第35話 越智合闇影戦⑦
越智合スポーツセンターの北側には、体育館、柔道場などが入った本館が構える。その裏、壊獣と術師、そして得体の知れない敵の気配がある。
「香澄さん――‼」
目的も能力も分からないが、香澄さんが危険だということだけはわかる。このままじゃマズい。
さっき術力を一気に使った影響で、身体全体の術力の巡りがいつもよりもいい。
気を抜くとまたオーバーヒートを起こしそうな、そんなギリギリの感覚だが、気を抜かなければ何とか意識を保つことは出来そうだ。
炎を噴射して、俺は夜空へと跳び上がる。
眼下には、大量の壊獣。そしてグラウンドの中央にはオブジェクト。
身体の内側、俺の本能か。戦いたがっているのが分かる。
「それよりも今は香澄さんだ」
顔を北側に向ける。
すると、向こう側からも誰かが跳んでくるのが分かった。同時に、それが香澄さんでないことも。
「敵――!」
攻撃を構えるが、それが放たれることはなかった。
「一志君⁉」
しかし、その気配は明らかにさっきの金髪の人と同じ。術師とも壊獣とも違う、去れども人間でもない。
その一瞬の迷いで、俺は後手に回る。
「闇顎」
「くッ‼」
ドガァアアアアン‼
炎の壁で身を守りつつ、俺は距離を取る。
「何がどうなってるんだ」
瞬間、一度に三匹の壊獣が襲い掛かってくる。足に術力を集め、炎を纏って、そのまま三匹まとめて頭を蹴り潰す。
落ちたところが悪かった。完全に周囲を壊獣に囲まれる。
「やぁ、灯也君」
「無事で、何よりだよ」
「あぁ。お陰様でね」
対面して、改めて感じる。
彼は、俺の知る松神一志であるということ。そして同時に、彼は人間ではないということ。そして恐らく、敵であるということ。
「計画は順調だ。申し訳ないけど、君には死んでもらうよ」
「そういうわけにはいかないんだよね。これが」
さっきの金髪の人と同じような術を使っていた。これが、今回の新人戦で時々出てきた謎の攻撃の正体。
「それはそうだろうけど。こっちにも事情があるんだよね」
「事情?」
彼の周辺には壊獣がいない。いや、寄り付かない。となると、この壊獣も彼のコントロール下にあると考えていいんだろうか。
「君を殺すためにね」
「――!」
俺を殺す。
以前、神城公園で愛夢さんの腕を奪ったヤツもそんなことを言っていた。そして、そいつも似たような技を使っていた。
「最初から、そのつもりで?」
「あぁ」
「――……」
神城公園の一件と、今回の新人戦がつながっているとして。そして、その鍵になるのが俺だとすれば。
「じゃあ、こうやって新人戦をめちゃくちゃにしたのは?」
「混乱に乗じるためだね」
「壊獣を使って、関係ない人を襲わせたのは?」
「カモフラージュのためかな」
「……最初に俺に声をかけてくれたのは?」
「――? だから、殺す機会をうかがうためだよ」
「…………そっか」
右足を引く。膝を曲げて腰を落とす。そして踏み込む。
ドンッ!
地面を蹴る重い音。風を切り、一瞬で彼との間合いを詰める。そして、全術力を込めて、彼を殴る。
手応えが拳に伝わって痛かった。
地面を抉り、吹き飛んだ彼は、そのまま北にある建物に突っ込んだ。
俺もその勢いのまま建物へと向かう。
入口は吹き飛び、瓦礫になっていた。
「どこだ」
音がしない。気配もしない。
いや、違う。香澄さん達の気配もしなくなってる。これは、俺の察知能力が鈍ってるんだ。横目でガラスに映った自分の姿を見る。やはり、髪の色が大分白くなっている。全身の術力の巡りも、少しずつ鈍くなっている。
相手は強敵だ。恐らく、さっきの金髪よりも強い。金髪を倒すためにも術力を大分使った。それでギリギリ。となれば、このままじゃ勝てない。
勝てない、という事実を受け入れたうえで、俺は強く思った。
「絶対に勝つ」
身体の内から、火が猛る音がした。
「―――――ッ‼」
背後から伸びた黒い刃を、間一髪でかわす。頬を掠め、血が宙を舞う。
体勢を整えて辺りを見回す。本館のエントランスは開けている。一階に人の気配はしない。なら、二階か?
俺は思い切って跳ぶ。吹き抜けを抜けて、二階へとたどり着く。
「……」
段々と身体の熱が引いていく感覚がある。焦る気持ちだけが募っていく。
「そこだ!」
一瞬の人の気配。そこへ火球を放つ。大きな音を立てて、体育館観客席への扉が吹き飛ぶ。そこには誰もいない。
「外した――」
殺気。三本の黒い刃。一本二本はギリギリかわせたが、三本目は右太ももを浅く切られる。間髪入れず顔面に蹴りを受ける。
ドォンッ!
「げほっ、げほっ。くそッ……」
最後の蹴りはギリギリガードが間に合ったが、それでも吹き飛ばされた。どちらかと言えば、吹っ飛んで壁に突っ込んだ方が痛い。
「やっぱり、予想通りだ」
闇の中から姿を現した彼は、無傷。
「灯也君、君は自分の中の『力』の正体が何なのか、知らないだろう?」
悠然と、こちらへ歩み寄って来る。
「何故、君が術を行使しすぎると意識を失うのか。そもそも、何故君がそんな力を持っているのか」
痛みを訴える身体に鞭をうち、瓦礫から起き上がる。
「疑問に思ったことはないかい? 自分が何者なのか、とね」
「何が言いたいんだ」
「なんで俺達が君を狙うのか、その理由を考えたことは?」
「……」
俺「達」――? やはり、神城の一件と今回は繋がってる……?
「神宮灯也。君の中には、とある壊獣が入っている」
不意をつかれないように。全身を炎で包むイメージ。身体が熱くなり、再び髪の毛が紅くなっていく。力の巡りが、いつもよりも早い。
「君が力を使うとそうやって髪の毛が紅くなる。それは、君が壊獣と一体になっていってる証拠だ」
「壊獣と一体に?」
わずかな間。戸惑いで出来た隙を彼は逃さなかった。
「ぐっ‼」
一気に間合いを詰められ、壁に叩きつけられる。そして、首にあの黒い刃を突きつけられた。彼の顔がすぐそこで嗤っている。
「教えてやるよ。お前の正体を」
「なん、だと……?」
「お前の中にいるのは、SSランクの壊獣『炎壊』。そしてお前は、その壊獣と融合しつつある危険存在。特SSランクの壊獣だ」
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