第24話 百合展開!?
ボクたちは、よろよろしながら水晶池から移動した。なんとか拠点へと戻るコトができた。
ラステルは戻るなりへたりと座り込んで、小屋の壁にもたれかかって休息した。
ボクも、まあるくなって「ごめん寝」状態だ。
今日は、流石に
危うく、ゴブリンの餌になりかけた。
ラステルも疲れは隠せない様子だった。
いまは、ぼーっととした顔つきで空を眺めている。
ボクは、あまりに衝撃的な光景を目にして、すこし混乱していた。
ラステルは、なんらかのトラウマで動くコトさえ困難だったハズ。
けれども、ボクを助けたときに見せた彼女の姿は、圧倒的上位者のそれだった。
いったい、彼女の身になにが起きたのだろうか?
考えられる可能性は、ラムダンジュ。
彼女のラムダンジュが発現したのかもしれないと、鑑定スキルで確認してみた。
結果は、……未発現。
その他の能力やスキルにも、大きな変化は見られない。
じゃあ、あの衝撃波や魔力はなんだったのか?
未発現のラムダンジュが、作用したのだろうか?
(……未発現のモノが作用とか、意味不明だよね)
そもそも、ラムダンジュ自体が謎に包まれたモノだ。
能力なのかスキルなのかも、はっきりしない。
ラムダンジュが不適合だった場合の危険性だけは、よく知られている。それなのに、正常に発現した場合についてはほとんど知られていない。
正常に発現した場合について知られているのは、
①正常に発現したラムダンジュを宿す者には、年に数度、天使の言語でいくつかの啓示がもたらされるコト。この啓示は「天使の
②ヴィラ・ドスト王国では、ラムダンジュを宿した「クィンの末裔」たちが「天使の
……くらいだ。
ちなみに、解読された「天使の
この書物の編纂も「クィンの末裔」たちの仕事らしい。
当然だが、『魔導大全』はごく限られた者だけに閲覧が許され、ヴィラ・ドスト王立魔導研究所から持ち出すコトは許されない。
ようするに、ラムダンジュ発現後、適合者の能力やスキルにどのような変化があるのか明らかにされていない。
ただ、「サンドラ事件」の
あの事件で暴走したサンドラ・クィンを倒したのは、サンドラの姉だった。サンドラの姉は適合者だ。
ヴィラ・ドスト王国の騎士たちを斬り伏せたサンドラを止める程だ。適合者であった彼女の姉は、ラムダンジュ発現後、大幅に能力アップしていた可能性がある。
(……でも、発現前になにが起きるかまでは、まったく判っていないんだよね)
こんなカンジで、全然整理できないでいた。
「そろそろ、夕食にしましょう」
ラステルはすこし疲れたような顔をボクに向けてそう言った。そして、小屋の壁に手をついて身体を支えながら立ち上がった。
ボクもちょこんと座り、前足を舐めてこしこしと顔を洗った後、念入りに毛繕いする。
小屋の入り口を土属性魔法で開けたラステルは、ゆっくりとした足取りでなかに入って行く。
そして、なにやらごそごそやっていた。
水を汲むつもりだろう。
小屋のなかから姿を現したラステルは、その手に水を入れる革袋を持っていた。
ぽてぽてとてとてと、ゆっくりした足取りでホーンラビットを冷やしている沢へと向かう。
沢へ着くと彼女は、ゴブリンなどの魔物やその他の獣に見つからないようにかぶせておいた草や木の枝をどけて、水のなかからホーンラビットの肉を持ち上げた。
ニィ。
ボクはそうないてから、ラステルに近づいてホーンラビットの首根っこを
「ふふ。ありがとうございます」
彼女は笑顔でボクにお礼を言ってから、手に持っていた革袋で沢の水を汲んだ。
ボクはホーンラビットの首根っこを
拠点に戻ると、彼女は夕食の準備に取りかかった。
ボクは、ちょこんと座ってその様子を眺めていた。
薪に火をつけてから、ホーンラビットの皮を
この肉に木の枝で串を打ち、塩と香草をふりかけてかるく焙った。
そして、先ほど汲んできた沢の水を
水がぐらぐらしてきたところで、焙ったホーンラビットの肉を放り込む。しばらく煮込んでから、塩と香草を加えて味を調えた。
どうやら今夜は、塩と香草で味付けをしたホーンラビットのスープのようだ。
スープが出来上がるころには、辺りはすっかり暗くなっていた。
見上げれば、宝石を散りばめたような星空が広がっている。
「まだ熱いので、冷めるまで待ってくださいね」
ラステルはそう言って、
スープが人肌くらいに冷めてから、ちろちろと舌で掬うようにスープを飲む。
(くうぅ、スープが身体に
ラステルはスープをひとくち
「簡単な味付けでしたけど、ホーンラビットってこんなに美味しんですね!」
スープを飲み終わると肉もいいカンジに冷えて、ちょうど食べごろな温かさになっていた。
はぐはぐと、ホーンラビットの肉を食べる。
オーロフェザントとはまた違う、しっかりとした味わい。
舌に残る余韻が素晴らしい。
ラステルは炎を見つめながら、時折、スープを啜っていた。
(ん?)
ボクの後の方から、なにかかが近づいて来るのが分かった。
魔物ではない。
ボクたちがよく知っているヒトのようだ。
隠密スキルを使用している。
「こんなトコにいたー」
声のする方へ振り向いてみると、そこにはスピカが立っていた。
さすがに、あの
着崩しているが、彼女にしては珍しい冒険者スタイルだ。
手には、野草のようなモノを持っていた。
「スピカ! あなた、どうしてここへ!?」
まさかのスピカ来訪に、ラステルも目をまあるくして驚いている。
スピカはラステルの隣に座ると、手に持っていた野草をナイフでさくさくと切りながら
「この野草はね。疲労回復にいいのよ」
野草がひと煮立ちするのを待つと、彼女は、しんなりとした野草をラステルのスープ皿に入れた。
「えっと……、ホーンラビットのスープですけど、スピカも食べますか?」
「ありがと。でも、それはあなたたちで食べて。あたしは干し肉でいいよ」
そう言うとスピカは、懐から干し肉を出して
「ギルドの討伐依頼を受けたのですか?」
「ん? ちがうよ」
ラステルは、首をこてりと傾けてスピカを見た。
じゃあ、どうして彼女がここに来たのか分らないといった様子だ。
スピカは干し肉を
「え……、えっとね。その……、なんていうか……」
ラステルの視線に耐えられなくなったのか、あるいは「よく考えてみるとどう説明すればいいのか」といったカンジで、ごにょごにょとするスピカ。
(……なんか、ちょっと顔赤くない?)
火にあたったからなのか、光の加減なのか、べつの理由からなのか彼女の顔が紅に染まっているように見える。
ラステルと出会ってからのスピカは、それまでボクが見たコトもないような表情を見せるようになった。
他人に対して、こういうカンジに好意の感情を示す彼女を、ボクはあまり見たことがない。
「えっと、ラステルのことを思うと凄く胸がドキドキして……夜も眠れないの。こんな気持ち初めて……」
両手を胸に当てながら、真っ赤な顔ですこし目をうるうるさせるスピカさん。
衝撃の告白!?
「はえっ!?」
なっ!?
まさかの
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