第26話 幕間:闇影に立つ③
「さて。君たちはどうする?」
闇を操る男が生み出した黒い木人は、激しく身体を振り乱しながら、こちらへ迫る。
「怖っ! きもっ⁉」
愛夢さんはドン引きしつつも、右腕を伸ばし、木人を捕らえると、そのまま大きく振り上げた。
「私の! 木人は! もっと可愛いんだよ‼」
そして、大声で叫びながらもう一方の木人へぶつけ、対消滅させた。
「ふん! 気持ち悪いパチモン作りやがって。クリエイターへの冒涜だな」
「なるほどなるほど。なら、これはどうだ?」
パチンと指を鳴らす。すると、男の周りに、闇の刃が並んだ。
「あれは、私の
「行け」
無数の刃が猛烈な勢いで私に襲い掛かる。
「
氷の礫を刃にぶつけ、破壊する。
「うーん。やっぱり吸収したてだと出力が安定しないな」
男は頭をかいていた。
「くっそ~。ふざけてるな、アイツ」
「闇壊の真の力は、その闇で飲み込んだ術式をそのままコピーすること……!」
そうなると、下手にアイツに技を撃ち込めない。どれくらいの許容量があるのか、もしくは上限がないのか。大技を撃ち込んだ結果、吸収され、こちらは術力を消費するのみになることだけは避けなくては――。
「よし、雪南ちゃん。埒が明かないから、ここはイチかバチか、術式結合だよ!」
「いや、でも。相手の許容量が分からないのに、下手に大技は……」
「何言ってんの。だからこそでしょ。相手の正確な力が分からないときに出し惜しみをしてても仕方ないんだよ。逃げられるだけの余力を残して、全力! これが一番いい!」
どうする。愛夢さんの言うことはわかる。でも――。
「闇顎」
男の声を聞いて、ハッと顔を上げる。
「
無数の闇の顎が、ドリルのように螺旋を描く。空気を削り、地面を抉る。
「くぅっ!」
間一髪、かわす。しかし、術衣が少しかすった。それだけで、獣に噛まれたように破れてしまう。
「おしい」
確かに、このままじゃ埒が明かない。防戦一方で、削られるだけだ。なら――。
「わかりました。愛夢さん、やりましょう!」
「よしきた」
そして私は、印を組み始める。一か月の修行で、以前よりは発動が早くなったが、それでもまだ即時発動できるほどには至っていない。
「
その間、愛夢さんが時間稼ぎをしてくれる。
木で編まれた龍。男めがけて喰らいつく。
「闇顎」
掌を木の龍に向け、人差し指と中指を立てて向ける。
「囂囂螺巌喰」
さっきも見せた螺旋の闇の顎。真正面から龍にぶつかる。しかし。
「――⁉」
螺旋に貫かれるかと思いきや、龍は螺旋に喰らいつき、そして離さない。
木編龍は、細く丈夫な木を細かく細かく編んで作られる。愛夢さんは、小さなサイズから少しずつ大きくして、今の人を丸のみできるほどの大きさまで編めるようになった。その強度は、愛夢さんの術式では最高。
「全部食べちゃえ! 龍ちゃん!」
バギン!
男の術を壊した。そしてそのまま猛進していく。
「くっ」
龍が男へ突っ込む。男は跳んでかわした。
「闇顎」
掌を龍にかざし、ぎゅっと掌を握った。
「
すると、龍よりもはるかに大きな顎が、丸ごと喰らわんと襲い掛かる。
しかし。
「!」
龍の強度のあまり、噛むと同時に闇の顎が砕けて散ってしまう。
「ちっ」
そのまま、龍は男へ向かって猛進する。
「闇濁」
男と龍の間に、巨大な闇が出現する。それは、さっき木人を飲み込んだものと同じ。
「
そして、龍はその闇の飲み込まれて行ってしまう。やがてその姿は全て闇の中へと消えていき、男はにやりと笑った。
「危ない危ない。いや、いい技だったけれどね。……頂いたよ」
もう一度、右の掌を地面につける。
「闇剥」
闇が細い線を成し、やがて編まれ、龍の形を取っていく。
「滔滔縁貪狩」
ゆっくり、ゆっくりと形を成していく。
しかし、愛夢さんは焦るでも、防御姿勢を取るでもなく、落ち着いてその様を見ていた。
「
今に出来上がろう、というその時。ぴたりと止まった。
「――何?」
男は何が起きているのか分からず、必死に術を行使しようとする。が、上手く行かない。
「ふっふっふっ。かかったね」
男は諦めて術を解こうとする。しかし、今度は編み込まれた闇の線が複雑に絡み合う。
「いくらなんでも、術力に限界はあるでしょ?」
「まさか、わざと吸収させたとでもいうのか」
「そのまさかだよ。しかも、複雑な物理構造のものをね」
愛夢さんはそう言うと、右腕から木の槍を射出して、男の木編龍を破壊した。
「あんたの吸収技は、術式をコピーするわけじゃない。あくまでも、物理構造を闇の力で模して行使できるに過ぎない。そうでしょ?」
確かに、木人も、私の氷飛刃も、形こそ瓜二つだが、根本的には闇そのものだった。
「そして、あんたの術式は、吸収したものの物理構造を自動生成する。つまり。複雑なものを簡略化するような処理は、行えない」
「……」
「闇がそのまま術力の総量だとすれば。
「なるほどな。俺はしてやられたわけか」
「その通り。私、コピー能力って嫌いなんだよね。だから、その対策に色々と術を作っておいたの」
「だが。お前も術力は限界じゃないか? さっきの大技は、見掛け倒しではないんだろ?」
「もちろん。私も術力は結構ヤバい。でも、今はあの時と違って、頼れる仲間がいるんだよねッ!」
すると、愛夢さんは両手を地面について、男の周辺に木の籠を瞬時に編み上げる。
「こんなもの――」
男は、同じように闇で喰らい返す。
その、瞬間だ。
「もらった!」
私は、愛夢さんの右腕に触れ、術を発動する。
氷の塵。それは一瞬で男の周囲に広がる。
男は、闇の力でその塵を喰らいつくそうとするが。
「――⁉ 術力が⁉」
この塵は、私と、愛夢さんの術式を結合した、新技。
「「
触れるだけで術力を連鎖的に吸収し続ける氷の塵。そして。
「「咲麟華・
塵の漂う範囲全てを、瞬時に氷の中に閉じ込める。その氷の棺の中でも、術力を吸収し続け、一度そこに入れば、私と愛夢さんが術式を解かない限り、出ることはできない無敵の術。
バキン、と完全に凍り付いた男は、瞬間的に全身を氷漬けにされたことで抜け出すことも出来ず、術力を吸収し続けられているために術式で破壊することも出来ない。
「っっっはぁーっ!」
「いよぉおおおおおっっし! 勝ったぁあ‼」
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