第10話 神城影壊戦線⑧
ぶわっと、身体の内に熱が走る。毛先から5センチくらいが、紅くなっている。
「
「行き――、ます!」
神経が研ぎ澄まされる。踏み込む地面の感触。筋肉の感覚。
ドンッ! という音と共に、一気に影壊に迫る。
「神山壊術式・
雪南さんが印を結び、唱える。すると、空中に無数の赤黒い杭が現れる。そして、それらは一斉に影壊目掛けて掃射された。
その数は、下手をすれば俺も巻き込まれかねない。
しかし俺は止まらず、思いきり拳を繰り出す。
拳は影壊にクリーンヒット。
しかし、無数の杭は、1本も、俺をかすめることさえなく、しかし全て影壊を貫き、地面に固定させた。
「アアアアアァアアァアッァアァアアッ⁉」
呻き声のような、喚き声のような、叫び声。身体中に杭を打たれた影壊は、身動き一つ取れない。俺は、間髪入れずに、1撃、2撃――、と追撃する。
「これなら――!」
術力の余裕もある。有利もとれている。
そのうえでさっさと勝負をつけて、愛夢さんを助けに行かないといけない。
俺は一度距離を取る。
「壊獣術式!」
一気に半分まで紅く染まる。
「灯也!」
「大丈夫です! それに、さっさと決めて愛夢さんのところへ行かないと!」
両腕、両脚に炎を纏う。
気分が、高揚する。
「消し炭になれ」
地面に焦げ付いた足跡が残る。
杭に抑えられ、暴れる影壊に狙いを定め、思いきり右足を振りぬく。
当たった手応え。そして、抵抗がなくなる感覚。
「ッッッオラァ‼」
影壊の首が吹き飛んだ。
しかし、壊獣は首がなくなろうが死にはしない。核を潰さなければ消えない。
蹴り飛ばした勢いのままぐるりと身体を回し、右手を影壊の身体、心臓の辺りに突っ込んだ。そして、全術力を右腕に集中させる。
「炎爆・
そして、影壊の身体を内から燃やし爆散させた。
「チッ。こんなもんか」
杭を受け、形を保っていたということはそれなりに強いヤツではあった。だがそれでも、Bランクには及ばない。
すぅっと身体の内の熱が逃げていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
身体にどっと疲労がやって来る。
しかし俺は基本的に全身にフルパワーしか出せない為、これを使うといつもこうなる。
「こんなとこで疲れてられない――!」
北門のところへ戻って、早く加勢をしないと。
すると、再び壊獣の気配を感じる。振り返ると、一気に2つ、壊門している。
「マジか」
「――
氷の顎が、門に喰らいつく。そして、2つの内1つは、噛み砕き、門ごと消すことに成功する。
「灯也!」
その声で、俺は渾身のビームを門へ打ち込む。
「塞がれぇええええええええ!」
バキン! と音を立て、2つ目の門も消滅させる。
「よし――、これなら」
「待って!」
今度は2つ、空間にヒビが入る。
「――どうなってんだ、こんなに一度に――」
「――くっ……」
このままじゃ、いつまでも愛夢さんの加勢に行けない――。
「――、雪南さん。すみません」
「灯也、まさか……」
せめて、雪南さんだけでも、愛夢さんの加勢に。
なら、俺がやることは一つ。
「壊獣術式――!」
「灯也! ダメ!」
「
ボン! という爆発音。そして、一瞬にして燃え上がる俺の身体。遠のいていく意識。
口元がにやける。
「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼」
吠えるような雄叫び。全身と、俺を中心に燃え広がっていく公園の木々。
壊門したうちの一つから、人型の影壊がぬるりと姿を現す。しかし、俺が放った炎に焼かれ、即座に塵と化す。
「ザコが‼」
手応えがない。
しかし、4つも壊門しているのだ。どこからかは、少しくらい骨のあるやつが出てくるかもしれない。プラスに考える。
2つ目の門から現れたのは、影壊ではなかった。草の壊獣、
「クソが! 2つ目も外れかよォ!」
ここ最近不完全燃焼が続いている。そろそろ骨のあるやつが出てこないと、いい加減破裂してしまいそうだ。
「アアァアアアア‼ もっと、もっともっともっとォ!」
3つ目と4つ目から、同時に壊獣が現れる。虫の壊獣、
「炎爆・灰燼ノ――」
技を繰り出そうとした時、背後で唸り声が聞こえる。そこには両腕の鎌を失った蟲壊がいた。いつの間にか背後を取っていたらしい。不意打ちで俺を殺そうとしたんだろうが。
「無駄だったなァ?」
俺は常に高熱を纏っている。触れようものなら、たちどころに灰になる。
「蟲風情の脳味噌でちったァ考えたようだが――、所詮虫ケラだな」
のたうち回る蟲壊の顔に手を当てる。
「炎爆・
蟲壊の全身があっと言う間に灰になる。
ゆらりと次の蟲壊に視線を移す。すると、俺から逃げ、近くにいた女へ真っすぐ突っ込んでいった。
「
すると、女へ近づくよりも早く、氷の剣が蟲壊を切り刻んだ。
「オォイ! そいつァ俺の獲物だぜ?」
女は真っすぐに俺を睨みつけてくる。
「灯也……」
「あ? やんのか?」
術師と戦うなどいつぶりだろうか。気分が高揚する。ここ最近の不完全燃焼を一気に解消できるかもしれない。
「灯也! 聞こえる⁉」
「こねぇなら――、こっちから行くぜェ‼」
全身の炎を、片手の指先一点に集中させる。
「炎爆・
極細の炎熱光線。
さっきの戦い方を見るに、あの女は氷使い。相性的には分が悪い。なら、一点集中の光線で氷に穴をあける。この光線を、ヤツは跳んでかわすことしかできないはず。
「……くっ!」
やはり、跳んでかわす。
「灯也! 戻ってきて!」
「炎爆・
すかさず、空中にいるところへ高密度の炎を刃状に圧縮したものをぶつける。氷塊で防御を試みたようだが、薄く圧縮された炎でいとも容易く切断される。
「……⁉」
しかし、その氷塊に視界を奪われた次の瞬間。姿が消えている。
「――ごめんね」
その声を最後に、俺の意識は途絶えた。
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