第149話 伝説の大戦



「・・・・・着いたね。」



僕は見渡す。


枯れはて、茶色くなった大草原を。


風は心地よく吹いている。


だが、空を見ると黒い靄にこの地は覆われていて、今は朝のはずなのに、太陽の光は届かず、朝なのか夜なのかまったく分からない。

しかし、不思議とその黒い靄から発せられる別の光が、この地を明るく映し出していた。



僕は宣言通り、話した日からピッタリ四ヶ月後に、この滅んでしまった『クリスタル帝国ファースト』の大平原【テルマ】に来ていた。



その【テルマ】の入口と呼ばれている丘の上でその大平原を見下ろす。



世界でも有名な大平原の一つ【テルマ】。


この大平原は世界でも有数な広さを誇っていて、この島国の半分以上を占めている広さだった。


先を見ても水平線の様にずっと続いている大平原。


しかし、一ヶ所だけ、遥か先に塔の様に見える建物群があった。



その場所がおそらく帝都。

そして皇帝が住んでいた所であり・・・・・・・・今は元凶がいる場所。



「しかし・・・・・あれは何だ?」


僕は呟く。



見下ろしている大平原の遥か先にうごめく黒い物体。


それが見渡す限り続いているのだ。



「・・・・・あれは魔物よ。おそらく元凶が作り出した。」


隣にいる白雪が言う。



「凄い数だな。」



何匹いるのだろうか。


遥か先に見渡す限り黒い海の様に続いている。

10万や100万レベルじゃきかないだろう。


あそこに突っ込んで、その先にある帝都へとたどり着かないと行けないのか。



この島国にはすんなりと上陸する事が出来た。



黒い靄がこの島国を包んでいる為に、外から入る事が出来ない。


しかし、一ヶ所だけ靄が発生していない場所があり、そこからなら入る事が出来たのだ。


まるで誘っているかのように。


しかもここまで一匹も魔物に遭遇しなかった。



僕は、魔物達の動向を眺める。



しかし、その黒い物体はまったく動く気配をしていない。


まるで僕達が向かってくるのを待っているかの様に。



僕は振り返り、来た道を見る。



結局、応援に来てくれた国は一つもなかった。



・・・・・時間だ。・・・・・まぁしょうがないか。僕みたいな冒険者一人が言った所で、国が動くわけないよな。でも・・・・・ヒッキやガイルズ皇帝なら、少しは軍隊を派遣してくれるかと思ったんだけどな。



そのままうごめく黒い物体を見直すと呟く。



「ダークネストゥルー。」



僕を中心に闇が包み込む。


そして暫くすると元の景色へと戻り、僕の背後には漆黒の羽を広げた大きく美しい女性が立っていた。



「シャインさん。お久しぶりです。」



シャインは優しく後ろから僕を包み込みながら言う。



「フフフ・・・・・久しぶりね。最近呼んでくれないから少し寂しかったわ。さて、娘達・・・・・来なさい。」



そう言うと、僕の影が大きく広がり、その影の中から黒の一族が続々と現れた。



その数一万。



そして僕の前で跪き、頭を垂れながら一斉に叫ぶ。



「主様!!お久しぶりです!!!」



「あっ、うっうん。久しぶり。そんなに礼儀正しくしなくていいよ。ハハハ・・・・・照れるな。」



「レイ様。私達の主は貴方様です。当然の事をしているだけですよ?」


先頭で跪いている側近のロイカが笑顔で言う。



僕は皆に言う。



「今回呼んだのは、あそこにいる大量の魔物との戦いです。圧倒的に数がこちらの方が少ないので、危険と判断したらすぐに魔界へと戻る様にしてください。

絶対に命を捨てる事はしないように。主としての・・・・・これは命令です。」



「主様の命のままに!!!!!」



黒の一族は返事をすると、一斉に立ち上がり、羽を広げて空中へと飛び立ち、臨戦態勢に入る。



シャインがそれを見ながら僕に言う。



「レイ。ありがとう。そう言ってくれて。貴方は私達の主。・・・・・死ねと言えば死ぬわ。」



「ハハハ。やめてください。そんな事言うわけないじゃないですか。」



「フフフ。そうね。でも・・・・・呼んでくれて良かったわ。これは私のケジメでもあるから。・・・・・・ねぇエメリアル。」



エメがつまらなそうに言う。



「フンッ!言わなくても分かっておるわ。・・・・・レイを守れれば、どうでも良かったのじゃがの。」



最後の方は小声で聞き取れない。



シャインが続ける。



「レイ。私はその【元凶】とは直接戦う事が出来ないの。だから、貴方達が戦える様に、出来るだけ道を作るわ。それでいいかしら?」



「ええ。シャインさん。それで十分です。」


そう言うと、僕は前を見る。



さて・・・・・厳しい戦いになるけど行くとするかな。



そんな事を思っていると、隣にいる白雪が声を掛ける。




「レイ。」




「うん?」




「・・・・・後ろ。」




僕は後ろを振り返った。



後ろも見渡しの良い平原が広がっていて、さっき見た時は変わらない景色だったが・・・・・今は違っていた。



先の方から人の群れが見えるのだ。



しかも見渡す限り。



そして上空にはこれまた埋め尽くさんばかりの飛空戦艦が飛んでいる。



その大群が僕の方へと地鳴りを響かせながら向かって来ている。



近づいても、後方から人が途切れる事がない。



所々に国旗がはためいている。



「なっ!・・・・・・なんじゃこりゃ!!」


思わず僕は、変な声を出す。



隣にいる白雪は同じ様に後方を見ながら笑顔で言う。



「フフフ・・・・・これが今の貴方の力。貴方を信頼して想ってくれている人は沢山いるのよ?・・・・・レイ。もっと自信を持ってね。」



「ハハハ。」



僕は渇いた笑いを返した。










☆☆☆










「オイオイオイオイうそだろ・・・・・・・・・マジですごいな。」


思わず僕は呻く。



僕達が来た道には、人、人、人。



左から右まで、見渡す限り人、人、人だ。



まるで人で出来た海の様に地平線まで続いている。



もうこれは、圧巻というレベルでは到底言い表すことが出来ない。



アルク帝国とギリアの戦争を体験したが、この数に比べればちっぽけに思える。



それ程までに人が、兵士が、遥か先まで続いていた。



僕達の数キロ先で先頭が止まると、数人が馬にまたがってこちらへとやってくる。



最初に僕の元へとやってきたのは、アルク帝国五大将軍の一人、エリアス=ノートだった。



「レイ君!」



「エリアスさん!」



【鳳凰の羽】部隊の鎧を着たエリアスは馬を降りると、僕と握手する。



「来てくれたんですね!ありがとうございます。」



「ハハハ。我々アルク帝国が君の要望に応えないなんてありえないよ。そんな事したら全国民にそっぽを向かれてしまうからね。」


そう言うと、一歩下がり、アルク帝国式の敬礼をして言う。


「レイ殿・・・・・我がアルク帝国、五大部隊と大隊入れて総勢200万!貴公と共に戦う事を誓う!!!」



「エリアス・・・・・ありがとう。」



一緒にいるアイリがエリアスに向かって言う。



エリアスは優しい目をしながら笑顔で頷いた。



「お取込み中申し訳ありませんが、私もいるのでよろしくお願いします!」


エリアスの後ろで待機していたミンクが大声で言う。



僕は亡くなった姉、ティンクの面影を重ねながら言葉をかける。



「ミンクさん。久しぶりです。よろしくお願いしますね。」



「ハッ!」



「レイィィィィィィィィィ!!!!」



「ウィィィィィィィィィイィィィィィィ!!!!」



エリアスとミンクに挨拶が終わるとすぐに、友が僕へと飛びかかってくる。



ヒッキとサイクスだ。



「オイオイオイ!何来てんだヒッキ!お前は来ちゃだめなやつだろ!!!」



「うるせぇぇぇぇぇ!お前が戦うってのに俺が黙って見ていられるかってんだ!どの道、この戦いが負けたら俺の国もどうなるか分からないなら、一緒に戦うに決まってんだろ!」



「そうだじょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!この普通顔がぁぁぁぁぁぁ!!!」




サイクス。




変なツッコミはやめろ。




そしてディスるな。




肩を組まれ、頭をもみくしゃにされながらはしゃいでいると、タイミングを見計らっていたアルメリア兵の一人が僕の方へと来ると敬礼しながら言う。


「レイ将軍!【アルメリアの杖】10万!只今、参りました!!!」


【アルメリアの杖】第二部隊隊長のメイクが僕に報告する。


「メイクさん。・・・・・ありがとうございます。」


「何言ってるんですか!レイ殿は我々【アルメリアの杖】の将軍です。その将軍が戦いに行くというのに、部下が行かないのはありえません!むしろ命令をして頂いた方が良かったです!」


そうだ。僕は【アルメリアの杖】の将軍だったんだっけ。すっかり忘れてたわ。


「ハハハ。ごめんごめん。・・・・・所で、まさかミレーユは来てないよね?」


僕はメイクの遥か後ろにいる部隊の先頭を見ながら言う。


「はい!聞いた時は参加すると言ってきかなかったのですが、何とか説得しました!」


「うん。なら良かった。」


今、彼女は大事な役目があるからね。ここには絶対に参加するべきじゃないんだ。



すると隣にいるヒッキが言う。



「レイ。俺達も参加するぞ。『アルメリア国』の主力部隊、アルメリアの杖、盾、弓、剣の40万。そして他の部隊も入れて総勢150万。・・・・・参戦だ!!!」



ウォォォォォォォォォォォォ!!!!!



ヒッキが叫ぶと、後ろにいる部隊がそれに呼応する。




それからは、各国の代表クラスが続々と僕の元へとやって来た。


「レイさん!」


「シュバインさん!」


シュバインが僕へと近づき握手する。


「僕達プレイヤーも来たよ。『オロプス国』の冒険者は全て。そして『オロプス国』軍の主力部隊もだ。」


後ろの一部にはオロプス国の旗がはためいている。その先頭には、見慣れたクラン達がいた。


【ヒート】や【アークス】、【たぬき】のメンバーが僕の方へ手を振っている。



シュバインは続ける。



「この間、世界会議があったんだけどね。結論から言うと、その参加した国全てがこの戦いに参加表明したんだよ。後ろにずっと続いている兵士達は世界中の国の軍隊だよ。数でいったら、おそらく何千万になるだろうね。」



「何千万?!!!!!」



そりゃ、遥か先まで人の群れが続いているわけだ。しかも、上空には無数の飛空戦艦が飛んでいる。



「あと・・・・・もちろん、【伝説の武器】の六名も来たよ。」



シュバインの後ろを見ると、いつのまにか到着して佇んでいる五人。



その内の一人。世界一の殺し屋、ジョアン=キングが助手二人とリールを連れて僕へと近づき言う。



「やぁ、ゼロ。私も不本意ですが参加する事にしました。」



そう。



ジョアンは殺しの依頼以外はしない。



つまらないからだ。



だが、今回だけは別だった。



ケイトから聞いた報酬はあまりにも魅力的だったからだ。



この戦いに参加して成功すれば、【伝説の武器】を所持している我々七名は全て【ハイヒューマン】へと進化させるという報酬が。



だからこそ、この依頼に参加する事にしたのだ。



ジョアンは言う。



「そうそう。ゼロに話しておきたい事があるそうです。・・・・・さぁ、リール。」



ジョアンの後ろにいたリールは僕の前まで来ると真っすぐに僕を見て言う。



「ゼロさん。久しぶりです。・・・・・貴方と話したい事が沢山あります。でも・・・・・。」



何でエッジ様を殺したの?




私が愛するエッジ様の仇だと貴方は知っていたの?




知っていて私になぜ剣術を教えたの?




言いたい事、聞きたい事は沢山ある。




でも今じゃない。




私は今はなき『ギリア国』の王女、アラミアム=リール。



この世界を、そして、ちりじりになった同志達を守らないといけない。


 


だから・・・・・。だから・・・・・。




貴方をこの戦いでは死なせない!




「リール・・・・・。」


ゼロが小さく名を言い、悲しそうな顔をしながら私を見ている。


「・・・・・私もジョアン様と一緒にこの戦いに参加します。・・・・・そして、この戦いが終わったら、一度ゆっくり話す場を貰えますか?」


「あぁ。約束するよ。」

ゼロは頷く。


「話は終わったかい?しっかし、この数は異常だな!こんな数は前にいた星でも見た事がないよ!」


すると、相変わらずのおちゃらけた調子で、クリスタル帝国【7星】の一人、トリック=ミリアが言う。



その後からは、【天使と悪魔】の10本指の一人、ラフィットが、そして最強クラン【ヒート】のアッシュ=レインが僕の元へとやってくる。




そして、丘の上で【伝説の武器】をもった7人が横一列に並ぶ。



その後ろにはそれぞれの仲間達が。



さらにその後方には数千万の各国の兵士が。






僕は一歩前に出ると、眼下に広がっている黒く蠢く魔物達を見ながら、右手を上げて大声をだして言う。






「さぁ行こう!・・・・・明日をつかむ為に!!!!!!」






オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!






地鳴りの様に響く声がこの島全体に響き渡った。








後に『伝説の大戦』と呼ばれる戦いが今始まった。




















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