闇影鳴動・灰燼燃灯
第28話 越智合闇影戦①
川から、追手を振り払いつつ北上。俺と一志君、香澄さんの三人は、第二円と第三円の縁にある小学校の中に隠れていた。
「ここまで目立った邪魔は入らなかったね」
「あぁ。おかげで、ここでゆっくりできる時間が増えた」
「しかし、あちこちで戦闘音がします……。人数も減って行ってますし、警戒は解けませんね~」
「どのタイミングで外に出るか、が大事になるな……」
「立往生を食らって円に巻き込まれては仕方ありません……。早めに次の行動に移ったほうがいいかもしれませんね~」
この空間は、空幻さんの術式で作られている特殊空間。紫陽さんが色々説明してくれた。術式の名前とか原理とか細かいことは忘れたが、要するに空間が反転している、ということらしい。裏世界、とかそういう意味で。
そしてそれを、越智合のグラウンドの真ん中にあるオブジェクトを起点に一定距離で同心円状に広げ、その円の外は空間の外になっているらしい。
つまり、円の外へ出た瞬間に身体が引きちぎられる、とか。
しかし、そこへ更に転送術式を組み込むことで、円の外へ出た場合、元の世界にあるオブジェクトのところへ強制的に引き戻されるということだ。
「でも……。なんか妙ですね~」
すると、香澄さんが首を傾げる。
「どうしたの?」
「第一円が消え、人も結構減りました……。しかし、それにしても戦闘音がしなさすぎる気がするんですよね~」
「そんなことないだろ。越智合の東側で大きな戦闘が起きたんじゃないのか?」
「もちろんその可能性も大いにありますが……。第一円の収縮で既に半分近い人がいなくなっています~。私達が出会ったのは、ゴリライダーの二人と、川にいた四人、そして、私達を追って来ていた人達……、こっちは何人だったのかはわかりませんが~。少なくとも十人規模じゃないはずです~」
「……なにが言いたい?」
「いくら何でも、減りすぎじゃないか……。と、いうことです~」
「そうかな。俺はそんなに違和感ないけど」
「ほら、灯也君もこう言ってるじゃないか。君の考えすぎなんじゃないか?」
「まぁ……。確かに私はそういうきらいがあるので、否定はできませんが~」
香澄さんはどうにも釈然としない表情をしている。
「香澄さん。考えられる可能性って何かある?」
「灯也君?」
「いや、可能性を頭に入れておくに越したことはないでしょ?」
「そうですね……。まぁ、シンプルにめっちゃ強いやつがいるっていう可能性とか~。あとは、乱戦があちこちで起きている、とか~」
「でも、そんなに強い人がいるなら、もうとっくに自力で一級まで上り詰めてるんじゃ?」
「そうでもないですよ……。悲しいかな、この戦いの結果が、四家のいがみ合いに関係してくるので~」
「そうなの?」
「はい……。聞いた話ですが、その昔、会場に一級の術師がいた頃はお互いに他家の術師に不利益な術を使ったり、酷い時は闇討ちが起こったりしたらしいですし~」
「そこまで……」
「私達出場術師は、基本自分の為に戦います……。身も蓋もないことを言えば、ここで協力して生き残っても、後々戦います~。なら、なるべく自分の消耗は抑え、かつ確実に勝ち残れる方法を取るでしょう~?」
「まぁ、そうだね」
「だから、裏切りとかは基本起きません……。最後の四名になった瞬間に終了するのであれば、むしろギリギリまで戦って、味方も敵も分析した方が賢いので~」
「ほんとに身も蓋もないね」
「すみません……。まぁ、でも、だからこそ私達はお互いを信頼できる、と私は思います~。ところが、戦いの外にいる一級たちにはそれは関係ありません~。だからこそ、イレギュラーをぶち込む方が――」
そこまで言って、香澄さんが何かに気が付いたように口を止めた。
「香澄さん?」
「いえ……。あの、お二人とも~。突然申し訳ありませんが、戦闘音がするところまで近づきませんか~?」
「え?」
「は⁉ 何を言ってるんだ君は」
「もし、私の予想が正しければ……。このゲームはそもそも、成立していない可能性があります~」
「ゲームが成立してない?」
「何を言い出すかと思えば、そんなバカな!」
「違和感があったんです……。確かに、この戦いの結果が四家のいがみ合いに繋がると言いました~。でもそれは、新人戦そのものであって、ファーストラウンドのことじゃないんです~。初めにも言いましたが、このファーストラウンドで大量に敵を倒すことに意味はありません~。ゴリライダーみたいなバカならともかく、他の家が優勝を狙って送り込んだ刺客、強敵なら、ちゃんとそのことを知っているはずです~」
「つまり、こんなに大暴れするはずがない、ってこと?」
「はい……。そこだけがずっと引っかかってました~」
「じゃあ、君が言ったもう一つの可能性、乱戦が起きてるんじゃないのか? 実際、仲間とは言えこのラウンドが終われば敵同士。途中で見捨てて逃げる可能性もあるだろう」
「そうですね……。でも普通、乱戦になったとしてもその状態は長くは続きません~。乱戦というのは往々にして、戦いに参加している人間全員に同じくらいの負担がかかるものです~。だからこそ、一度手負いになると一気に均衡が崩れます~。なので、見捨てるとすれば、一人落ちたら、もしくは手負いになった時点で、なんですよ~」
「回りくどいな。結局君は何が言いたいんだ?」
「確実なことはわかりませんが……。もしかしたら、この戦いに関係のない外部の存在が、戦いの邪魔をしている可能性があります~。例えば、試合に関係ない強い術師を乱入させて、片っ端から術師を狩ってる、とか~」
「――‼」
「それを確かめるべく……。戦闘音のするところを見に行く必要があるかと~」
「理屈はわかるが、リスキー過ぎる。死にに行くようなものだ。第一、君の予測が何もかも外れていたらどう責任を取る気だ?」
「はい……。それはもうどうしようもありません~。なので、判断を仰ごうかと、思ったわけです~。私は結局戦闘において役に立ちませんので~」
「はぁ。だ、そうだ。どうする、灯也君」
「……」
香澄さんの言うことには筋が通っているような気がする。確かに、減り方は不自然だし、もし香澄さんの言う通りなら、止めなくちゃいけない。しかし、一志君の言う通り、リスキーだし、間違っていたら骨折り損どころではない。
「うーん。分からない。どっちの言い分も間違ってないと思うし、難しい話だよ。だから、じゃんけんしよう」
「「え?」」
「じゃんけん」
俺は拳を握って、開いて、ピースして、を繰り返す。
「正直、香澄さんの言うことは全て推測で、確たる証拠はない。でも、逆に言えばだからこそ確かめる必要があると思う。リスクを負ってでも、自分たちの戦う相手はちゃんと見定めないと」
この戦いをめちゃくちゃにされて、うやむやになった挙句、ポイントがもらえないことになったら困る。でも、本当にめちゃくちゃにされたとして、それの対策をいち早く行っていれば、結局うやむやになったとしても、その活躍でポイントを貰えるかもしれない。多分、香澄さんの狙いもそこにあるんだろう。
「でも、ハイリスクなのもその通りだ。負わなくちゃいけないリスクかもしれないけど、負いたいリスクじゃない。行かずに済んで、結果何もなかった、というのが一番望んだ展開だ。だから、じゃんけん。公平に決めよう」
香澄さんと一志君はお互い顔を見合わせた。
「さぁ、じゃあそうと決まればレッツじゃんけん!」
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