第24話 幕間:闇影に立つ①

「愛夢さん!」

「おっけぃ‼」

 愛夢さんが右腕を勢いよく前に突き出す。すると、右腕が伸び、枝分かれしていき、網のように細かな木が、無数の壊獣をまとめて捕らえた。

 すかさず、私は愛夢さんの腕に触れる。

「「術式結合!」」

 声を重ね、術式と術力を重ねる。

「「凍木獄とうぼくごく」」

 すると、愛夢さんの木の網に絡めとられていた壊獣たちが、一瞬にして凍った。

「からの~、術力吸収じゅつりょくきゅうしゅう!」

 凍っていた壊獣たちが、氷ごと朽ちて砕け散る。

「よし。これで東門の辺りのやつは片っ端から片付いたかな」

 神城公園での百鬼夜行。無数の壊獣が公園中に出現していた。

『愛夢、雪南。そっちはどう?』

 耳のインカムから、相子さんの声がする。

「とりあえず東門のやつは片っ端から片付けました。時間も時間なので、これから後続がくることもないかと」

『なら、中央から北の援護にいって頂戴。東はそのまま私と雷斗で引き受けます』

「了解でーす」

 通信を終了し、私と愛夢さんは公園の中央、砂利駐車場に設置された本部へ向かった。

「お疲れ様です。拓矢さん、ブンさん、碧仁さん」

「よう、結界三人衆」

 中央の本部は、簡易テントになっていた。そこには、修術師の拓矢さんと、彼が選んだ術師が二人。

「おい愛夢。結界三人衆って、三バカみたいだからやめろ。こいつらと一緒くたにすんな」

神藤かとう裕也ゆうや。カトブーンとかブンさんとか呼ばれている。基本的に術師は家単位で関わる為、名前で呼び合うのが普通。そんな術師界隈において、あだ名で呼ばれることの方が多い稀有な人物。その由来は好きなバンドにあるとかなんとか。

「さっさと終わんねーの、これ。もう疲れてきたんだが」

「今回はどうなるかちょっとわかんないですね……。すみません、お疲れ様です」

「いや。別に雪南ちゃんが悪いわけじゃないから。俺はただこのクソ現象に文句をいいたいだけだから」

 色々と文句を言うが、なんやかんや優しいお兄さんである。年齢は拓矢さんと同じで、術師本部がある大学で建築を教えているとか。

「はぁ。まぁ、文句言っててもしゃーねーや。もーすこしがんばっかぁ……」

「まー。多分もう少しだろうし。がんばろーぜ」

「今まんま同じこと俺が行っただろうが。アホか」

 もう一人。結界を構築し、維持している術師。

 小野神おのがみ碧仁あおと。独特のリズムで生きている人で、どうにも掴みづらい。間違いなく裏表内いい人なのだが。拓矢さんとブンさんによく突っ込まれている。

 修術師の拓矢さんが結界を扱えるのも、この二人に教えてもらったかららしい。

「とりあえず封城壊結界ふうじょうかいけっかいの効果時間はあと少し。張替えだ。それまでに鎮静化の傾向があれば、そこからは簡易結界に切り替える」

 壊術師において、外界と完全に遮断できるような結界を操れる人物はそう多くない。お父さんも似たようなことはできるが、それは厳密には結界ではない。ブンさんと碧仁さんの二人は、術師協会の中でも重要な人物なのだ。

「で、ブンさん。どうですか、北門は」

「実際北門もそこまできつくはないっぽい。その都度清悟郎さんが出撃しては、殲滅して帰って来てる。それでも余裕があるくらいだ」

「余裕過ぎて俺は暇だ」

「こいつさっき寝てて、インカムの相子さんの声でビビって飛び起きてんだぜ」

「え? 本当ですか?」

 碧仁さんが拓矢さんにどつかれているのを見ると、本当のことらしい。

「寝てねーんだから仕方ねーだろが」

「拓矢、また寝てないのぉ? そろそろ死ぬよ?」

愛夢おまえも似たようなもんだろ」

「いや、昨日もずっと絵描いてただろ。本番前なのに」

「はは、バレてたか。まぁ、毎日ちゃんと続けないと意味ないからねぇ……」

「お前が復学するために頑張ってること、みんな知ってるよ」

「えぇ、そうなの? 恥ずかしいなぁ」

「でもってみんな応援してる」

「うえっ?」

「頑張れよ」

 拓矢さんはそう言うと、愛夢さんの肩を叩いた。

 愛夢さんの応援をしているのは、私だけじゃないんだ。

「さて。そろそろ交代しようぜ、碧仁」

「おう」

 結界は、一時間ごとに二人が交代で張っている。今はブンさんのターンだった。その間、もう片方は結界に術式結合して、索敵を行う。本部からは、敵の出現位置がわかる、ということだ。

「うーん。でもそっかぁ。こりゃ早々に終わっちゃうなぁ」

「ですね。もっと来るもんだと思ってたのに……」

 すると、拓矢さんが「妙だよな」と言う。

 ブンさんと碧仁さんも頷く。

「今年は例年よりもヤバいかもしれないって聞いてたから、大分気合い入れてきたのによ」

 そう言うと、ブンさんは結界術式を解いた。

「まぁ、気持ちはわかる」

 すると、流れるように二人で印を組む。

「術式結合。封城壊結界」

 もう一度、公園全体を包み込む結界を張り直した。

「よし。これで俺はしばらく楽が出来る――」

「ブンさん? どうしました?」

「碧仁、結界の強度を最高にしろ。特に東門側だ」

「わかった」

「敵ですか⁉」

「あぁ。それも大分ヤバそうだ。もしもし、相子さん?」

『どうしたの、裕也君』

「ヤバいのが来た。気配を感じなかった。壊門もしてないかもしれない」

『‼』

「壊門してないってことは――」

 壊獣がこちらの世界へ来るには、必ず壊門が起こる。それがないということは、そこにいるのは壊獣ではないということ。

 愛夢さんが、引きつった笑顔を浮かべ、右腕をぐっと抑えた。

「はは、これが傷がうずく、ってやつかな……」

 拓矢さんが、私達に指示を飛ばす。

「二人はひとまず東門へ行け。俺もすぐに向かう。多分、そこが決戦になる」

『雷斗を中央の守りに行かせる。拓矢君は清悟郎さんを連れて東門に来て。私もすぐに――』

 すると、ブンさんがまた声を上げた。

「‼ いや、無理だ。南門に一気に十、二十……、まだ増える――」

『まさか、このために温存していたの――?』

「こりゃ、東門のやつをふんじばって詳しく話を聞くしかねぇな……」

『こちら西門神野山家。こっちも大量に壊門し始めました。申し訳ありませんが、加勢には行けそうにありません』

「清さんが戻ってこねぇのも、そう言うことか……⁉」

 ブンさんが頷く。

「北門も、一気に壊門してる。清さんなら何とかなるだろうけど。手は離せねぇなこれ」

「しゃーねー。俺は空幻さんに連絡する。空幻さんならどんだけ分厚い結界張ろうが中に入ってこれる。雪南、愛夢。お前らがそれまで時間を稼げ」

「はい――。愛夢さん、行きましょう!」

「アイサ! 右腕の借りを返さないとね!」

「思いきり暴れてこい。何があっても結界は壊させない。外には逃がさねぇから」

「碧仁さん、ありがとうございます! 行ってきます!」

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