第30話 越智合闇影戦③
何故か壊獣に追われていた術師二人を助けるために立ち向かった俺と香澄さん、一志君の三人。しかし、壊獣はあっさり倒れるし、どこからともなく攻撃されるし、一志君と追われていた術師の二人が行方不明だし、敵の位置をあぶりだすために住宅街をぶっ壊しても敵はいないし。
そして派手にやりすぎたせいで他の参加者に追われる羽目になった。
「迷惑かけてごめん、香澄さん」
「いえ……。恐らくあのまま攻撃をよけ続けるのでは無理がありました~。結果こうなったとしても、あの選択はある程度仕方ないことだと思います~」
「ありがとう。で、それはいいんだけどさ」
「はい?」
「なんでクローゼットに二人して身を潜めているのかな」
追手を撒くため、俺と香澄さんは、壊れていない民家の中に逃げ込んだ。加えて、その中にあるウォークインクローゼットの中に二人で入って身を潜めているのだが。
如何せん、距離が近い。近いというか、もうほぼ密着状態だ。
「すみません、式神を操る時、私は動かない方が精確にコントロール出来るので……」
「いや。だとしても俺も一緒にここにいる必要あるかな」
「もちろん……。灯也さんは私の手足です~」
「手足?」
「式神のコントロールから、別の術式に切り替えるのには時間も手間も余分な術力もかかります……。もし敵が攻撃してきたら、その一瞬の隙で私は死んでしまいます~。なので、是非とも灯也さんに運んでいただきたく~。なので、こうしてくっついている方がずっと安全というわけです~」
「うーん」
分かるような、分からないような。
「我慢してください……。私も、その、恥ずかしいのは同じなので~」
「じゃあせめて、後ろ向いてもいい?」
「そうですね……。その方がお互いのためになりそうです~」
そして、静寂の中で二人きりなのが非常に気まずいため、俺は話題を探す。
「一志君、一体どこに行っちゃったんだろう」
「そうですね……。あの、灯也さん~」
「ん?」
「そのことで、少し気になることがあるんですけど」
「灯也さんは一志さんの壊獣について何も知らないんですよね?」
「そうだね。新人戦で初めて会ったから」
「そうですか……。では、松神家については、何かご存じですか~?」
「松神家……。いや、聞いたことないよ」
松神一志、と名乗っていた。しかし、俺は松神家を知らない。聞いたこともない。単に俺は他の家について知らないから、松神家も俺が知らないだけだと思うが。
「まぁでも、俺は他の家については基本各地域の代表しか知らないし。知らないだけかなって思ったんだけど」
「でも、彼の使う術式は神山式でしたよね? つまり……、村山地方の家ってことですよね~?」
「そうだね。百穿抗、使ってたし」
「……」
「香澄さん? どうしたの?」
「あ、いえ……。なんでもありません~」
「そう? ならいいけど……」
「はい……。って、まずい、エリアが迫ってます~!」
クローゼットから出て、窓から外を見る。エリアが迫って来るのが見えた。
「ここでゆっくりしてる暇はなさそうだね」
「問題はどこへ行くべきか……。正直、戦況が全く読めません~。なので、この状態では下手に動けません~。加えて、ファーストラウンドは継続されているようですし~」
「この空幻さんの術式は、円の中心にあるオブジェクトを破壊すれば解除される仕組みになってるはず。それか、円内が四人になるか。のどっちか」
「と、すると……。真っ先に向かうべきは越智合のグラウンドですかね~。正直、この状況は些か私達だけの手に余ります~」
「うん」
「ただ、やはり戦況が読めませんので……。会敵することは避けられないかと~。加えて、どれだけの参加者が異常事態に気づいているかわかりません~。説得しても仕方ない可能性もあります~。出会う敵は基本的に倒さなくてはならないかもしれませんが~」
「大丈夫。香澄さんはこれまで通り索敵とサポートをお願い」
「すみません……。精いっぱいやらせていただきます~」
「よし。そうと決まれば早速行こう!」
今俺達がいるのは、越智合の北東辺りの住宅街。第二円が収縮始めているから、三十分以内に越智合から〇・五キロメートル地点へ移動しなくてはならない。
「第三円のサイズ的に、越智合に一気に近づきます……。待ち伏せをしている術師がいるかもしれません~。加えて、そう言うやつは前半の戦いを勝ち抜いている強者でしょう~。警戒を緩めず行きましょ~」
「了解! 一志君を見つけて、ついでに敵も倒す!」
住宅街を駆け抜け、一気に広い道路に出る。
「灯也さん!」
「!」
ドガァアアンッ‼
道路のコンクリートがめくり上がる。そして、鋭い棘が一本、俺を貫かんと地中から繰り出される。
間一髪、俺は足元からのその攻撃をかわす。
「ちっ」
姿勢を立て直し、顔を上げる。
そこにいたのは、術師装束に身を包み、代命受符を付けた術師。だが、その術師装束が似合わない強面に金髪の短髪。顔にいくつかピアスを開けている。
悪人面のあまり一瞬敵かと思ったが、この人は違う。
「通常参加者――!」
香澄さんはああ言ってたけど、出来れば出会いたくなかったが。
「白髪のガキと、チビガキかよ」
「なんでしょう……。めっちゃ口が悪いですね~」
「いや本当に。俺今まであんな感じの人と会ったことないからなぁ」
「オラテメェら。代命受符置いてけ」
「そうはいかない事情がこっちもあるんでね」
「ちっ」
「ちなみにお兄さん。壊獣、見てない?」
「あ? 壊獣?」
「はい……。どうやらこのファーストラウンドの空間に、壊獣がいるようで~」
「んなワケねーだろ。俺は去年も出たが、去年は最後まで普通に開催された。壊獣なんて出てねぇ。適当なデタラメ抜かしてんじゃねぇぞ!」
手を動かしたのを見逃さず、俺はまた横に転げる。やはり案の定、地中から棘が出現した。あのままあそこに立っていたら刺し貫かれていた。
「やっぱりこうなるかぁ……」
「仕方ありません。受符の分は削り取ってしまいましょう!」
手を合わせて、印を組む。
「壊弾指閃!」
指先から光弾を発射する。
壊弾指閃は、壊波掌衝よりもずっと早く敵の元にたどり着く。そのスピードは文字通り弾丸。まぁ、壊波掌衝がビームになること自体がおかしいのではあるが。なるものはしょうがない。
「ちっ」
男はその速度に不意を突かれ、肩にダメージを負う。
「時間切れか。クソ」
はぁ、とため息をつくと、男は真正面から突っ込んできた。
「‼」
「時の天秤の下、
「あれは……。神上家の術式です~!」
そして、そのまま殴り掛かって来る。反射的に両腕でガードする。
「バァカ」
ザシュッ‼
鮮血が飛び、術師装束を紅く染める。両腕が、内から痺れるように痛い。
「⁉」
ぽたぽたと血が滴る。両腕の感覚が段々となくなっていく。
男の拳から、鋭い棘がいくつも生え、俺の両腕を乱雑に貫いていた。その棘は深く食い込み、易々と抜けそうにはない。
何がどうなっている。何故拳から。いや、今はそれより、このダメージはマズい。
「ぐぅッ‼」
身体をボォァッ‼ と黒い炎が包む。
男は俺を倒したことを確信し、燃え上がる俺から距離を取る。
「しまった――!」
「灯也さん!」
最初のゴリライダーとの一戦で食らったダメージ。そして、今の棘拳の一撃。
代命受符のHPが尽きた。
――ゲームーオーバーだ。
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