越智合新人戦編

闇影鳴動・天樹漸雪

第16話 頼れる先輩とひとつ屋根の下、全力ブッパの修行をする生活


「新人戦、ですか」

「そう。毎年夏と冬に行われる、新人術師の大会」

 愛夢さんの件から、1か月が過ぎた。学校はもう夏休みに突入。

 季節は夏。すっかり暑い季節になってきていた。

 俺は、更に強くなるために修行を重ねていた。しかし、あの件以降、神城公園の任務は基本的に例の特別チームが対応していた為、俺は一向にポイントが盛れずにいた。

「この大会で優勝すれば、見習いは二級に、二級は準一級になれる。つまり、二級になれるチャンスってこと」

「二級に……」

 あんな悔しい思いはもうしたくない。そう思えば思うほど、見習いのまま燻ぶっている今に焦りを覚える日々だった。

「やります」

 その答えを出すのに、考える時間は必要なかった。

「うん。灯也君ならそう言うと思った」

 清さんは、そう言って笑うと、どこかへ電話をかけた。

「あ、もしもし、紫陽しよう君? うん、僕だけど。あ、そう? うん、じゃあおねがいね」

「誰に電話してたんですか?」

「大会までの1か月、君を鍛えてくれる人、かな」

 すると、道場の壁がびしびしと震え、揺れた。

「なんですかね。風?」

 ビュゥウ、と強い風の音がする。

「あ、来たかな」

 そう言って、清さんは道場の入り口の方へだれかを迎えに行った。

 しばらくして、細長い袋を肩にかけた男性と共に戻ってくる。

「君が灯也君か」

 精悍な顔付きの男性。はっきりとした口調と声色が耳に心地よい。

「紹介するね。こちら、神賜しんし紫陽しよう君。置賜の神賜家の次期当主だよ」

「神賜家⁉」

 山形県には4つの代表的な家がある。その1つが神山家。そして、神賜家。これらは、それぞれ4つの地方に分かれ、それぞれの地方を守っている。

 が。この家同士の中が非常に悪く、その中の悪さは一般の県民が、他地方の生活がよくわからない、というレベルまで浸透している。

「あぁ、そう構えないでくれ。俺は別に家同士のいがみ合いとかどうでもいい」

 紫陽さんは、心底うんざりした表情で訴えた。

「そうなんですか?」

「あぁ。正直、神賜家を継ぐ気もない」

「紫陽君は新人戦で優勝したこともある。彼に戦い方を学んで損はないと思うよ」

 戦い方。

 今の俺の課題は、圧倒的に戦い方のバリエーションがないことだった。会敵して、すぐ全力で攻撃。これを繰り返すばかりでは、俺は一向に強くなれない。術力の効率も悪い。

 それが、少しでもマシになるのなら。

――賭けてみたい。

「お願いします」

 俺は、強くならなくちゃいけないんだ。


「よぉし。まずは――」

「まずは、組手ですか⁉」

「ちがう。なんで最初に組手なんだい」

「え⁉」

 雪南さんとは基本的にそうやってコミュニケーション(物理)を取ってきたから……。

「敵を知り、己を知ることで開ける道もある。灯也君の能力を知り、君の適性を知ろうと思う」

「適性?」

 すると、紫陽さんはホワイトボードを引っ張ってきた。

 そして、山形県の図を簡単に書いた後、それを各地方事に分割した。

「いいかい? 山形には4つの地方がある。村山むらやま置賜おきたま庄内しょうない最上もがみ。このそれぞれに、神山かみやま神賜しんし神内じんだい神上こうがみ。そして、その家事に術の形式が異なる。わかる?」

「はい。えーっと。印を結ぶのが神山壊術式かみやま神賜壊術式しんしかいじゅつしきは、道具を使う。神内壊術式じんだいかいじゅつしきは式神使いがメインで、呪文詠唱をするのが神上壊術式こうがみかいじゅつしき、だったような」

「正解」

 紫陽さんは、それぞれの地方に、印、道具、式神、呪文、と記入した。

「新人戦は、県内の見習い、二級の術師が全て集結する。そしてサバイバル形式で第一ラウンドを行い、残った上位4名で決勝トーナメントを行う」

「ふむふむ」

「ということはだ。他の術師の強みと弱みを知っておかなければ、いざという時に対応できないということだ」

「なるほど。確かに」

「そこで。君の適性を知る為に、あとその術式の強み弱みを知る為にも、神山式以外の術式を使ってみよう、ということだね」

 紫陽さんは、来るときに持っていた細長い袋から、何かを取り出した。

「ちなみに。俺はこれ」

「刀……、ですか」

 それは、鈍く光る銀の鍔の刀。

「結局神賜壊術式が一番性に合っていた。あと、俺の壊獣の力とも。だから俺はこうやって刀を使って戦う」

 すると、袋からもう1本。刀を取り出し、俺に投げてよこした。

「使ってみな」

「と、言われても」

 神山壊術式は、自分の身体の中だけで術力、術式が完結するのがメリット。要するにシンプル。逆に言えば、特に秀でたところがあるわけではない。

「武器を使ったことなんてないですよ」

「その刀は、神賜の術が施されている。腕や足に術力を込める要領で術力を込めてみな」

 手を叩く。

「術式、展壊」

 そして、刀を持って、術力を流し込む。すると、確かに腕から手、手から刀へ、1本の道が通っているかのような感覚があった。

「――! 確かに、これは……」

「よし。そしたら、何でもいい。適当に得意な術を撃ってみるんだ」

「よぉし……」

 刀を構える。そして、いつもビームを撃つ感覚で力を溜め、思いきり放った。

てのひらじゃないから――。壊波刃衝かいはじんしょう‼」

 ボールを投げるのと同じように、振り下ろす動作に合わせて、術力を放つ。

 ズドォン!

 大きな音を立てて、刃から放たれたビームは道場の壁を直撃した。しかし、道場の壁は無傷であり、穴が開いたりはしていない。

「と、こんな感じです」

「なるほどな。うん、よくわかった」

「何がですか?」

「灯也君、神山式以外向いてないよ」

「えぇっ⁉」

 試してすらいないのに⁉

「ほれ、刀を返してくれ」

「あ、はい」

 キン、と鞘に納め、そそくさを袋にしまい込んでしまった。

 もうちょっと刀、触ってたかった……。

「清悟郎さんから話は聞いていた。基本的に全力で撃つことしかできない、と。でも、その威力は絶大だって」

 褒められているのか、貶されているのか。

「でだ。今のをみてわかったのは2つ。1つは、式神や、複雑な道具を使うことには向いていない、ってこと。もう1つは、逆に神山式でも、君の力なら十分脅威になる、ということだ」

 ホワイトボードをひっくり返す。

「式神や、複雑な道具。あと呪文の詠唱というのは、術力や、発動までのタイムラグのリスクに対して、少ない術力で高威力を出せたり、複雑な術を放つのが簡単だったりと言ったメリットがある。だからこそ、強い。でもこれは、君のようなタイプには当てはまらないと俺は思うんだ」

 人間の上半身を模した図を上下に2つならべて描いた。上には、腕に黒いリストバンドのようなものを追加で描く。

「例えば、上の人。この黒いのが威力増強の道具だとすれば、10の術力に対して、20の威力を出せる」

 手の先から、ビームのようなものを描き、上に数字を描いた。

「対して。これは灯也君だ。君も同じように、20に対しては、20の術力を使う。でも、他と違うのは、術力の総量が桁違いなんだ。即ち、この道具なしでも同じことが出来ている、ってこと」

 20という数字の隣に、上は100、下には200と書き加えた。

「この条件で撃ち合えば、結果は同じっていうわけ」

「なるほど」

「あくまでこれは例えだから、本当はもっと大きな差があるだろうね」

「でも、これじゃ結局俺のやることは今までとは変わらないですよね」

 すると、紫陽さんはにやりと笑った。

「だからこそ、出来ることはある」

「なんですか?」

「強弱、変化をつけるんだ」

「変化」

「結局1発1発で使う術力は同じ量だったとしても、例えばビームを絞るとか。連射するとか。逆にもう一撃必殺で1発に全てを込める、とか。そういうやり方はある」

 紫陽さんは不敵に笑う。

「火力でゴリ押された方が怖い。灯也君の才能を最大限生かす方向でやっていこう」

 正直、不安は拭いきれない。けれど、俺にそれ以外の戦い方がないことも事実だった。

 何がなんでも、俺は今度新人戦で優勝しなくちゃいけない。

「わかりました。お願いします!」

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