第2話 元気な主人公はやっぱり王道

数年後


「失礼します、学園長」1人の少女が、ここ、レッドクロスアート魔法女学院の校長室に足を入れた。

「おや、シルヴィーユかい、なんの用だい?」そう言うと、学園長はシルヴィーユと言う滑らかな黒髪の少女に睨むような、狼のように鋭い眼光を向ける。

「ニュードリア学園長、お話があります」

「ほう、なんだい?」

 すると、シルヴィーユがある生徒名簿を開いた。

「彼女についてお話を伺えますか?」



「お母さん、お父さん、行ってきます」

 そう言って、1人の半袖に肩から腰に掛かったベルトに赤いチェックのスカートを着た、サソリのような白髪の一つ結びの髪型をした少女が位牌に手を合わせる。半袖の胸には、炎のエンブレムが刻まれている、この服はレッドクロスアート魔法女学院の制服だ。そのまま、10秒ほど、目を閉じていた。そして、それが終わると、彼女は、ウサギのようにぴょんと飛び跳ねて、家を飛び出していった。

 家は、草が床中に生えており、屋根は、板葺きであった。その板葺きの屋根はところどころ壊れている個所があり、雨が降っていれば雨が、雪が降っていれば雪が、そして、天気や季節に関わらず小さな虫なら簡単に入ることが出来る程、オンボロであった。

「リイカ、お前はお前らしく生きなさい、魔女になれなくてもお前は、私たちの立派な娘だ」

 死に際の父の遺言であった。

 空を飛んだり、動物と話したり、物を浮かせることは魔女、魔法使いであれば当然のことである。

しかし、リイカは全くそれができなかった。空も飛べず、動物と話すことも出来ず、浮かせることも出来ない、正に魔女としては落第者である。そんなリイカが自分の魔法を持つのなんて無理なことであった。 

この世界では、魔女、魔法使いは年を経るごとにどんどん一族の、自分の自分だけの魔法が目覚めるものであった。しかし、当然リイカはその力には目覚めない。

ある時までは



「はい、お客さん!! どんどん見てってよー!!」少女の街は大変にぎやかな街である。

 道端では、大道芸人なのかピエロの恰好をして玉乗りをしていて、その横では、笛を吹いている男がピエロのパフォーマンスに合わせて曲を奏でている。アイスクリーム、ポテトなどの様々なファストフードを売っている店があった。ピザを優雅に機転させて焼くなどのパフォーマンスをしている人々が沢山いる。いらっしゃい!! と景気のいい声をだすご主人、量り売りで大盤振る舞いのサービスをする色とりどりの食べ物、食べ物以外の店も薬草などの薬屋、魔導書などが売っている本屋、武器屋、彩り豊かな花屋、様々な出店が街中を埋めつくしており、それは一種のパレードが行われているようにも見えた。少女が住む、スイークタウンはこのように賑やかな街であった。

「ううーん♪ 相変わらず飽きないなぁ、この街は」リイカは、そう言いながら、走っている。「あら、リイカちゃん!! うちの新作!! 食べてってよ!!」とリイカを呼び止める声がする。

「本当!? 良いの!?」と言ってリイカはパン屋、ベーカ堂の新作、ソーセージにスクランブルエッグが挟まれたパンを食べた。

「どう!? おいしい!?」パン屋のおばさんは聞く。

「うん!! おいしいよ!! お姉さん!!」

「お姉さんだなんて、もう!! 相変わらす調子いいんだから!!」そう言ってリイカは肩を叩かれる。

「えへへ、あ!! もうこんな時間!! おばさん、ごめんね!! もう行くから!!」

 リイカはそう言うと、走って行った。

「もう、お姉さんじゃなかったの!?」

 時おり、箒に飛んでいる魔女が現れた。

「あの子ね、箒が使えない落ちこぼれの1年生は」

「どうしてこの学校に入学できたのかしら」と陰口をたたかれていた。

 リイカは無視して、走り続けている。



「彼女、リイカ・ポートフォリオについてです」シルヴィーユは、学園長に負けじと鋭い眼光を向ける。すると、学園長は、はぁ、とため息をついた。

「そうじゃないかと思っていたよ」学園長は、ドリルのような髪を、手のようにして操りリイカ・ポートフォリオの名簿をとった。

「彼女は、魔法どころか箒にも乗れないと聞きました。なぜ、彼女を学園に入学させたのでしょうか?」シルヴィーユがそう言うと、学園長は、先ほどまでの狼の目はどこに言ったのか、昔のいい思い出が頭に浮かんだのか、晴天に彩られている雲のように優しい目をしていた。

「まあ、確かに魔法が使えないのは致命的な問題だね」

「では、なぜ」

「遮るんじゃあないよ、シルヴィーユ」

 シルヴィーユの疑問の声を、ピシャリと学園長は叩き落した。

「理由は2つある、まず、これを見ると良い」そう言うと、自分の机から、指揮棒のような形をした魔法の杖を取り出した。そして、一振りすると、リイカの名簿が、文字ごと、空中に浮かび出した。そして、文字が、次々と数えきれないくらい空中へ浮かび出す。

 シルヴィーユが何だと思いその文字を見ていると、「これは!!」と1つ目を見張るものがあった。

「なぜ、彼女がこのような高度な魔法を!!」

「びっくりしたかい? そう、それが私がこの学院に入学を許した1つ目の理由」



「まずい!! 遅刻しそう!!」リイカは、もうすぐレッドクロスアート女学院行きのバスに間に合うために走っていた。

「今、時計、何分!? 1時!? ダメだ、この腕時計壊れている!!」もはや壊れた腕時計を当てにせずにバス停に向かって走る走る、、激しいダンスを舞うように道行く人を華麗に避けて、避けて、時々ぶつかりそうになり、その時は「ごめんなさい!!」と言って急いでバス停を目指す、目指す。

「見つけたああああ!!」

 曲がり角に曲がった瞬間、バス停が見えた。と同時にバスも見える。

「ちょおおっとまったああああ!!」猪突猛進!! リイカは一直線に走り続ける。

「おおおおおおおおおおおお!!」バスは、最後の入学生を乗せた所だ。

「おおおおおおおおおおおお!!」バスは、入り口を閉める。

「おおおおおおおおおおおおおお!! まってえええええ!!」その瞬間、バスは、一瞬で姿を消した。

「うわぶ!!」リイカは悲しくも空を切る。

「うあああああああああああ!! どーしよおおおお!! 入学早々、いきなり遅刻だああああああああああああ!!」リイカはその場で喚き叫んだ。その叫ぶ姿は異様であったのか周りの人々が不審な目を向けてきた。

「……いや!!!」リイカは激しく落ち込んだかと思うと、急に、小銭を見つけたように地面にしゃがんだ。

「これを使う時が来たか、バームグーヘン!!」リイカがそう叫ぶと、石で固められている道路が柔らかく、トランポリンのようになった。

「こ・れ・で!!、せえええのおお!!」

 次の瞬間、勢いよく、地面から飛び跳ねた。その勢いは空に届く勢いだった。

「ふう、これで、上空から直接、学校に到達だー!!」リイカは、そのまま空中を蹴りだし、空の上を、スキップをするように、カンガルーのように渡り始めた。

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