たす、けて」男の子はか細く小さな声でわずかに抵抗していた。
リイカは「待ってて!!私の魔法で」リイカは、硬度を操り、瓦礫自体を柔らかいものに変えて少年の足を取り出そうとした。取り出そうとしたのだ。しかし、それを妨害する事態が起きた。キメラが少年の近くに現れたのだ。
『お前があの子を殺した!!』過去のその言葉を思い出し、リイカは動きを止める
数年前
「リイカはどんな魔女になりたい?」
「うーん、私はねぇ、みんなを笑顔にする!! そんな魔女になりたい!!」テスカは、いつも輝いていた。星をつないで、夜空をプラネタリウムに、炎と水の魔法のイリュージョンを見せたり、とにかく輝いていてみんなを笑顔にしていた。
そして、そんな彼女のもう一つの顔は、匿名ヒーローだった。
スイークタウンで、暴れる猛獣をタナトスが到着する前に、彼女が被害者を出さずに取り押さえた。
その時、たまたま自分は猛獣の傍で足が動けなくなってしまっていた。
猛獣の嵐のような鼻息、滝のような涎、すべてが私にとって、恐怖だった。
そんな時に、彼女は現れる。その後は、猛獣を軽々とあしらう彼女の姿に見惚れた。その姿は、まるで湖を舞う踊り子の様、猛獣は彼女の踊りのパフォーマンスの様だった。
「大丈夫?」
そこに映った彼女は、私にとっての……
「助けておねえちゃん!!」
ハッとリイカは我に返った。
そうだ、目の前で少年が襲われている、助けにいかなくちゃ。
『お前があの子を殺した!!』その言葉に再び動きを止められる。
「ふーん、そうなんだ、じゃあ私は、リイカみたいな魔女になる」
「なにそれ、私はまだまだこれからだよ、テスカ」
「そう? リイカはいつだって私の目標だよ」
そう言った彼女の顔は夕日に照らされて輝いていた。目には煌めく星が幾星霜も。
テスカは私のことを目標って言ってくれたけど、私にとってテスカは憧れの存在だった。
魔法を生まれた時から使うことが出来て、お遣いに2人で行った時、見たこともない植物の知識を私に教えてくれた。私が、魔法が使えない落ちこぼれでいじめられていた時に助けてくれた。お遣いの途中で魔獣に襲われた時も何度も何度も助けてくれた。私の身近にいた憧れの人はテスカ、貴方だったんだよ。私はいつか貴方と同じ景色を歩けるようになるって心に決めていたんだ。
あの時、やめろ!! と言って私の元に立った貴方はヒーローだったんだ。
そんな貴方になりたいと思っていた。
「じゃあさ」テスカはそう言って私に拳を向ける。
「いつか二人で最強の魔法使いになろう! 誰にも負けない、そして全部助けられる、そんな最強の、無敵の魔女に!!」私はためらっていた。なれるとは思えなかったからだ。自分がそんな魔女に、でも、テスカは「大丈夫、私たちならきっとなれる、リイカは私よりも強くて優しいから」と言った。私はその言葉が信じられず「私が、やさしい?」とテスカが言った言葉を繰り返した。
「うん!! だってリイカは、どんな動物にも優しくして、ゾンビ犬にも心の中で恐れながらも一生懸命やさしくしてた」
「でも、心の中では怖いとか思ってたけど」
「でも、優しく接してくれた。人々に忌み嫌われるような、ドブネズミやさっきゾンビ犬に優しく接することができる」
「別にそれは」
「その子たちがいじめられている時、まっさきに飛び出して守ってくれた。これってすごいことなんだよ」
私はそうは思わなかった。別に、ゾンビ犬やドブネズミを庇ったのは、その子たちのように忌み嫌われている姿が私に見えてきたからだ。だから、私は、私自身を救っていたんだ。
「私はそんなにいい奴じゃないよ」そう言って、俯いた。
「……自分に見えてきたんじゃない? その子たちのことが」
「え?」驚いだ、テスカは自分がなんで助けたか、理由を一発で当てた。
テスカは、えへへ、と言うようにはにかんで言った。
「別にいいじゃん、自分の為であっても、問題はやったかどうかなんだ、リイカ、私はリイカのように飛び出すことができなかった、だから、リイカは私よりも優しくて強いんだ」
「そう、なの、かな?」
「そうだよ! 私は、リイカはいつかすごい魔女になると信じている」
「私が?」
「うん」どうしてそんなことが言えるのだろうかと思っていると、テスカは少し首をかしげて「なんか、リイカの目には太陽が宿っているんだよね」
「太陽?」
「うん、消えることのない、太陽」太陽が宿っている、か、そんなことを言われたのは初めてだった。少し、嬉しくて、薄い笑みを浮かべた。
「だから、自信をもって、リイカ、それでも私が認めた女か?」テスカはちょっと片目を細くしていじわるな顔をした。その顔がおかしくて、自分のことを認めてくれたのがうれしくて
私は、少し泣いてしまい、それをごまかすように笑った。
「分かった、ありがとう、テスカ、うん、少し信じてみる。私は、強くなれるかもしれない」
「かもじゃなくて、なるんだよ」
「うん」
テスカは再び拳を向ける。私は自分の拳をテスカに合わせた。
誓いのしるしだった。永遠の。そして、それはいつか叶うと思っていた。
あの日が来なければ。
その日は、血に真っ赤に染まったような月が夜の道を照らしていた時だった。
私は、病気の両親の薬に必要な物を買いに、スイークタウンにいた。
「よし!! これで全部そろった!!」私は、とある何でも売っている、大規模な売店にいた。そこには大人も子どもも沢山、まさに山のようにいた。多くの人々が笑っていた。
私もその中にいた。そしてそれはすぐに悲鳴に変わった。
ゴガッシャアア!!
突然の轟音が辺りに響いた。キメラとは違うが魔獣が襲ってきた。
私は、雪崩のように来る人に合わせて、自分も逃げようとした。
その時、「だれか助けて!!」男の子の声がした。見ると、男の子が今にも魔獣に襲われるところだった。その時の私の行動が、悲劇を生んでしまった。
魔獣の爪が男の子の体を引き裂こうと腕を上げて空を切ろうとしていた。
カキィン!!
しかし、男の子は無事だった。私が魔獣の前に立ちはだかったからである。
何を考えたのか、私は気付いたら魔獣の前に立ちはだかっていた。再び腕を振り下ろす魔獣、それに持っていた木の箒で耐える私、男の子は足がすくんで動けない。
「立って!!」私は無我夢中で叫んだ。しかし、男の子はガタガタ震えて足が恐怖で動けなくなっていた。どうしたらいい、そんな時、テスカなら!!
「大丈夫!!」気付いたら私の口はそう言っていた。男の子はビックリしていたが、なによりビックリしていたのは私だった。どうして私はこんなことを言っているのだろう、と考えたが口は止まらない。
「おねえちゃんが、絶対に君を助ける!! だから大丈夫!!」自分がどんな笑顔をしていたか分からない。ただ、男の子を怖がらせないように、ぎこちなく笑っていたかもしれない。
私は、どこか自分をヒーローか、漫画の主人公だと思っていたのだろう。
そう言ったものの、木の箒はバキイ!! と鈍い音を立てて折れてしまった。
私は逃げなかった。この時に男の子を連れて逃げればよかったのだ。
魔獣は再び腕を振り上げる。私は仁王立ちで、男の子を守るために手を広げる。
腕が降り下ろされた時、私は死ぬんだな。そう思った。そう思った時、まっさきにテスカのことを考えていた。(ごめん、テスカ、私、死ぬかも、ごめん、約束したのに)
グシャア!!
肉を引き裂く音がした。自分の体が引き裂かれているのだと悟った。
しかし、体に何も変化がない、初めは私はあまりの痛さに痛覚が麻痺しているのかと思ったがそうではなかった。
私は恐る恐る目を開けると、そこには、左半身が血だらけのテスカがいた。
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