第3話 物語の始まりは必ずトラブルが発生する

リイカの目にはある光景が浮かんでいた。

それは、よくあるアニメ、ヒーローが敵の攻撃から人々を助けて勝つ、そんなありふれたアニメだった。リイカはそのアニメが大好きだった。

「ふふ、リイカはそのアニメ大好きだね」リイカの横ではテスカが三つ編みの髪を撫でながら嬉しそうにしていた。

「うん、だ、だって、格好良いし、この、主人公、すっごく格好いい」少し恥ずかしくなったのか、リイカはしどろもどろになりながら言った。

「ふーん」テスカは何か意味深な顔をしてリイカを見ていた。

「ど、どうしたの?」不思議に思ったリイカがテスカが何を思っているか聞いた。すると、テスカは「珍しいなって思って」と言った。

「え?」

「だって、リイカがこんなに自己主張したの初めてだなって」

「そ、そうかな?」

「そうだよ、だってリイカ、あたしがどっちが良い? て言うと『テスカが良いと思うものでいい』て言うし、何をするにも『テスカと同じがいい』て、全然自分の意見言わないから不安だったんだよ?」

「そ、そうだったんだ」リイカは自分が無かった。幼いころ魔法が使える家系に生まれてきたにもかかわらず魔法を使えなかった。両親はそんなことは関係なくリイカを愛してくれた。

 しかし、リイカは申し訳なかった、魔法が使えないことが。いつも、魔法を使って機械を治したり、箒に乗ったり、動物と話をしている魔法使いや魔女を見て自分の力の無さを感じてふがいなかった。そして、周囲の目がそれに拍車をかけた。なんであの子は魔法が使えないんだ。 あの親子の元に生まれてきたのに魔法が使えないのはおかしい、まさか鷹が鳶を生むなんてな。

 そのようなことを言われ続けたリイカは劣等感しか無く、テスカが友達になるまで友達がいなかった。更に両親も四歳の時失っていた。自分の意見を言わなかったのはそれらのせいなのかもしれない。

「でもさ、何かあたしは嬉しいよ」

「え?」リイカは何が嬉しいのか疑問に思った。自分が自己主張したのがそんなに嬉しかったのか? と。

「リイカも夢があるんだなって」テスカはそう言って顎を掌に乗せて嬉しそうな顔をしている。

「え!? い、いや、ゆ、夢なんて、そんなことないよ、わ、私も誰かを助けたり、元気づけたりすることができたらいいなって」ドギマギしながら言うリイカをテスカはニヤニヤしながら見ていた。

「ちょ、ちょっと、な、なに!?」とリイカは顔を真っ赤にして目を閉じながら反発する。

「ははは、今日はリイカの顔がいっぱい見れるなぁ」とテスカが言うとリイカは顔を真っ赤にしたまま目を見開いたと思うとそのまま俯き「べ、別に、ただの夢だよ、みんなが笑顔になれるような格好いい魔女になるなんて、叶いっこない、誰もが笑うような世迷い事だよ」と言った。そうだ、バカげている、自分がヒーローみたいになるなんて。そう思った時、テスカの反応がないことに気付いた。見ると、テスカは真剣な顔をしていた。

「リイカ、自分の夢を自分でバカにしないで」テスカはいつになく真剣な声音でリイカにそう言った。

 しかし、リイカの中にはそう言われても、笑われる、バカにされる、諦めろと言われるに決まっているという思いがあった。すると、フッとテスカは真剣な表情が消え、柔らかい笑顔になった。

「リイカ、夢って言うのは他人から笑われるし、バカにされるし、親とかならそんなの諦めろ現実をみろって言われるかもしれない、でも、でもね」その時、テスカはリイカの額に人差し指を置いた。その指はとても力が込めていた。まるで、リイカに絶対の意志を受け継がせるような、そんな力を感じていた。

「でも、自分だけは、自分の夢を馬鹿にしちゃだめ。自分の夢を叶えるのは自分自身なんだから」

 その言葉にリイカは目を見開いた。と同時に涙が零れてきたので慌ててリイカは涙を拭こうと腕で目をこする。初めてだったのだ。自分の夢をこういう風に言ってくれた人は、バカにせずに、無理だと、諦めろと言われずに応援するようなことを言われたのは。

 その時、頭に暖かい感触を感じた。テスカがリイカの頭に手を置いていたのだ。

「全く、リイカは結構泣くな」そう言ってテスカは、はにかむ。そのはにかみは夜を照らしてくれる光のようであった。

「な、泣いてないよ!!」リイカはそう言って強がる。しかし目から涙が零れそうになっていた。

「いいんだよ、たくさん泣いたって」テスカはそう言って泣いているリイカの髪を撫で続けた。

「うん!! 私、みんなが笑顔になる魔法使いになる!!」

 次の日から、リイカは修行を始めた。雨が降っても、体中が蒸しあがるほど暑い日でも、突風が吹き荒れる中でも、体中が凍り付くほど寒く雪が降っている日でも、リイカは箒を飛ぶ練習をしたり、動物の話が分かるようになるように修行したり、努力を続けた。その横に初めはテスカもいた。自分が町の子どもたちに馬鹿にされ続けた日々、大人たちの不審な目、魔法警察に何をしているか質問されたことだってあった。それでも、リイカはその修行をやり続けた。

 途中でテスカ以外にも友達が増えることもあった。リイカは二人を励みにしながら頑張った。

 しかし、リイカは自分の魔法を得ることになる。

 それは、テスカが死んだ後だった。

「は!! いけない、あたし、何考えていたんだ」リイカは我に返り、再び学校を目指した。



「彼女、リイカ・ポートフォリオについてです」シルヴィーユは、学園長に負けじと鋭い眼光を向ける。すると、学園長は、はぁ、とため息をついた。

「そうじゃないかと思っていたよ」学園長は、ドリルのような髪を、手のようにして操りリイカ・ポートフォリオの名簿をとった。

「彼女は、魔法どころか箒にも乗れないと聞きました。なぜ、彼女を学園に入学させたのでしょうか?」シルヴィーユがそう言うと、学園長は、先ほどまでの狼の目はどこに言ったのか、昔のいい思い出が頭に浮かんだのか、晴天に彩られている雲のように優しい目をしていた。

「まあ、確かに魔法が使えないのは致命的な問題だね」

「では、なぜ」

「遮るんじゃあないよ、シルヴィーユ」

 シルヴィーユの疑問の声を、ピシャリと学園長は叩き落した。

「理由は2つある、まず、これを見ると良い」そう言うと、自分の机から、指揮棒のような形をした魔法の杖を取り出した。そして、一振りすると、リイカの名簿が、文字ごと、空中に浮かび出した。そして、文字が、次々と数えきれないくらい空中へ浮かび出す。

 シルヴィーユが何だと思いその文字を見ていると、「これは!!」と1つ目を見張るものがあった。

「なぜ、彼女がこのような高度な魔法を!!」(私が見た時はなかったはず!!)

「びっくりしたかい? そう、それが私がこの学院に入学を許した1つ目の理由」


リイカは急いで学校に向かっていた。

すると「だれかー!!」と女の人の叫び声がリイカの耳に届いた。

「ひったくりよー!!」とリイカが見ると黒い黒いサングラスをした男が女の人の物とおもわれるバッグを持って走っていくのをリイカは見る。

「よし、待っててね!!」とリイカは地面を強く蹴ってダッシュする。

「まてぇええええええ!!」とリイカが叫ぶのを聞いて男が振り向くと「なんだありゃ? 魔女か? でも、聞いたことがあるな、この辺で箒が飛べない魔女っていうのを、あいつのことか? なら楽勝だな」と男は分かりやすく油断した。

 男が何を言っているかは聞こえなかったがリイカは直感的に「今、私のことを舐めているな?」

と感じて「よーし、じゃあ驚いてもらおうかな」そう言ってリイカは立ち止まって、「はあああああ」と深呼吸をした。

「なんだ? あいつ諦めたか?」完全に油断している男はリイカを見て確信した。

 男が勝利を確信したその時リイカは「バームクーヘン」と言って、地面から力強く一歩を両足で踏み出した。

 すると、少し地面が少しまるで硬さが無くなったかのように凹んだ。そして、そのままリイカは思いっきり地面を踏みぬく。地面はまるでトランポリンのように強い弾力を持ちながら浮かび上がった。もちろん、リイカはそのまま空をひとっとびする。

「あ? あの女どこに行った?」と男が辺りを見回しながら走っていた、その頃リイカは地面から大きな二十階ほどある建物と同じくらいの高さの空にいた。

「いたいた、この硬度からあの男まで……よし!! いける!!」そう言って空に思いっきり足をおろす。すると空の空気が先ほどの地面と同じように凹んだかと思うと、トランポリンのように浮かび上がる。リイカはそれに体を任せて、一気に男めがけて一直線にとんだ。

「え?」ドガシャアアアア!! 男は突然現れたリイカに驚きそのまま派手な音を立ててリイカに地面に押さえられた。

「お前、なんで急に!?」男は、リイカがどこから現れたか問う。

「空から」リイカは上空を指さして言った。

「はぁ!? お前、箒に乗れないんじゃ……」

「箒に乗せなくても空はとべるのよ」リイカは勝ち誇ったような顔をした、

「それが、私、リイカ・ポートフォリオよ」


「バームグーヘン、自分の周りの物質の硬度を操る魔法、この呪文一つだけで柔らかくも堅くもできる、なぜ、空を飛ぶことが出来ない彼女が、このような高度な魔法を?」

「おや、今、あんた硬度と高度をかけたのかい?」

「な、違います!!」学園長の軽口に対して顔をリンゴのように真っ赤にしてシルヴィーユは否定する。そして、シルヴィーユはコホンと咳をすると続けた。

「たしかに、彼女が少しこう、上級魔法を扱えることはわかりました。しかし、空も飛べない、動物と話すこともできない、物を浮かせることも出来ない、このような基礎が無いとこの先もやっていけないのでは!?」

 シルヴィーユの言葉に対し、学園長は、手を組み、そこに顔を置いていた。そして、遠い目をしていた、まるで英雄か何かをみているような。

「2つ目の理由を言おう。だが、これは、彼女に実際会ってみないと分からない」



「本当にありがとうございます」

「いえいえそんな、てまずい!! 遅刻しそう!!」リイカは、女性からお礼を言われていたがすぐに自身の腕時計を見て、学校のレッドクロスアート女学院行きのバスの時間に遅れると思い、それに間に合うために走った。

 お礼を言っていた女性は茫然とリイカを見ていたが、やがて「あんなに慌てて、愉快な魔女さんね」と言うと、「彼女は良い子だよ」と隣で、ベーカ堂の店長が来た。

「彼女は町の色々な事件を解決して生きた、ささいなゴミ掃除でも、ネズミの退治にも、そしてどんなことも自分の修行につながると信じていた。彼女は、リイカちゃんはすごいよ」と言って、ベーカ堂の店長は走り去っていくリイカを見ていた。

「今、時計、何分!? 1時!? ダメだ、この腕時計壊れている!!」もはや壊れた腕時計を当てにせずにバス停に向かって走る走る、、激しいダンスを舞うように道行く人を華麗に避けて、避けて、時々ぶつかりそうになり、その時は「ごめんなさい!!」と言って急いでバス停を目指す、目指す。

「見つけたああああ!!」

 曲がり角に曲がった瞬間、バス停が見えた。と同時にバスも見える。

「ちょおおっとまったああああ!!」猪突猛進!! リイカは一直線に走り続ける。

「おおおおおおおおおおおお!!」バスは、最後の入学生を乗せた所だ。

「おおおおおおおおおおおお!!」バスは、入り口を閉める。

「おおおおおおおおおおおおおお!! まってえええええ!!」その瞬間、バスは、一瞬で姿を消した。

「うわぶ!!」リイカは悲しくも空を切る。

「うあああああああああああ!! どーしよおおおお!! 入学早々、いきなり遅刻だああああああああああああ!!」リイカはその場で喚き叫んだ。その叫ぶ姿は異様であったのか周りの人々が不審な目を向けてきた。

「……いや!!!」リイカは激しく落ち込んだかと思うと、急に、小銭を見つけたように地面にしゃがんだ。

「これを使う時が来たか、バームグーヘン!!」リイカがそう叫ぶと、石で固められている道路が柔らかく、トランポリンのようになった。

「こ・れ・で!!、せえええのおお!!」

 次の瞬間、勢いよく、地面から飛び跳ねた。その勢いは空に届く勢いだった。

「ふう、これで、上空から直接、学校に到達だー!!」リイカは、そのまま空中を蹴りだし、空の上を、スキップをするように、カンガルーのように渡り始めた。

「うっははは!! こっれなっら登校もらっくしょうだ~♪」リイカは、歌を交えながら空を飛び交っていた。しかし、突如、それは、終わる。

 ドゴオオオオオオ!!  突然の轟音がリイカの耳をつんざく。

「っ何!!?」

 リイカは、その場で飛び交うのを止めて、空の上に立った。

 轟音のした方を見ると、爆発が起きていた。そして、その場所は、「スイークタウン!!」



『スイークタウン!! スイークタウンに合成獣(キメラ)の発生!! 発生!!』 

「ニュードリア学園長!! 街にキメラの被害が!!」

 沸いたやかんのように慌てふためくシルヴィーユとは、反対に学園長は揺蕩う(たゆたう)水のように落ち着いている。

「慌てるんじゃあないよ、シルヴィーユ、こっちだって馬鹿じゃない」

「しかし!! こうしている間にも街に被害が……」そう言いかけたが、学園長、ニュードリアに頭を撫でられて声を失った。頬を桃のように紅潮していた。

「大丈夫、落ち着くんだよ、、それでもこのレッドクロスアート魔法女学院2年生の最優等生かい」

 厳しい声をしていたものの、声は優しかった。

 瞬間、何かが勢いよく飛び立った。

「見な、もう一度言うが、あたしらだってそう馬鹿じゃあない」そこには、数名の箒に跨った魔女がいた。

「あれは、バーレスク先生!!」



 

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