第148話 世界中の皆へ


「ただいまぁ~。」



「レイィィィィィィ!皆が酷いんだよぉぉぉぉぉぉ。」



カイトに任せて約一時間後。


ロイージェさんに送ってもらい戻ってみると、いきなりカイトに抱きつかれる。



「おいおい。どうしたんだよカイト。」



僕の代わりに女性陣を相手にしていたカイトは、努力をしたみたいだが、僕が一緒にいた時の様にはいかず、買い物が一向に進まずに途方に暮れていたそうだ。



僕は皆を見て言う。


「あのさぁ。何でカイトが泣きそうになってるの?」



アイリが言う。


「だって・・・・ねぇ。私達が選んでいるのに、勝手に自分の好みの洋服や小物を持ってきて、これがいい!絶対これがいい!って押し付けるんだもの。そんなの無視したくもなるでしょ?」



他の女性陣がうんうん頷く。



ハハハ。そりゃダメだろカイト。僕より女心が分かってるんじゃなかったのかよ。



でも、ここで僕まで女性陣につくわけにもいかないか。



「まぁまぁ。カイト。皆の為に頑張ったんだもんな。よしよし。」



「レイィィィィィィ!!」



僕はカイトの頭を撫でて慰める。



それを呆れた様に皆が見ていたのは、カイトには黙っていよう。



そんな感じで、ショッピングを再開し、その後に演劇を観たりした僕達は、夜、予約を取っておいた人気のレストランへと行って美味しいお酒と食事を堪能した。



「このワイン旨いわ。」



「だね。」



アイリが言う言葉に思わず反応する。



さすが娯楽の国。

世界中の旅行客が満足して帰るだけの事はあって、料理やお酒が凄く美味しい。

これは・・・・・また飲みすぎて酔っぱらう前に、皆に言わないとな。

僕は、お酒を一口飲んだ後、グラスをテーブルの上に置いて皆に言う。



「ねぇ皆。話しておきたい事があるんだ。」



僕がそう言うと、皆、飲んで食べていた手を止める。


僕は皆に話始めた。


ケイトさんに会って聞いた事を。







「・・・・・それで?」


白雪が僕に聞く。



「うん。僕はその元凶がいる『クリスタル帝国ファースト』に行こうと思うんだ。ただ・・・・・・。」


僕はラフィンとカイトを見る。



ケイトさんは言っていた。



天界と魔界は守ると。



それならば、天界で生まれ育ったラフィンとカイト、そして魔界のキリア。・・・・・この三人は命を懸けて僕と一緒に付いてくる必要はない。


そう思って言いかける僕をラフィンが僕の方に向かって右腕を前に出して手を広げて言う。



「レイ。これ以上言ったら、僕も流石に怒るよ。」



「そうだね。」



「・・・・・・私も怒る。」



カイトとキリアが同意する。



「・・・・・・・。」


僕は今度はアイリを見る。



アイリは超大国『アルク帝国』の皇女だ。

アイリにもしも何かあったら、皇帝も、皇妃も、そして国民も悲しむだろう。



「あのね。レイ。私もラフィンと同じ気持ちよ。これ以上は言わない事ね。」



「う・・・・・。」


思った事を言う前に、先に言われてしまう。



左隣にいる白雪がため息をつきながら言う。



「ふぅ・・・・・レイ。前にも言った様に、レイが私達のリーダーなのよ?貴方が決めた事に対して私達は何も言わないわ。それは、私達はずっと貴方についていくと決めているから。

 それと・・・・・フフフ。どんな事があっても私達を守ってくれるんでしょ?」



皆、笑顔で僕を見ている。



迷っている顔など、誰も見せていない。



そうか。



そうだったな。



皆、僕を信じてるんだ。




「・・・・・分かった。なら、今説明した様に、次の目的地は『クリスタル帝国ファースト』だ。今はしっかり楽しんで。家に帰ったらゆっくり準備してから行こう!」



「「「「「「 オ~! 」」」」」」



皆が手をあげて同意する。



右隣にいるエメが僕に言う。


「のぉ・・・・・レイ。ワシに言わないのはなんでじゃ?」



「ん?だって、僕とエメは一心同体なんでしょ?僕が死んだらエメも死んじゃうなら、一緒にいた方がいいじゃん。」



エメは驚いた様に目を見開いて言う。


「ウッウム!そっそうじゃ!・・・・・そうじゃな!!!ウムウム!!!・・・・・さてもっと食うぞよ!!!!」



何故か急に機嫌がとても良くなったエメは、豪快に食べすすめている。



白雪が少し不満そうな顔だ。



???



何か変な事言ったかな?



・・・・・まっ、いっか!



僕も、また皆と一緒にお酒を飲み始めた。










☆☆☆










「それでは会議を始める。・・・・・よろしいか?」


議長国である、アルク帝国皇帝ガイルズ=レンベルが言う。



ここは世界唯一の中立国『ピリカ』。


その首都ミューズで、大規模な世界会議が開かれていた。



そこには、超大国のアルク帝国を中心に、大国のアルメリア・オロプス・ナイージャが。

 他にもランスやルーン国、はたまた加盟していないシャーフランやビーリッシュ、ミレー国の代表まで来ていた。


そしてその一席には、クリスタル帝国皇帝オーシャン=クリスタルも椅子に腰かけている。



これは、トップクラン【アークス】のシュバインが、自国のオロプスの王、レギアス=バインに事情を話し、急遽、世界中に通達して呼びかけた会議だった。



世界中のトップ達がここまで一堂に集まる事は過去の歴史にもない。


それ程までに招待状に記されてあった『この世界が滅びる。』という一文がことの重大さを物語っていた。



今回は、世界中の国が参加する為、議長国は呼びかけた大国オロプスではなく、誰もが納得できる、今世界で一番強大な国。超大国『アルク帝国』が任される事になった。



「まずは、『オロプス国』のレギアス王よ。此度の経緯を。」



「了解した。・・・・・シュバイン。」



座っている各国の代表。皇帝や王の後ろには数人の側近が控えている。レギアス王の後ろに控えていた一人、シュバインが座っている王の横に立ち、周りを見渡すと言う。



「各国の代表の皆様方。お集まり頂き、誠にありがとうございます。今回の件に関しましては、この世界・・・・・いや、この星に関わる、あまりにも重大な事でしたので、代表の方々に集まっていただき、話し合いの場を設けないといけないと判断致しました。・・・・・これから話す事は真実です。それは・・・・・・・」



シュバインはゆっくりと、分かりやすく丁寧に話始めた。










☆☆☆










・・・・・・・。



・・・・・・・。



・・・・・・・。




シュバインが話し終えると、暫くの静寂が続いた。



すると、南の大国『ナイージャ』の王、ルトゥールが言う。


「フム・・・・・にわかには信じられない事だな。」


『ランス国』の王、クラフトシージが言う。


「だが、クリスタル帝国の本国が黒い靄に覆われているのは事実だ。・・・・・そこの所はどうお考えかな?クリスタル帝国皇帝よ。」



皆が、最近騒がせ、皇帝を失い、新たに新皇帝となった第一皇子のオーシャン=クリスタルを見る。



オーシャンは周りを見ながら言う。


「・・・・・確かに。今我々は4つある国の一つ。本国を占領・・・・・いや、滅ぼされたのは事実だ。」



ザワッッッッッッッ!!!!!!



ざわめきが起きるが、オーシャンは構わずに続ける。


「もちろん。奪還する為に、軍隊を派遣した。しかし、あそこにいる魔物達は恐ろしく強い。・・・・・我々の兵はことごとく敗れ、殺されるか逆に魔物にされるかだった。」



その話を聞き、シュバインが補足する。


「我々冒険者も調査目的で上陸しましたが、オーシャン様が言われた様に、そこにいる魔物達はこの世界のダンジョンにいる魔物とはあまりにもレベルが違ってました。

・・・・・私が思うに、一番レベルが低い魔物でも、高レベルダンジョンのボスレベルかと。」




ザワッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!




ざわめきが更に多くなる。




「という事は、中から大の魔物などは、未踏破ダンジョンのボスレベルだというのか?」



「いや、もっと高いかもしれん。」



「そんな魔物達を殲滅など出来るのか?」



「しかし、放置する事も出来んし・・・・・。」




ダンッッッッッッッ!!




テーブルを叩く音で、周りは一度静かになり、叩いた男、アルク帝国皇帝ガイルズ=レンベルを見る。


「・・・・・皆よ。シュバイン殿が言った様に、あと半年もしない内に、その魔物達がこの大陸へと上陸を始める。その最初の国がどこかは分からんが、その国も蹂躙されながら魔物に変えられて、どんどんと広がっていくだろう。

 今は、自国がどうというのではなく、我々の住むこの世界の事を考えて話し合おうではないか。それが、自国を守る事に繋がるのではないか?」



ガイルズが言うと、皆は黙って頷く。



ガイルズは思う。



・・・・・そうは言ったが、私も自国が一番大事だ。この星や世界の事など、あまりにも大きすぎて各国の皆もピンときていない事だろう。

私も正直、自国の民さえ助かれば、世界の事などどうでもよいとさえ思えてしまう。

おそらくそう思っている王達も多かろう。

だからこそ、各国が協力し合う事など出来るのか・・・・・。




すると、各国の代表と側近しかいない大きな会議場の扉が開き、一人の美しい女性と執事が入ってくる。



コッ。コッ。コッ。



その女性は真っすぐに、皆の座っている大円卓の前まで来ると言う。



「各国の皆様。ごきげんよう。私はケイトと申します。ある青年に頼まれてここへと来ました。」



そう言うと、ケイトは片手を上げると大円卓の中央に巨大な魔法鏡が突如現れた。



ケイトは続ける。



「・・・・・この魔法鏡は、今、同時に全ての国の主要都市に出現させています。・・・・・いいわよ。レイ。」




すると、その巨大な魔法鏡から一人の青年が映し出された。



ガタッ!!



その映し出された人物を見た瞬間に、アルク帝国皇帝が反射的に立ち上がる。



そしてアルメリア国王も同じ様に立ち上がる。



その青年は話始めた。



「・・・・・え~・・・・・皆さん、こんにちは。僕はレイ=フォックス。またの名をゼロといいます。突然に迷惑だと思いますが、頼みたい事がありましたのでこの魔法鏡を使わせてもらいました。」






---------------------------------------------




「お兄ちゃん。」



アルメリアの王城の謁見室に映し出された兄の姿を見てカザミは呟く。




「ゼロ。・・・・・相変わらず面白い事をしているわね。」



【天使と悪魔】のトップ。イールが街の大広場の中央に映し出されている魔法鏡を、近くのカフェでくつろぎながら見ている。




「レイ様・・・・・。」



西の海の底。人魚の国で王女ミーシャが魔法鏡を見ながら青年の名を呼ぶ。




「・・・・・レイ殿。」



遥か天空。天界にある国『エデン』。

その国王カイシス=ヘンギスが突然現れた魔法鏡を見ながら呟く。




----------------------------------------------






レイは続ける。



「今、この姿を沢山の人達が見てくれてると思います。おそらく後で皇帝や王様が皆さんに説明すると思いますが、先に言わせてもらいます。

 今、この世界は大変な事に巻き込まれています。・・・・・・その巻き込んだ元凶を倒さないと、もしかしたらこの世界は滅んでしまうかもしれない。

 だから僕は行こうと思います。その元凶を倒しに。・・・・・・僕は世界を救おうだなんて高尚な気持ちを持ってるわけじゃないんだ。

皆さんも身近にいると思います。

肉親。友達。知り合い。そして・・・・・愛する人。僕は身近にいるそんな人達を危険な目に合わせたくない。・・・・・それだけです。

・・・・・僕は今から四か月後のこの時に、滅んでしまった『クリスタル帝国ファースト』の大平原【テルマ】に立ちます。その時に、少しでもその元凶の元に行ける確率を上げる為に・・・・・・・・。」



青年は深々と頭を下げる。



「僕に力を貸してください!」




・・・・・・。



・・・・・・。



・・・・・・。



・・・・・・。




全世界で突然現れた魔法鏡の近くにいる人達は、何を言っているのか分からない、その青年の言葉を聞いて、誰も何も言わずに聞き入っていた。



青年は頭を下げながら続ける。



「この魔法鏡は、各国の代表の人達が見ていると聞いてます。・・・・・これは勝手に僕が決めた事です。それぞれの国の思惑があると思います。

 だからもし、これを聞いて協力が出来ないとしても・・・・・お願いです。必ずこの元凶は世界を『クリスタル帝国ファースト』と同じ様にしていきます。

 その時は、国民を・・・・・愛する人達を守ってください。・・・・・以上です!長々とすみませんでした!・・・・・それじゃ!!」



そう言うと、レイの姿は消え、同時に魔法鏡も煙の様に消えていった。




・・・・・・。



・・・・・・。



・・・・・・。




世界会議が行われている会議場は静まり返っていた。



すると、オロプスの国王レギアスが立ち上がり言う。



「我々、『オロプス』はオロプス国にいるシュバイン、アッシュ率いる冒険者達と共に、レイ殿が言っていた日に参戦しようと思っている。・・・・・これは各国の自由だ。好きにすればいい。・・・・・だが、仮に我々が参加するこの戦いが敗れたら、自分の国がいつかは標的になる事だけは頭に入れておくのだな。」



すると立っていた、アルク帝国皇帝ガイルズ=レンベルが、後ろで控えているエリアス=ノートを見て言う。



「帰るぞ。」



「ハッ。」



ガイルズは、レギアス王に何も言わずにそのまま会議場を後にする。



「・・・・・皇帝。どうするのですか?」



後ろに付いて歩くエリアスが聞く。



歩きながらガイルズが言う。



「フッ。・・・・・・レイ殿が立ち上がるのなら、迷う事などないだろう。帝国民ももし見ていたのなら同じ気持ちだ。・・・・・エリアス。帝国を守る部隊のみを残して、全部隊を出撃させるぞ!」



「ハハッ!!!」



ガイルズの顔に迷いの顔はもうなかった。




「・・・・・時間だ。私も帰らせてもらおう。」



そう言うと、アルメリア国王、ヒッキ=クラウス=アルメリアが付き添っている【アルメリアの盾】将軍サイクスを連れて出口へと歩いて行った。



サイクスが言う。



「どうするんだ?」



「ハッ・・・・・親友が妹や友を守る為に行くっていうんだ。・・・・・俺達、親友が行かないでどうするんだよ。」



「だな。」



二人はレイの言葉を聞いた瞬間に心に決めた。



今度こそ・・・・・今度こそ、絶対に友を守ると。



そう思いながら二人は会議場を後にした。




・・・・・・。



・・・・・・。



ガタッ。



ガタッ。





アルク帝国とアルメリア国が席を立った後、続々と他の国の代表達も立ち上がり、会議場を後にしていく。




皆、何も語らずに。




レイ=フォックスはトップクラスの冒険者として名前くらいは知っていても、世界一の傭兵【シルバーアイ】のゼロはほとんどの国が知っていた。



何故なら、依頼をした事のある国は少なくないからだ。



そしてその強さも・・・・・・。






各国の代表は、帰国すると、すぐに国民に説明し、緊急会議を開いたのだった。







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