第18話 第1日目終了
無事、ラステルはゴブリン討伐を達成した。
魔石を摘出した後、土属性魔法でゴブリンの死体を埋設処理をした。
そしてその足で、荷物を担ぎホーンラビットの討伐ポイントへと向かう。
ゴブリン討伐の後に見せた彼女の精神面の不安定さはすこし気になるケド、いまのところ大きな問題はないと思う。
(結構、死体の埋設処理を忘れるんだよね)
魔物の死体を放置すると、他の魔物を引き寄せるだけでなく、腐敗した肉を食べたネズミ等を介して伝染病の原因になるコトがある。
このため法令で、魔物を討伐した場合、魔石・素材等を回収した後、残存部位は原則として埋設処理をするコトになっている。
違反した場合、冒険者活動の停止または登録の取消処分。
ただし、討伐後3日以内にギルドへ報告した場合や危難を避けるため、やむを得ず討伐した場所から離れた場合などは、この限りでない。
ロックオーガの時は、討伐した翌日にスピカがギルド「
討伐した魔物をそのまま放置しても、バレないコトはある。けれども他の冒険者に目撃されたり、ギルドに提出した報告書(討伐場所、埋設処理をした場所、使用した武器も報告する)から割り出されたりして処分される例も多い。
とくに見習い冒険者は、最も注意しなければならないルールだ。
討伐達成に浮かれて、つい、忘れてしまうらしい。
ギルド9625の討伐課題でこれを忘れると、その場で審査者に失格を言い渡される。
今回は、ボクが審査しているので即失格にはならない。
ボクは、タダのネコというコトになっているから口頭で失格宣告はしない。
ただし、残りの討伐課題を達成しても不採用だ。
もっとも、ボクは初歩的なミスを犯すような見習い冒険者の審査をしたコトはない。
それはボクが審査する見習い冒険者は、エイトスが厳選を重ねた有望株だからだろう。その基準は、よく分からないケド。
つまりラステルは、採用が決まればギルド9625の幹部候補者だ。
地図で現在地と次の討伐ポイントを確認しながら、慎重に森のなかを進むラステル。
ホーンラビットが出現するというポイントで、茂みのなかに
今日は、ここで終了だね。
ボクとラステルは、夜営するのにオススメという場所へ向かう。
マスター・ディエゴによれば、すぐ近くに綺麗な沢があって、水に困るコトはない場所なのだそうだ。
目的地に到着すると、ラステルは荷物を置き、ゴブリンの解体にも使用していた
土属性魔法を使って、風よけの壁を作っているようだ。
(ボクは、夕飯を調達しに行こう)
作業するラステルに背を向け、とてとて歩いて獲物を探した。
(鳥っ、鳥いないかな……)
きょろきょろ探していると、藪の陰にかさこそと動くモノが見えた。
(オーロフェザントだ!)
ボクは気付かれないように、足取りをそろそろしたモノに変えた。
こんなとき、周りに生える雑草や落ち葉、枯れ枝が煩わしい。
歩くたび、カサカサ、ぱきぱきと音がするからだ。
たとえ隠密スキルを使っていても、この音で気配を悟られ逃げられてしまう。
実際、それまで藪のなかを悠々と歩いていたオーロフェザントは、ぴたりと立ち止まって首を右に左に動かしたり傾げるようにしている。
やがて、ボクに背を向けるようにして、てけてけと足早に歩き出した。
どうやら、感づかれたようだ。
(でも、ここからなら、なんとか……。絶対に逃がすもんか!)
ボクは身体強化を使って、一気に駆け出した。
慌てて飛び立とうとするオーロフェザント。
それに飛びかかるボク。
ちょうど背中に乗っかるようにして、オーロフェザントに襲いかかった。
首根っこ辺りに噛みついて、羽ばたかせないように前足で左右の翼にネコ爪を立てる。
オーロフェザントは羽毛を辺りに撒き散らし、翼をばたばたさせて抵抗しようとした。
しかし、空中ならともかく地上ならこちらのモノ。
しばらく攻防が続いた後、仕留めるコトができた。
力尽き息絶えたオーロフェザントの首根っこを咥えて、ボクは野営の準備をするラステルのもとへと戻る。
「あら、シャノワさん。それは?」
どうやら拠点の設営は終わったようだ。
ボクが戻ると、ラステルは火を起こして薪をくべていた。
つぎにボクの目に映ったのは、簡易小屋というには上等すぎるモノ。
土属性魔法で建てた四囲の壁。
屋根は、何本もの木の枝を渡して、その上にどこかで刈り取ってきたイネ科の植物を束ねて葺いている。
オマケに、屋根が風で飛んだりしないように工夫されていた。
(よく短時間で、ここまでモノ建てたね)
あまりの出来栄えに、ボクはぽとりと咥えていたオーロフェザントを落としてしまった。
ちょこんと座って、その小さな小さな掘っ立て小屋を眺めていた。
(すごいね)
無意識に、しっぽを左右にふりふりしてしまう。
「ふふ。どうですか? 昔、本で読んだだけですけど、上手くできました」
隣に立ってボクに視線を落としたラステルが、とてもイイ顔をしている。
まるで、ひと仕事終えた後の漢の顔ような……。
(ええ、とても素敵です❤ ラステルさん)
最低限、雨風を凌げるモノなら十分だと考えていた。
けれども、今回は快適に過ごすコトができそうだ。
「これ、オーロフェザントですよね!」
ラステルは、ボクの前に落ちているオーロフェザントの両足を片手で握って持ち上げ、まじまじと見詰めている。
(ふふふ。すごいでしょ? 褒めて。褒めて)
「……ふふ、今夜はごちそうですね。シャノワさん、ありがとうございます」
ボクが得意げな顔でラステルを見上げると、彼女はにこりと微笑んでボクの頭をなでなでしてくれた。
「早速、下処理をしてしまいましょう」
大型の鳥の下処理は……、以下略。
ラステルは思ったより手際よく下処理を終えて、オーロフェザントを焼き始めた。
橙色の炎が、ときどきぱちぱちと爆ぜながら、鳥の肉を焙っていく。
鳥の油が表皮を流れ、炎のなかに滴り落ちる。
じゅうと音がして、焼けた肉の香りがボクの鼻腔をくすぐった。
しばらくして、彼女は火に焙られた部分の肉をナイフで
「まだ熱いですよ。冷めてから食べてくださいね」
(くぅ~。いい匂いです)
焼けた鳥肉の香りを十分に堪能したボクは、よく冷めるのを待って、肉をはむはむと食べ始めた。
(お、おおぅ。この野趣あふれる独特の風味と歯ごたえ。雷鳥とは、また違った上品な味がするよ)
ボクはオーロフェザントの肉を
(それにしても、このコ、ヤケに手際がいいよね)
ゴブリン討伐に始まり、拠点の設営、鳥の解体まで。
見習い冒険者で、ここまでできるヒトをボクは見たコトがない。
(元貴族令嬢というのは、ボクの見当違いだったのかな?)
そんな疑念が生じるほどだ。
ここまでの彼女の行動は、とても元貴族令嬢のなせる業とは思えなかった。
いいかえれば、かなり見込みのある見習い冒険者ではある。
しかし元貴族じゃないとすると、彼女が宿す「ラムダンジュ」の存在を説明できない。
仮に教会の一部の人間が暴走して平民に施したのだとしても、そんなニンゲンを野放しにするハズもない。
あの
アルメア王国に駐在するノウム教会のハウベルザック枢機卿。
戒律やら先例にうるさい彼が、「ラムダンジュ」を宿す平民を放置するコトなど絶対にない。
ボクは、ラステルを元貴族令嬢だと考えている。
スピカとの立ち合いを見ても、十中八九間違いないと思う。
そして、ラステルという名前、貴族令嬢、ラムダンジュ。
これらのキーワードから、ボクは彼女が「ある人物」であると推察する。
未だ確証はないケド。
(……むむっ? 仮にそうだとして、ラステルを採用したら、あのヒトに報告して説得しなきゃダメだよね。ど、どうするんだろう? もしかして、ボクがするの!?)
すこし憂鬱になる。
あの
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