第21話 越智合新人戦②
俺と一志君、そして香澄さんは、越智合総合スポーツセンターから離れ、東小学校の校舎内に潜んでいた。戦闘の範囲になる一キロ圏内には結界が張られ、一般市民は入ってこられなくなっている。それも、バリアのような結界ではなく、空幻さんの術式を使った大規模な空間置換結界。
「車一つ走ってない道路ってのも中々不気味でしたね……」
山形は基本的に車社会。大体いつどこへ行っても車が走っているものだが。
「まぁ、今この世界は普通の世界とは隔絶されているからね」
「いやぁ、空幻さんすごいなぁ」
俺は何がどうなってこうなっているのか全くわからないが、とにかくすごいということはわかる。
「まぁ……。今は勝つことを考えましょ~」
俺は、腕につけた時計を見る。
これは、現在の残り人数とエリアの縮小が分かるというものらしい。タッチパネル式の時計。ハイテクアイテムだ。
「とりあえず作戦はなるべく戦わずに、生き残ることを優先……。会敵した場合、一志さんの拘束、灯也さんの攻撃という、二手で倒すことが出来れば、ベストですね~」
「香澄君。君は本当に何もしないのか?」
「えぇまぁ……。必要に迫られればその限りではありませんが~」
「俺は不安だよ。君が背後から俺達を裏切りやしないかと」
「あはは……。まぁそう思われてもしかたないですよね~。うん、でもまぁ、否定することも出来ないので~。態度で証明してみせようかと~」
「俺は二人とも信じてるよ。二人とも俺にはない力がある。頼りにしてるから」
「はぁ、まぁ。灯也君がそう言うなら……」
「えぇ、えぇ……。必ずやご期待にお応えして見せましょ~」
すると、時計がブーッと震えた。開始だ。
「始まった――!」
とはいえ、ここへ来る途中、他の参加者を見ることはしていない。この近辺にはいない可能性もある。
「今から三十分後に円の収縮が始まり、一時間後には半径〇・七キロになる。そこから一時間後には〇・五キロ……。そうなると、もう周りはほとんど田んぼや畑で、遮蔽物がない。そうなる前に移動しておきたいな」
「はい……。でも、同じように考えた人が大勢、スポーツセンターの周囲にいました~。倒したところであまりリターンがないゲームの性質を考えても、上手く立ち回って、円の収縮と共に距離を詰めるのが賢いやり方かと~」
香澄さんのいい分は納得できる。
「じゃあ、ここからどう動く?」
「そうですね……。ここの裏にある川に沿って、ぐるりと右回りで進むのがいいかと~」
「理由は?」
「スポーツセンターの北、西、南はほぼ遮蔽物がありません……。恐らく多くの参加者が東側の住宅地からスポーツセンターを目指すでしょう~。そうなると、円の収縮ぎりぎりでこの激戦区へ入り、まぁ~、抜けられれば万々歳、上手く行かなくても背後を取れるので大分有利に事を運べるかと~」
作戦会議をする二人に、俺は完全に置いていかれる。しかし、逆にだからこそ、この二人と共に行動することで俺は戦いに集中できるというものだ。
その時、人の声がした気がした。
「待って」
「どうしました……?」
「敵か?」
「わからない。声が――」
まただ。俺は廊下の窓から外の様子をうかがう。すると、そこには巨漢の二人組がいた。術衣を着ている。参加者だ。
「いた。あれは――」
「手甲を付けてる。置賜の神賜家配下の連中か」
「厄介ですね……。神賜の人達嫌いなんですよ~。頭脳プレイが通用しないんで~」
確かに、見た目はいかにも肉弾戦、といった具合だ。
「幸いこっちには気づいてないみたいだし、さっさと川の方に逃げるっていう手もあるんじゃないか?」
「そうですね……。彼らの動向をもう少し窺いたいところではあります~。川の方に敵がいた場合、最悪挟み撃ちに遭いますし~」
その時だった。
「――ッ⁉ 消えた⁉」
一志君の声が聞こえるや否や、いきなり学校が崩れ始める。
「なんですかぁぁあ~~~⁉」
「わかんないけどッ!」
「とにかく、今は離脱だ!」
崩れる学校から、とにかく無我夢中で外へ飛び出した。
「うわっ、いてて」
不安定な恰好で飛び出したせいで、上手く着地できずに気にぶつかった。
「ハッハァ‼ 兄者の言った通りだ‼ 無様な見習いが一人出てきた‼」
「しまった」
目の前には、二メートルはあるだろう巨漢。両腕には深紅の手甲を付け、首にも赤いマフラーを巻いている。
「兄者の言う通り、円の外側の建物をぶっ壊せば隠れた虫が現れたな‼」
やけに声を張る奴だ。
「隠れるということは弱者‼ 弱者の肉は強者が喰らうモノ‼ それが世の理‼」
それよりも、もう一人の男と、はぐれた二人が心配だ。
出来ることなら、戦闘せずにこの場を離脱して合流したいが……。
「……まぁ、出来そうにないかなぁ」
仕方ない。でも、丁度いい。
俺は短く息を吐いた。
時間はかけない。速やかに排除する!
「神山壊術式」
ぐっと、右足と右腕を引く。そして、腰を落とす。
右足を踏み切って、一気に相手の懐へ。そして、掌を相手の腹に当てて、フルパワーで術力を放つ。しかし、それは今までのようなビーム攻撃ではなく。以前愛夢さんが見せた相手を吹き飛ばす発勁のような技。本来の姿。
ドカン、と勢いよく爆発するような音と共に、巨漢はグラウンドの端から端へ吹き飛ばされる。
「ふぅうう――」
紫陽さんとの修行で身に着けた技の一つ。ビームとして放つエネルギーを、一点に集中して放つ。俺がそれを行うことによって生まれる衝撃は、通常の壊波掌衝の何倍にもなる、らしい。
「よし、今のうちに――」
しかし、それより早く、相手の殺気を感じる。
反射的に腕で受ける。それと同時に、身体ごと思いきり振り回されるような力と、衝撃が全身に走った。
ドガァアアン‼
崩れた校舎の瓦礫に突っ込む。
「がはっ!」
代命受符に刻まれた印が、半分消える。この印は、残りHPのようなもの。つまり、これで俺は半分死んだ。もう一度同じような攻撃を受けたら、符が燃え、俺は敗退になる。
「中々面白い技を使うが――、俺には及ばない‼ やはり弱者‼」
俺に重い一撃を食らわせた男は、無傷だった。印は、少し減っているようだが。
「仕方ない‼ 二級の私には及ばない‼ それが世の理‼」
何とか瓦礫から這い出す。
「負け行く貴様に私の名を教えてやろう‼ その名を胸に刻み、また励むがいい‼ そう、そういうものだ‼ 敗者は強者の背中を追いかけ、成長する‼ それが世の理――」
「理、理うるさいっすよ」
ふわりと香澄さんが現れる。そして、俺に気を取られていた男の身体を、縄のようなもので縛り付け、固定した。
「灯也さん!」
その声に反応し、素早く壊獣術式を展壊する。
「なッ――‼」
「真・壊波掌衝――、
ボガァアアアアンッ‼
大きな爆発音。そして、燃える符。
「ぐぬぅうううッ⁉」
爆炎のなかから、うずくまった男が現れる。時計が震え、参加者が一人減った。
「いぇーい」
「あ、ありがとう」
香澄さんとハイタッチをする。
「貴様、不意打ちとは卑怯だぞ‼ 一対一の男同士の決闘は何人たりとも邪魔してはならない‼ それがこの世の理だ‼」
「決闘かなぁ……」
すると、香澄さんはふん、と鼻を鳴らした。
「理が何だってんですか。理を壊すのが、私達壊術師でしょ」
「くぅッ‼ 言い返せない‼」
「さて、じゃあ灯也さん。一志さんを探しに行きましょう。校舎の反対側で、もう一人のゴリラと戦ってるはずです」
「ま、まて‼ せめて名前を――‼」
「こっちは急いでるんす。また後で、ゴリライダー二号~」
「ゴ、ゴリライダー⁉」
ゴリライダー二号さんに背を向け、俺と香澄さんは校舎の反対側へと向かった。
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